学び・つながる観光産業メディア

宿の顧客満足度アップ&人手不足解消につながる、デジタルツール活用事例

コメント

 旅行者数の増加により、宿泊業の人手不足が深刻化しています。人を増やしたくてもなかなか採用ができないケースも増えており、こうした現状が続く中では、人材採用と並行して業務の効率化に取り組むことも大切でしょう。とはいえ、単に業務を簡略化するだけではいたずらに顧客満足度を下げてしまいかねません。そこで今回は、デジタルツールを活用することで、顧客満足度アップと人手不足解消を両立させた3つの事例をご紹介します。

受付管理システムの導入で、朝食バイキングの行列を解消

 最初に紹介したいのは、「ホテルエピナール那須」の事例。同ホテルは、ウェルカムベビーの宿として乳幼児をはじめ子ども連れの家族利用が多い宿です。人気コンテンツのひとつが、朝食バイキング。「キッズバイキング」コーナーも用意されており、宿泊客の80%以上が利用しているだけでなく、宿泊客以外の利用もあるそうです。

 朝食会場は440席と大規模ですが、それでも順番待ちの行列が常態化。特に午前7時30分~9時00分のピーク時間帯になると、50~60組が列をつくり、30分以上待たせてしまうこともあったそう。また、行列が会場の外に長く伸びてしまうことで、チェックアウト待ちの列と導線が混在してしまうケースや、売店やベーカリーの前まで列が伸びて他の店舗を利用するお客様を困惑させてしまうことも。朝食サービスの体験価値が低下するのはもとより、宿全体の満足度にも影響しかねないケースが発生していたと言います。順番待ちに対応するために人員を割かねばならず、お客様からの期待に応えられないことがスタッフのモチベーションに影響を与えることもあったそうです。

 そこでこの宿が解決策として導入したのが、受付管理システムの『Airウェイト』。お客様は各自の部屋からオンラインで受付をおこなうことができ、呼び出しまでの時間を自由に過ごすことができるようになったため、導入以前の10年間悩まされていた順番待ちの行列は導入後3カ月で解消されました。また、オンライン受付をすれば手元のスマートフォンでリアルタイムに待ち状況を確認できるため、レストランやフロントへの問い合わせも減少。その分、スタッフは気持ちの余裕を持ってサービス提供が行えているそうです。

モバイルオーダーの活用で飲食部門を効率化し、宿泊部門のサービスを強化

 次にご紹介するのは、2020年に沖縄県石垣島でオープンしたライフスタイルホテル「THIRD 石垣島」の事例です。営業時間内であれば好きなときに好きなだけ料理や飲料を楽しめるオールインクルーシブプランが特徴。オールインクルーシブの宿は石垣島の中でも数が少なく、観光産業が盛んなこのエリアにおいて大きな差別化ポイントになっています。

 従来は飲食のオーダー管理に紙の伝票を使用。スタッフがサービスを提供するには、まずゲストからのオーダーを受け、紙の伝票に記載してキッチンに伝達。その後、完成した料理を確認してゲストのもとへ運び提供していくという工程を経る必要がありました。また、紙の伝票というアナログな方式だったため、オーダーをミスなく正確に受けられるようにしたいという思いもあったそうです。

 そこで同ホテルが導入したのが、モバイルオーダーシステムの『Airレジ オーダー』。ゲストが手元のスマートフォンから料理をオーダーできるため、飲食スタッフにとっては、「オーダーを取りに行く業務」「キッチンへの伝達業務」のふたつが効率化。ゲストにとっても料理が提供されるまでの待ち時間が短くなっています。また、ゲストからのオーダーが直接キッチンに伝達されるため、より正確な商品提供につながっているそうです。

 これにより、「THIRD 石垣島」では飲食業務に必要なスタッフを3名から2名に削減。その分、飲食以外の接客対応に人員を充てることで、宿泊サービスの充実を図っています。また、『Airレジ オーダー』で注文を受け付けると、商品の供給数や提供時刻といったデータが蓄積可能。データを分析することでゲストのニーズがより詳細に把握でき、スタッフのシフト調整や新メニュー開発に役立てているそうです。

シフト管理サービスで、管理者の手間が減り、最適なシフトが組みやすくなった

 最後の事例は大阪府の「JAホテル」。2024年夏現在、大阪で5つのブティックホテルを展開しており、オンラインチェックインを導入するなど、もともとデジタル技術を積極的に活用してきた宿です。省人化が進んでおり、5軒を30名のスタッフで運営。スタッフは20代~30代半ばが中心で8割が外国籍のスタッフ。インバウンドの需要もあり、2024年秋以降には新店のオープンも予定しています。

 そんな同ホテルが頭を悩ませていたのが、シフトの作成・管理。従来、シフト作成は管理者の手作業で行っていたため、スタッフ全員の希望をなるべく叶えつつ最適なシフトを組むにはパズルのようにシフトを組み替えながら探っていく必要があり、1回あたり約5~10時間もかかっていました。また、シフトの提出は一般のチャットツールを使ってスタッフから希望を募っていたため、各自の書き方がバラバラ。管理者は一人ひとりの希望を読み取って、手入力でエクセルへ転記する必要があり、時にはミスが発生することもあったと言います。

 そこで導入したのが、シフト管理サービスの『Airシフト』です。シフト表と一体になったチャットツールを使ってスタッフとやり取りができるため、スタッフの希望シフトはシフト表に自動反映。転記の手間がなくなり、転記ミスもなくなりました。また、作成したシフトがスタッフの希望をどれくらい叶えているかという「希望叶え率」が表示されるため、最適なシフトにたどり着くまでの効率も上がったそう。結果、シフト作成業務は1回あたり約2時間で完結するように。効率化によって管理者に余裕が生まれた分、管理部門の他の業務やグループ会社の業務に着手できるようになり、組織全体の生産性が上がっているそうです。

人員削減や省力化ではなく、サービスの向上を主眼にしたDXを

 このように、いま宿泊事業者の多くが悩んでいる人手不足の課題は、デジタルツールを活用した業務改善、つまりDXが解決の糸口になることもあるでしょう。それぞれの業務が効率化すれば、従来よりも少ない人数で対応することが可能。その分だけ本来充実させたいサービスに手厚く人材を配置させることも可能です。

 デジタルツール活用の本質は、単なる人員削減や効率化というよりも、デジタルに任せるものと、人が価値を発揮すべきものを見極め、最もお客様に満足いただける最適な人員配置を考えること。今回ご紹介した事例のように、サービス品質(業務品質)の向上を目的の中心に据えてデジタルツールを検討し、人手不足の解消にもつなげていくことが大切なのかもしれません。

寄稿者 (株)リクルート 1960年の創業以来、リクルートグループは、就職・結婚・進学・住宅・自動車・旅行・飲食・美容などの領域において、一人ひとりのライフスタイルに応じたより最適な選択肢を提供してきました。現在、HRテクノロジー、マッチング&ソリューション、人材派遣の3事業を軸に、60を超える国・地域で事業を展開しています。リクルートグループは、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現に向けて、より多くの『まだ、ここにない、出会い。』を提供していきます。

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/
/