都会からローカルへの移住という選択肢
昨今、特にコロナ禍を経て都会からローカルへの移住という選択肢が広がってきている。これまでは職住近接(働く場所と住む場所が近いこと)が生活する上でのベースであったが、リモートワークの普及でどんどんその傾向が変わってきている。
ちなみに私も直近調査してみたが、昨年時点でも国内で在宅勤務を行っている人の割合は約4割近くいて、これはコロナ禍の影響が残る2022年と比べてもほとんど変化がないという結果に驚きもした。
こうした状況を踏まえると、その延長線上にある選択肢として、住まいごと都会を離れる移住という選択肢になるのはある意味自然な流れともいえる。
特にその中でも自身の出身地に帰るUターンではなく、縁もゆかりもなかった地への移住という選択をしている人も少なくない。
そこで今回は、こうした移住を果たした人が、決断に至った要因について調べてみた。本稿では、国内で人口が増加しているある村への移住者たちからヒントを探っていったので紹介したい。

国内でも珍しい『人口が増加している村』への移住者に迫る
その村とは長野県原村である。長野県のちょうど真ん中あたりに位置し、八ヶ岳の麓に広がる山間エリアにある。
村なので人口の総数こそ多くはないが、原村の人口は2016年:7633人→2024年:7900人(いずれも住民基本台帳ベース)と約10年で約3.5%増加している。多くの国内の自治体がこの10年で数十%人口が減少する中、長野県内でも人口が増加している自治体は軽井沢をはじめ数えるほどしかない貴重な存在だ。
では、なぜこの村で人口増加が起きているのか。実際に訪れてみるとわかるが、原村は決して利便性の高い村とは言い難い。「原村」という電車の駅が存在するわけでもなく、飲食店の数も限られている。商業施設も決して多くはない。それにもかかわらず、なぜこの村に移住する人が多いのだろうか?
そこで、原村への移住を決断した人の具体的な背景にせまってインタビューをしてみた。
「何もない」村だからこそ移住した、そこが決断理由
今回は、原村に移住した11人の移住者に話を聞いた。対象は、Uターンや転勤ではなく、自身の決断で生活の拠点を選び、全国の中から原村を移住先として選択した人に絞っている。
インタビューではまず「なぜ縁もゆかりもなく、利便性や商業施設も決して充実しているとは言えないこの村で、今後の生活を送ることを決めたのか?」という率直な問いを投げかけた。すると思いがけない回答が返ってきた。
表現こそさまざまだが、多くの人が口にしたのは「何もないからこそ、ここを選んだ」という言葉である。
この言葉の背景を整理すると、彼らが目指しているのは「生活空間の逆転」であることが見えてきた。
都市部での暮らしは、日常を「働くために最適化された時間・空間」とし、休日に移動してリトリートを行う構造になりがちである。一方、原村への移住者が描くのはその逆だ。日常そのものをリトリート空間とし、働くときだけ、必要に応じて適した場所へ移動するというライフスタイルである。
こうした価値観があるからこそ、「何もないこと」自体が、この村を選ぶ決定的な理由になっていたのである。
個人的には意外な結果でもあったが、このライフスタイルを逆転させるという発想は非常に興味深い。実際、話を聞いた人の多くはリモートワークが可能な企業に勤めている、あるいは場所に縛られない職能を持っており、直近までは東京、横浜、名古屋といった都市部に住んでいた人たちだった。このライフスタイルの逆転を望んでいる層が、すでに一定数存在していることに驚いた。
実際の声の一部を挙げると、次のような言葉が聞かれた。
「森の中に住みたい」
「開けた場所で、森の中ほど鬱蒼とはしていない」
「せっかく住むなら、家が密集していない所が良かった」
「便利過ぎてもそれは以前住んでいた都市と変わらない」
ライフスタイルを逆転させたことで生まれる生活の中での幸福とは?
では、こうした移住者に現状について聞いてみた。「日常が逆転した空間に実際に住んでみて、どのように感じているか」という問いに対しては、次のような声が寄せられた。
「家に帰りたいと思う気持ちが都会にいた頃の100倍」
「隣の家が都会ほど密集していない快適さ」
「自然のリズムの中で幸せを実感しながら生きていけるようになった」
「帰った時の居心地、笑顔、見える景色、この地に存在しているという実感。別荘の時とは違う。東京では寝に帰っているイメージだった。さらに充電できる。」
「飲み屋が少ない分、家で家族ぐるみのつきあいになるのが楽しい」
「無駄に疲れない。窓から四季が静かに楽しめる。元気になる」
これらの声からは、「何もない村」での暮らしがもたらす時間と空間の質そのものに、高い満足を得ている様子がうかがえる。
もちろん、どのような空間で、どのような時間を過ごしたいかは人それぞれであり、こうした暮らし方を一概に勧めるものではない。しかし、人口減少が進むこの時代に、都市部からあえてこの村を選び、結果として人口増加が起きているという事実が存在している。その背景には、現代人のライフスタイルや価値観の変化が確かに表れているように思える。本稿を通じて得られたこの気づきは、今後も継続して追っていきたいテーマである。
寄稿者 森成人(もり・なるひと)㈱リクルート じゃらんリサーチセンター 研究員