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Facebookアカウント名はコンセプトが大事 -フォロワー5,000人が教えてくれた地域発信の可能性-

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多くのローカル鉄道では、利用者の減少によって経営環境が年々厳しさを増しています。民間事業者である以上、採算が合わなければ廃線が議論されるのは避けられません。一方で、鉄道は単なる移動手段ではなく、地域の日常を支える「生活の一部」でもあります。路線が失われることは、移動の不便さ以上に、暮らしの選択肢が減っていくことを意味します。直面する切実な課題は、「いかに利用者を増やすか」。観光であれ、日常利用であれ、まずは“乗ってもらう”こと。そこからしか、次の議論は始まりません。

木次線沿線を“面”で伝えるために始まったFacebook

島根県松江市から南へ、雲南市、奥出雲町を経て、広島県庄原市へ。JR西日本・木次線は、中国山地を縫うように走るローカル線です。この沿線地域の魅力を広く伝え、ファンを増やすことを目的に、2024年2月に立ち上がったのが、Facebookページ「出雲の奥に ~松江・雲南・奥出雲・庄原を訪ねる~」です。

▶出雲の奥に ~松江・雲南・奥出雲・庄原を訪ねる~

https://www.facebook.com/MatsueUnnanOkuizumoShobara

開設当初は、このFacebookは、JR西日本と日本旅行が連携し、木次線の利用促進及び沿線の周遊観光の活性化を目的とした取り組みの一環として運営されていました。そして、情報発信を重ねる中で、少しずつ変化が生まれていきます。投稿に共感する人が増え、コメントが交わされ、やり取りそのものが楽しみになっていく。「伝える」から「つながる」へ。ページは次第に、地域と人を結ぶ“場”として育ちはじめました。

そして令和7年度からは、松江・雲南・奥出雲・庄原の4市町で構成される協議会が運営を担うことになります。良質なフォロワーが数千人規模まで増え、確かな手応えが生まれたことで、自治体側が主体的にバトンを受け取る流れが自然に生まれたのです。これは、Facebookが適正に機能したことで、情報発信の場が「業務」ではなく、人と人をつなぐ本来のSNSとして機能し始めたことの表れだといえます。

「出雲の奥に」という名前に込めた意味

このFacebookのアカウント名には、二つの意味が込められています。一つは、出雲国の出身で、歌舞伎の始祖とされる女性芸能者・出雲阿国へのオマージュ。もう一つは、松江城や宍道湖で知られる松江から、さらに奥へ、雲南、奥出雲、庄原へと足を運んでほしいという願いです。

観光地として“点”で知られる場所は多くあります。しかし、その点と点のあいだに広がる日常や文化、人の営みは、なかなか表に出てきません。木次線沿線を一つの「物語」として編み直し、日々の風景とともに届けていく。そのためのメディアとして、このFacebookページは設計されています。

ファンにフォローしてもらい、日常を届けるという発想

木次線沿線に限らず、日本各地には固有の歴史や文化があります。それらを単体のイベント情報として扱うのではなく、継続的に発信し、共感を積み重ねていく。「出雲の奥に」では、観光スポットだけでなく、沿線の暮らしや人の表情が丁寧に紹介されています。Facebookというメディアの特性もあり、比較的長い文章でも読まれ、コメント欄では思い出や感想が自然に交わされていきます。情報を届けるだけでなく、関係が育っていく。その空気感こそが、この取り組みの価値だと感じます。

留学生が伝えた、もう一つの奥出雲

奥出雲町にある専門学校で学ぶ留学生たちも、この取り組みに参加しました。彼らは、日本での留学生活の中で出会った奥出雲の日常を、自分自身の言葉で綴り、日本語と母国語の両方で発信しました。

たとえばネパールから来た学生は、仙台での都市生活を経て奥出雲に移り住み、自然に囲まれた環境や整備された道路、トンネルのある暮らしに驚きと心地よさを感じたことを綴っています。「ネパールの故郷を思い出す」「ここで学べることが夢のようだ」という言葉からは、奥出雲での生活を前向きに受け止めている様子が伝わってきます。その投稿には、日本国内だけでなく、母国ネパールからも多くの「いいね」やコメントが寄せられました。地域の日常が、国境を越えて誰かの心に届いた瞬間でした。

外から来た若者が、暮らしの中で感じたことを、自分の言葉で語る。その視点は、観光パンフレットよりも雄弁に、地域の魅力を伝えてくれます。

5,000人を超えたフォロワー、その先へ

開設から約20か月で、フォロワーは5,000人を超えました。この数字以上に意味があるのは、「関わりたい」と感じる人が確実に増えていることです。令和7年度下期は、NHK連続テレビ小説「ばけばけ」の舞台として松江が注目されてきています。その流れの中で、松江を訪れた人が、さらに木次線に乗って雲南、奥出雲、庄原へと足を伸ばす。そんな動きが、現実のものとして見え始めています。Facebookでの継続的な発信は、こうした行動変化を、静かに後押しします。

コンセプトにあったファンを一人ずつ作っていく

この事例から見えてくるのは、Facebook運用における「アカウント名」と「価値共有」の重要性です。投稿に「いいね!」をした人がページをフォローするかどうかを決めるのは、そのFacebookのアカウント名がどんな世界観を語っているかにかかっています。「出雲の奥に」という名前は、地域が大切にしてきた時間や空気感を、そのまま言葉にしています。だからこそ、その価値に共鳴した人だけが集まり、結果としてロイヤリティの高いフォロワーが育っていきました。

アカウント名にこうしたコンセプトや思いを明確に打ち出すことは、その考え方に共感した人だけが集まる場をつくる、という意味を持ちます。フォローするという行為そのものが、「この世界観に共感している」という意思表示になるからです。そうした関係性ができていれば、イベントの案内やモニターツアーの募集なども、無理なく自然にフォロワーに届いていきます。

京都や北海道、沖縄をイメージしていただければ理解しやすいと思いますが、観光地としての認知がすでに高い地域では、組織名そのものがブランドとして機能します。一方で、多くの地域では、まず「どんな場所なのか」「どんな価値があるのか」を伝えるところから始めなければなりません。

観光マーケティングの本質は、すでにファンである人ではなく、まだ関心を持っていない人に、どう自然に振り向いてもらうかにあります。そのためには、組織名や地域名を前面に出すよりも、価値観や世界観を丁寧に提示していくことが有効です。「出雲の奥に」のFacebookは、その考え方で成功している一例だと思います。特別な仕掛けがなくても、コンセプトに共感した人が一人、また一人と集まっていく。その積み重ねが、結果として地域との持続的な関係をつくっていきます。

寄稿者 菅原豊(すがはら・ゆたか)クロスボーダー㈱ 戦略PRプロデューサー

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