前回(https://tms-media.jp/posts/2646/)では、新型コロナ対応での観光需要喚起策での「デジタル地域通貨」の仕組みを活用した事例(岐阜県「ぎふ旅コイン」、富山県「とやマネー」)を紹介しました。
デジタル化に伴う、クーポンやポイント配布などの事業の運用業務の大幅な効率化や、お知らせ配信などを中心としたコミュニケーションの高度化などの効果があることを述べましたが、今回は継続的な効果について提示していきます。
まさに、せっかく事業費を投入して導入した仕組みを、一過性の事業で終わらせるのはもったいない! ということです。
そもそも、デジタル地域通貨の特徴の一つであるスマートフォンアプリは、単アプリのインストール〜ダウンロード〜登録が必要なため、単発的な利用シーンにはあまり向いておらず、日常(リピート)利用やリレーションシップマーケティングでの活用に適した媒体です。
また、ベースとなっている「デジタル地域通貨」の仕組み自体が、一過性の事業ではなく、持続的に運営することで提供価値が増幅していくものです。
それぞれ、言い換えると「狩猟型」ではなく、「農耕型」の(上から目線の表現で、私は好みませんが)「囲い込み」のマーケティングツールであり、「観光」分野においての活用でも、そういった特性をしっかりと理解した取り組みが、極めて重要になってきます。
2021年10月からスタート(当時は「県民割」事業)した「ぎふ旅コイン(岐阜県)」では、2年近い運用の中で、すでに100万に迫るユーザーの登録があります。
大規模なインセンティブ(ポイント)が登録のきっかけではありますが、アプリをインストール・ダウンロード・登録いただいた100万に迫る規模のユーザーと、自らが保有するメディア(アプリ)を通じた接点を継続させることで、集客(広告・宣伝)を効率的に行うことが可能になり、従来の地域プロモーション活動にも大きな変化(インパクト)が期待されます。
「ぎふ旅コイン(岐阜県)」では、本年度、「デジタル地域通貨」の仕組みを活用した新しい取り組みとして「プレミアム付観光商品券」事業を開始しました。約17,000の応募の大半が、既存ユーザーへのアプリでのお知らせ通知など経由での応募となっており、集客効果はとても大きいです。
前回紹介した、スタンプラリー機能などを活用したキャンペーンも同様であり、この既存ユーザー基盤を活用することによる集客の効率化は、中長期的に効いてきます。
また、定期的にユーザーに対してアンケートを実施しており、既存ユーザー基盤のお陰で、アンケートによっては2万以上の回答数もありました。
これらのアンケートは、純粋な旅行者の意向や満足度などの調査という目的もありますが、以下のような派生した効果も期待されます。
(1)既存ユーザーとの関係性の維持
既存ユーザー基盤の効果を享受し続けるためには、ユーザーとの接点を継続的に保持し続けることが肝です。情報の配信(コンテンツマーケティング)が王道ではありますが、継続した頻度でコンテンツを生成し続けることは、ハードルは高いです。また、作り込まれた情報を読む、という受動的な関係性だけでなく、”アンケートに回答する”というアクションや、自らが回答したアンケートの結果共有などを通じて、自らも参加しているという関係性に変化させていくことが、別の施策での(集客)反応率の変化にも相関が見られます。
(2)アンケートを通じた情報配信
懸賞付アンケート(例:回答者のうち抽選で5名さまに飛騨牛プレゼント など)での賞品や、アンケートの設問を工夫することで、地域の産品や観光情報を知らしめる(広告宣伝)効果もあります。アンケートに回答する行為を通じて、情報を配信していく手法です。
このように効果を列挙していくと、バラ色の万能薬のように思えてくるが、そう簡単にいかないのが世の常です。
最大の難点は、これらの取り組みを持続的に弛まずPDCAを回しながら継続していくことです。小手先の施策ではなく、組織文化、方針、人材、予算配分などの基本設計から取り組む必要があり、なかなか容易ではないケースもあります。
弊社が取り組む「デジタル地域通貨」事業でも同様で、現在進行形で直面し、壁にぶち当たり、乗り越えようと努力を重ねていますが、その中での失敗や学びについて、またの機会に筆を執ろうと思います。
寄稿者 川田修平(かわた・しゅうへい)㈱フィノバレー代表取締役社長