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 観光地域づくり法人(DMO)と天王洲アイル#4 ~リブランディング~

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 観光地域づくり法人として登録された、一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会が、天王洲アイルの観光を推進する地域DMOとしてどのように活動していくのか。そのプロセスやミッションについて、第4回目の連載になります。前回は、天王洲のアートフェスティバルから屋外アートを巡るツアーの造成や大型商業イベントによる来街者の増加によるまちのにぎわいを検証致しました。今回は、天王洲アイルの日常的な魅力を認知させるためのリブランディングについて紹介します。

京浜運河から見る天王洲アイルの風景(左)、開発当初に設置されたアート作品
京浜運河から見る天王洲アイルの風景(左)、開発当初に設置されたアート作品

トレンディスポット 天王洲アイル

 1985年、当時の新しい都市は、高層建築物が建ち並ぶコンクリートジャングルというイメージがありました。天王洲アイルの再開発では、そのイメージを払しょくするために街の中にアート作品を設置することで、文化の香りを漂わせ無機質なまちに潤いを与える都市計画になっていたのです。天王洲アイルの再開発スローガンは、「アートになる島、ハートのある街」となっています。開発当初からまちのなかに数々のアート作品が設置されました。そして、このまちは、東京の最先端複合都市として「働く・楽しむ・住む」の機能を備えたトレンディスポットとしてにぎわいましたが、湾岸地域や近隣に新しい都市が誕生するとにぎわいは消えました。

天王洲運河に浮かぶ水上構築物(多目的スペース)
天王洲運河に浮かぶ水上構築物(多目的スペース)

水辺のまちのリブランディング

 天王洲アイルは、オフィスの集積した無機質なまちになり、働く人にとっては、水辺の美しい景観やアート作品も日常的な景色となりました。2012年、寺田倉庫を中心に天王洲アイルの水辺の美しさをプロモーションする活動がはじまりました。この水辺は、駅に近いなど立地的なアドバンテージはありますが、東京湾岸には、素敵な水辺がたくさんあります。何か別の魅力を合わせて水辺の素晴らしさをアピールしならない。そこで、世界の主要都市の水辺は、人が集まりにぎわっていることに着目し、文化を感じる施設やアート作品があることを学びました。天王洲の水辺にも象徴的施設やアート作品があれば、人が集まるのではと考えました。

 その結果、寺田倉庫は2014年、天王洲の運河に浮かぶ水上構築物や運河沿いの倉庫をリノベーションして、多目的スペースをつくり、水辺に人がにぎわう場所をつくりました。さらに水上構築物やボードウォークにさまざまなアートを施し、アートをシンクロナイズさせることで、海外都市の水辺のにぎわいを創造させる水辺のリブランディングに挑みました。現在では、大型商業イベントや展示会等の開催会場にもなり、多くの来街者が訪れる場所に進化しています。

天王洲アイルの巨大壁画〈浅井裕介〉(左)、天王洲アイルストリートアート〈DIEGO〉
天王洲アイルの巨大壁画〈淺井裕介〉(左)、天王洲アイルストリートアート〈DIEGO〉 Photo by Shin Hamada

アートのまちのリブランディング

 天王洲の魅力としてアートを導入することは、新しいことでなく、磨き上げることでした。但し、従来型のまちの景観に沿ったアート作品では、来街者を増やすまでのインパクトはないと考えていました。2015年、世界中から集められた著名アーティストが巨大壁画を制作するアートイベント“ POW! WOW! JAPAN ”が、天王洲アイルで開催されました。このアートイベントで描かれた壁画は、大きな反響があり、水辺と現代アートの親和性を強く感じされる結果を得ることができました。“ POW! WOW! JAPAN ”は、天王洲アイルに巨大な壁画を描くきっかけとなったイベントでした。

 そして、2019年、天王洲アートフェスティバルが、開催されました。このイベントはARYZ(スペイン)、Lucas Dupuy(イギリス)、Rafael Sliks(ブラジル)という国際色豊かなアーティストに加え、国内からは著名な淺井裕介、DIEGO、松下徹らが参加し「水辺と出会う日本文化とアート」をコンセプトに壁画を描き、アートの街・天王洲としてリブランディングすることに大きく寄与しました。

アイルしながわ〈旧東品川清掃作業所〉(左)、アイルしながわ 施設内の様子
アイルしながわ〈旧東品川清掃作業所〉(左)、アイルしながわ 施設内の様子

「アイルしながわ」ダイバーシティによるリブランディング

 モノレール天王洲アイル駅に隣接するアイルしながわ(旧東品川清掃作業所)は、以前は清掃作業所として利用されていました。品川区と天王洲のまちづくり団体が協議し、2022年、文化とスポーツの交流の場として新たに生まれ変わりました。施設の正面には、大きなアート作品を描かれ、室内の壁面にも多彩なアート作品が描かれています。この施設では、スポーツを通じた共生社会の実現とパラスポーツとアートの融合を目指して、官民連携で運営されています。アイルしながわの新たな使命は、天王洲アイルをより多様性に富んだ地域へ進化させるリブランディングの場として誕生しました。

水辺のヨガ・ワークショップ(左)、TENNOZ HARBOR MARKET
水辺のヨガ・ワークショップ(左)、TENNOZ HARBOR MARKET

水辺で過ごすウェルネスによるリブランディング

 日常的に人が集う場所になるように、ウェルネスライフを水辺の空間で実現しようとマルシェを中心とした朝活イベントが開催されています。朝活ヨガ・ワークショップや、フレッシュなスムージー、グルテンフリーの焼き菓子などが集まる朝マルシェ、日中は、ヴィンテージアパレルやハンドメイド雑貨、花や植物など、豊かなライフスタイルを提案する「TENNOZ HARBOR MARKET」を開催し、天王洲アイルの水辺で過ごすウェルネスを軸とした水辺のリブランディングに挑戦しています。

運河〈自然とアート〉(左)、アートによるまちなみ
運河〈自然とアート〉(左)、アートによるまちなみ

天王洲アイルのブランディングとは

 水辺と相性が良いと思われるアートとウェルネス、アートと相性が良いと思われる多様性社会、様々な角度から天王洲の魅力を感じてもらうために、水辺から連鎖する様々な要素をかけわせて、天王洲アイルのリブランディングを確立したいと考えています。「天王洲アイルで癒やされよう!」そんな潤いのあるまちにしたいと思います。

 観光資源の乏しい天王洲アイルに強力な観光資源が誕生することは、難しいのが実情です。小さな観光資源の積み上げることにより、自然と文化の香りが漂う味わい深いまちの雰囲気をつくり出すことで、ツーリストがくつろぎを感じる街にすることを目指しています。天王洲アイルのブランディングを高めることは、DMOの重要なミッションであり、地域社会と連動しながら豊かな観光地域づくりに励んでまいります。

寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 理事長

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