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躍進目覚ましいモロッコ王国の観光(1)、世界最大の迷宮都市フェズを歩く

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 2019年に海外からの観光客数が1300万人を超え、北アフリカ最大の観光立国となったモロッコ王国(首都ラバト)。人口は3700万人余、面積は44.7万㎢で日本の約1.2倍、主たる産業は農業、手工業、鉱業などだが、最近は、観光開発による発展が著しい。

 何より、全国に張り巡らせた近代交通施設の整備状況は、すでにグローバル・スタンダード。空港は全土に27、玄関空港はモロッコ最大の経済都市カサブランカのムハマンド5世空港で、欧州、南北米、中東、アフリカ諸国から多数の航空便が乗り入れる。鉄道はONCF(モロッコ国鉄)が国内主要都市へ急行列車を走らせ、フェズとマラケシュを約8時間で結ぶ。2018年には北の玄関口タンジェから南の玄関口カサブランカ間323㎞を約2時間で結ぶ「LGVモロッコ」と呼ばれる超高速鉄道が開業し話題を呼んだ。道路は、主要都市間を時速100㌔制限の高速道路が隈なく整備され、商用に観光用に輸送の主力を担う。

 モロッコには、すでに9つの世界遺産が登録され、すべてが文化遺産である。イスラムの文化を昇華させた建築、城門、王宮、離宮など、見ごたえのあるイスラム建築の粋は旅人を魅了して止まない。モロッコでイスラム伝統の活気に満ちた異文化体験の旅は、人生のまたとないハイライトとなろう。

メディナの迷路はすべてスーク。あらゆる商品が所せましと並べれている

まさに迷宮 道は広くなり、狭くなり、左右に分かれ、行き止まりに

 8世紀末にイドリース朝のイドリース1世がフェズ川の西岸に、そしてイドリース2世がフェズ川の東岸に建設した堅固な城塞都市が、「フェズ・エル・バリ」と呼ばれるフェズの原型であり、現在も観光名所のほとんどがフェズの旧市街「フェズ・エル・バリ」にある。  

 フェズの歴代帝王は、よほど外敵からの防御に意を注いだようで、古都の外周を囲む城壁と東西南北に建設された城門によって、しっかりと守られている。しかも街の中心に向かって要所要所に中門と土塀が張り巡らされ、敵の侵入を二重三重に食い止める都市構造を持つ。幾つもの城門を通り抜けるかと思えば、道の両側に商品がうず高く積まれたメジナ(旧市街)の公道は、広くなったり狭くなったり、いきなり左右に分かれたり、行き止まりになったりで、フェズの街歩きは驚異の連続となる。

スークの中でもツアー客に大人気の金物専門店。思わず立ち止まってしまう

鮮やかな色彩の洪水、メジナのスークの賑わい

 さあ、メジナの中に飛び込もう。外郭城門を潜り抜けると、主道も側道もスーク(専門商店街)の連続で、商人の呼びかけがすさまじい中、重荷を運ぶロバの隊列に身をかわすことの繰り返しで、初めは誰でも疲労困憊するであろう。メジナのスークは、鍛冶屋、宝石屋、靴屋、粉屋、仕立屋、絨毯屋、鞣し皮屋、金属器屋、香料屋、食材屋と職業ごとのブロックを形成し、あらゆる職人さんが店で客相手をしているかと思えば、店の奥で手仕事に余念がない。どのスークにも色彩やかな品々が所狭しと積み上げられ、商品の豊かな色彩と物量によって道行く人々を幻覚に誘う。

荘厳な雰囲気のブー・イナニア・マドラサ(神学校)

 フェズはまた、イスラム帝王が精魂込めて建てた文化財、史跡、建築の数においてモロッコの中で群を抜く。カラウィーン・モスク(世界最古の総合大学)、ブー・イナニア・マドラサ(神学校)、アッタリーン・マドラサ(神学校)、サヴィア・ムーレイ・イドリス霊廟など、幾何学模様のレリーフや色タイルで内部を装飾したイスラム建築の粋が、狭い小路に突然現れる。モスクや霊廟は市民の祈りの場であり、教育の場であり、安息の場であり、絶えず市民が集まって賑わう。

サヴィア・ムーレイ・イドリス霊廟とカラウィーン・モスクの中庭(左、世界最古の総合大学)

いざ往かん!古都の活気、イスラム文化が脈々と生きるフェズへ

 北アフリカの北西端に位置するモロッコ王国は、極東アジアから赴くには遠方の地域と思われてきたが、航空輸送の発達で飛行時間の節約が進んでいる。課題は、円安時代の海外旅行者に大きな負担とならない国際航空便との出会いが鍵となろう。宿泊や現地滞在費は、欧州に比して廉価なうえ、通貨もモロッコ独自の通貨(ディルハム)が常用されるので、日本からの旅行者には費用の負担感が薄れるだろう。1200年も続くイスラム圏最大の迷宮都市フェズ。迷路の中のスーク)に軒を並べて全市民が暮らし、学び、商い、憩う古都の活気は今も少しも変わらない。世界最大の美しくも活気あふれる迷宮都市フェズは、いつも貴方を待っている。

(2018年の現地取材及び2024年の現地情報に依る)

   寄稿者  旅行作家 山田恒一郎 (やまだ・こういちろう)

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