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インバウンドの功罪 序章~風土を創り上げるのは、誰~ 

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 1992年、元二戸市長の小原豊明氏が「宝を生かしたまちづくり」を提唱する。これは、地域外の人々()と地域の人々()が融合・攪拌することによって、新たな地域の宝物を発掘して文化創造できる。そして、まちづくりにつながり「風土」が生まれるというものである。

 小原 豊明氏(おばら とよあき、1940年生)は、元二戸市長。岩手県二戸市出身。1963年北海道大学農学部卒。同年厚生省に入省。国立公園部レンジャーを経て、1978年環境庁設立の参画に加わり、大気保全局に入局。1988年同局課長、1991年国立公園課長を務めたのち退職する。

 1992年二戸市長選に出馬し、現職市長との一騎討ちによる選挙戦を制し初当選を果たす。以来、2010年に後身に市長を譲り、5期約18年に渡り市長を務めた。環境庁時代には、雑排水問題や国立公園の入園徴収料構想に取り組み、釧路湿原などの湿原保護に一石を投じた。環境保護の専門家と言われている。

訪日外国人施策の歴史

 2003年、この年の訪日客数は約520万人。そして、政府はビジット・ジャパン事業を開始する。「2010年に1,000万人を目指す」というものであった。「別表」をご覧いただくと、紆余曲折がありながら、その数字は右肩上がりで進んできた。途中、リーマンショックや東日本大震災、そして、新型コロナウイルスというマイナス要因もあった。しかし、本年2024年は、3,300万人を超える数値になると予測されている。

 一方、来訪客数だけでなく、消費額で考えるべきという理論も提唱されてきた。そのため、2010年4月からは、訪日外国人の消費額も統計を取るようになった。初年度は約1兆1,500億円と推測される数値は、昨年2023年には約5兆3,000億円。そして、本年は7兆2,000億円まで膨らむと言われている。

訪日外国人の数値推移
別表「訪日外国人の数値推移」

訪日外国人がもたらしたモノ・コト

 まさしく、この二十年間に及ぶ訪日外国人施策にも合致する「風土」の創造、訪日外国人が日本国内に来訪し、新たな「風」を起こすことこそ、平成・令和の黒船の来航と言っても過言ではないだろう。

 訪日外国人は、日本人が忘れ去っている「国内観光」の良さ再認識させてくれる。しかし、これまでの日本の文化風習に合わない行動など、メリットとデメリットが交錯している。一方、外国人目線での日本人観光客にはない嗜好や価値、そのことを享受すべきどん欲さは、新たな宝物の発見にもつながっている。

 このようなモノ・コトを具現化してくれる訪日外国人をいかに取り込んでいくのか。このことが、各地域の地域振興、これからの試金石である。

 また、過度な観光客の増加は、いわゆるオーバーツーリズムを発生させている。宿泊施設の数や公共交通機関の利便性など、インフラ整備の不足がその問題と言われている。しかし、観光業界の永遠の課題である「平準化」も大きな問題となっている。

平準化とは、大きく分けて3つのカテゴリーに分かれる。

 ①  週末型と言われる観光特性からの脱却

 ②  桜や紅葉といった自然環境からの脱却

 ③  人気観光地の偏重による地域間格差からの脱却

と考える。

「曜日」からの脱却

 まず一つ目の「週末型」は、日本人の観光特性が週末型である。職業に就く大人の生活とその子供たちの学業の問題が大きい。平日は会社や学校があるため、旅行に出向くことができない。この問題を解決する手法は、観光業界だけでは難しい。

 しかし、訪日外国人は、遠方から来日し、一週間から二週間程度滞在する。当然、宿泊施設等にとっては、平日稼働を高めてくれる「良きお客様」である。昨今、平日の観光地は外国人ばかりと言われる。日本人がいない時間帯は、外国人比率が高まる。それ故、自ずとそう感じてしまうのである。

「季節」からの脱却

 次に自然環境を基にした季節性の問題である。日本人にとっても桜や紅葉などの鮮やかな木々を愛でることが人気の的である。これは、四季が存在しない地域の外国人にとっては、「一生に一度」は見てみたい景色なのだろう。特に、外国人にとって、憧れの的「満開の桜」は、ピンポイントのコンテンツである。当然、宿泊施設の宿泊単価も高止まり、一番の高額となる。

 しかし、東西南北に長い日本列島は、1月中下旬「沖縄」から5月中旬「北海道東端」までのロングランで、桜を愛でることができる。これは、地域間格差の解消にもつながるものと考える。

「地域」からの脱却

 そして、最後は、地域間格差の問題である。過去から訪日外国人の人気観光地は、東京から大阪のゴールデンルートと言われてきた。その結果、この中心である東京や京都に極端な集中現象を及ぼしてきた。

 しかし、その東京や京都においても、過度な情報を収集できる観光地とそれ以外では、訪日観光客の数は大きく違っている。昨今、岩手県盛岡市や山口県山口市がこれからの観光地という情報が発信されると、同地域に訪日外国人が増えているという結果も出てきている。そう考えると、観光に関わる企業・団体が情報発信方を変えることによって、新たな観光地創造は可能と考える。

課題解決、皆さまのご意見を・・・

 以上の問題を解決するのは、たやすいことではない。これらを簡単に解決できたら、「特許」が取れる課題である。

 TMSでは、訪日外国人の功罪を、業界の有識者である寄稿者をはじめとして、ご意見等を頂戴し、特集を組みこの課題解決の一助にしていきたいと考えている。問題提起ととらえ、是非とも、皆様方の知見をご披露いただけるよう、お願いしたい。

 新たな「風土」を創造するのは、誰だろうか。訪日外国人という黒船が一過性で創り上げるのではなく、真の「風土」づくりこそ、観光産業の未来を構築していくものだと考える。そのためには、準備を怠らずにしっかりと「土」を耕すことが大切ではないだろうか。

(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8

取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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