オリックスグループの運営事業を担う会社として、全国各地で多種多様な旅館・ホテル・研修施設の運営をしているオリックス・ホテルマネジメント(OHM)。現在は、インバウンド客を獲得するほか、「佳ら久」など旅館ブランド、「CROSS HOTEL」などホテルブランドを成長させている。同社の似内隆晃社長に、コロナ禍を経て、今後はどのような事業展開を描くのかを尋ねた。
――2023年を振り返って。
想定以上にインバウンドが戻り、旅館・ホテルの稼働はコロナ禍前を超えるほどまで回復した。コロナ禍では、インバウンド客の比率が高いホテルは特に苦慮したが、旅館は国内のお客さまが中心で、日本の方は特に温泉好きということもあり、稼働率を40~50%くらいでキープできるなど、ある程度維持できた。お客さまの戻り状況で言うと、旅館よりもホテルの方が急激に戻ってきたと言える。
物価高ではあるものの、円安によるインバウンドの急増を背景に、コロナ禍前よりも宿泊料金を上げやすい環境であり、その料金を受け入れてもらえる環境が整っている。
一方、業界全体の課題ではあるが、人手不足の影響はある。当社ではチェーン化していることもあり、施設間の人のやりくりや、省人化の取り組みなどにより、コロナ前と比べて少ない人数でも運営できるような体制をなんとか整えている。今は80%くらいの稼働を目安にしながら、単価を重視した運営に切り替えて、質の良いサービスを提供できるようにしている。
――単価の上り幅について。
他社を含め、アクセスのよい立地にあるビジネスホテルのジャンルでは、緊急事態宣言下での料金はあってないような数千円という設定だった。今は、その時と比べて2倍~3倍くらいの勢いにある。私たちが展開している札幌、大阪、京都にある「CROSS HOTEL」では、コロナ禍前はビジネスでのおひとり利用が中心で1万円くらいだったが、今ではインバウンドのレジャー需要が中心であるため2万円くらいの設定となっている。
――インバウンドの受け入れ状況は。
コロナ禍前は中国からの団体のお客さまが多かったが、その部分は戻っていない。今は、それ以外のアジアの国のお客さまが増えている。今後もこの比率は伸ばしていきたい。エリア別でいうと、箱根では、「箱根・強羅 佳ら久」「箱根・芦ノ湖 はなをり」の2施設を展開しているが、これらはずいぶん欧米のお客さまが増えた。コロナ禍前に比べて旅館のインバウンド比率が上がったのは特徴的で、従来は多くても20%くらいだったが、今は箱根だと40%くらいがインバウンドのお客さまという日もある。私たちの営業の手法の影響もあるが、インバウンド比率は高くなっている。ホテルだと、クロスホテル大阪ではインバウンド比率が80~90%となっている。
インバウンドは、早期予約や平日予約の確保といった良い点もある一方で、世界で紛争が発生するなどで、飛行機が飛ばなくなった際にはコロナ禍のように客足が止まる。突如としてインバウンドが止まることは、事業リスクとして考えなければならない。
――2023年のトピックスは。
新規として、12月2日には当社が展開する事業ブランド「ORIX HOTELS & RESORTS」のラグジュアリー旅館ブランドである「佳ら久」を熱海・伊豆山でオープンした。料金は、1人あたり1泊2食付きで5、6万円~くらいで設定している。既存の強羅にある同ブランドの「箱根・強羅 佳ら久」のお客さまにもお越しいただいており、概ね満足していただいている。次の開業は2025年の別府温泉 杉乃井ホテルの新棟「星館」でしばらく先になるが、今後は既存施設のオペレーションをしっかり行い、ファン作りに注力したい。
――コロナ禍で行っていた感染症対策はどうしているか。
「三密回避」「衛生管理」「従業員の健康管理」といった、旅館・ホテルなどの運営施設で適用していた独自のコロナ禍における運営・サービス指針である「クレンリネスポリシー」は2023年5月8日に廃止し、現在はアフターコロナのサービス指針を定め、運営している。現在でも施設での衛生管理を気にされるお客さまは多いため、調理や料理など食事関連のサービスを行う部門ではスタッフの任意にはなるがマスクを着用するなど、状況に応じてお客さまに安全・安心に施設をご利用いただけるようにしている。
――2024年の事業展開について。
マーケットとしては良い状況が継続していくと考えている。2025年に開かれる大阪・関西万博を含めて、日本の観光は海外の人から見ると魅力的に映っているように思う。インバウンドについては、円安の影響が一番大きく、為替の動きで若干左右されることはあるかもしれないが、しばらくは追い風が続くものと見ている。
受け入れにおいて大事なことは、満足していただくこと。人手不足は言い訳にならず、質の高いおもてなしを行い、施設の評価を上げることを意識しながら取り組んでいく。今、料理やサービス面など、多くを見直している。来訪者が良い印象を持ち、良い評価をいただいたり、良い内容のクチコミを書いていただいたりすると、来館の動機につながる。
コロナ禍を経て多くの人が足を運ぶようになった今こそ、丁寧にサービスを提供して評価をいただくようにしなければならない。
――評価の基準はどこで図るのか。
クチコミなどをもとにスコアリングする外部サービスなどを取り入れ、統一基準で全施設を評価していて、顧客満足度(CS)について話し合う会議を毎月開催し、改善点を本部と各施設の間で確認するようにしている。各施設には、日々お客さまからのコメントやクチコミなどが入ってくる。その返信をしながら日々の改善を徹底している。これを実直に継続することが大切だと思う。
――人材教育で気を付けていることは。
私たちは、最後発のチェーンオペレーターであり、先を走っている会社と比べて研修制度などでまだ足りない部分があると感じている。コロナ禍では、他社をしっかりと研究してきた。例えば、リーダーやマネージャーなどを目指すために必要なプログラム策定やその育成体系の見える化をしていかなければならない。
――どのようなスキルを上げるのか。
業務にかかわるスキルは多岐にわたる。業務スキルを整理し、プログラムを整備していきたい。例えば調理のスキル。料理人が競い合うことが必要だと思うが、今は単館の取り組みで終わっていることが多い。各施設の料理長同士が情報共有していく必要がる。「あそこの旅館ではこういうものを作ってかなり評判が高いから、こちらではそれをベースに地元野菜をアレンジして上回るものを作ろう」など、交流を活発化していく。
――DXについてはどう考えるか。
斬新にオペレーションを変えるというところまでいかないとDXとは言えないと思うが、省力化、デジタル化はテーマ出しをしながら取り組んでいる。まずは人手不足に対する、効率化、省力化が必須だ。
例えば、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのオフィシャルホテルであるホテル ユニバーサル ポートでは、以前はチェックイン前にお客さまが受け付けカウンターに来られて荷物を預けてパークに遊びに行かれることが多かった。預かった荷物は管理が必要となり、お客さまのお戻りにあわせて荷物の部屋入れをしていた。これだけでも多くの人手が取られていたため、今では思い切って鍵付きのロッカーを設置し、お客さま自身に入れてもらっている。これにより、オペレーションは大きく改善され、さらに受け付けの待ち時間の解消にもつながり、お客さまにも評価をいただけている。
また、自動チェックイン、チェックアウトの機械を入れた。事前にお客さまに必要事項をスマートフォンで入力していただき、QRコードの提示だけでチェックインができるようにしたい。実現すれば、チェックインが多い時間帯での慌ただしさもなくなる。お客さまのストレスがなくなるオペレーションの実現を目指していきたい。
――今後、人が介する場所はどこか。
レストランでの対応のほか、困りごとや、行き先のご要望を聞くなど、お客さまのニーズにいかに寄り添えるかが重要。ホテルで働くスタッフには「付かず離れず」と言っている。状況によっては寄り添ったサービスがご負担になることもあり得る。かといって、遠すぎると何もサービスがなくなる。お客さまの様子を伺い、手伝いが必要であればしっかりとサポートできるような距離感でサービスをしてほしいと常にスタッフに伝えている。そこを全ての旅館・ホテルで均一にすることは大変だ。だが、そこを目指していく。
――中長期の計画について。
今後、運営する旅館・ホテルの数は増やしていきたい。今は直営で約4400室、MC方式:第三者に運営を委託(マネジメントコントラクト)を含めて約6000室あるが、1万室ぐらいにはしたい。直営のクロスホテルで言うと、拠点として新たにほしいのが東京、福岡だ。旅館は有名温泉地への出店を増やしたい。箱根や熱海には展開しているが、今後は「佳ら久」や「はなをり」といった自社ブランドを認めていただき、運営受託という形でも出店を狙っていきたい。現在、私たちの運営施設は、オリックス不動産で開発するものと外部のオーナーからお借りするものがあるが、情報は常に集めている。自社ブランドの認知が進み、評価が得られれば、外資ホテルオペレーターが行っているように運営受託施設を増やすことができる。これが実現すれば、出店のスピードは上がっていくと思う。
――海外展開については。
今は日本の拠点ネットワークをしっかりと作り、ブランド認知を向上させるというステージにある。私たちは、温泉旅館の運営に強みがあると思っているが、当面は日本での自社ブランドの旅館やホテルの展開をしっかりと拡充していく。
――最後に、地域の活性化に関する取り組みについて。
コロナ禍の3年間において、地域共創活動を地道に行ってきた。各旅館・ホテルに地域共創担当者を配置し、施設オペレーションの一部と位置付けている。継続していくことが将来大きな価値になると考えている。当初は施設マネージャーの理解が進まず、忙しいのにこの活動に何の意味があるのかといった反発もあったと思うが、いまは定着段階に入ったと感じている。旅館・ホテルのコンシェルジュ機能の延長にある活動でもあり、しっかりと地域共創担当者の評価していきたい。
お客さまにとってはホテルの滞在だけが楽しみではないはずだ。例えば、大分・別府の場合、北浜や鉄輪などユニークなエリアが多数ある。施設側が地元体験ツアーを企画するなど、施設の魅力プラスαの提案をして、地域の人たちと一緒に地域全体のプロモーションを行っていくことに大きな価値があると思う。地域とは互いにありがとうという関係になることが一番良いし、地域が経済的に潤えば回りまわって施設のプラスになると考えている。
※似内隆晃(にたない・たかあき)1967年2月24日生まれ。89年4月オリックス㈱入社。2003年3月高知支店長。08年10月横浜支店長。09年3月戦略営業部長。12年5月グループ広報部長。17年4月オリックス不動産(株)専務執行役員。19年1月グループ執行役員、オリックス不動産㈱取締役副社長。20年1月オリックス不動産(株)専務執行役員。20年4月からオリックス・ホテルマネジメント㈱取締役社長に就任。
聞き手 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通