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第5章:観光産業の雇用問題

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 この記事を執筆している時はちょうど自民党総裁選の最中で、次の内閣総理大臣がまもなく決まる時期である。総理が誰になるかによって対中国・アジア諸国への姿勢は大きく異なると思うが、アメリカと引き続き協調姿勢を取ることはどの候補者も変わらないだろう。

 前回の記事でも述べたとおり、旅行業もアメリカや中国企業を筆頭としたグローバル企業との市場の奪い合いは避けられない。GAFAMなどのアメリカの大手IT企業に対する日本国内でのサービス規制が日本企業に有利に働くことは難しく、政治的解決への期待が薄いことからも、民間企業の自助努力が今後も必要だ。

働き方改革&外国人雇用

 さて、自民党総裁選候補者の中には、解雇規制の見直しを改革の本丸とし、雇用の流動性を高める政策もあった。観光産業においても人手不足は深刻で、雇用問題解決は最重要課題の1つでもある。解決方法としては、DXや働き方改革や外国人の雇用などがあるが、本稿では特に働き方改革と外国人雇用について企業側ができることを述べたい。

 まずは、働き方についてである。日本は四季があり地域やツアー内容によってオフシーズンの稼働が必要ないケースも多い。政治的な解決策としては正社員と非正社員の間の処遇や社会的地位の格差解消があげられるが、企業側ではオフシーズンでの副業支援などができるだろう。管理職のキャリア形成だけでなく、専門職のキャリア形成やリモートワーク、企業間の出向や交換制度などの推進も良いと思われる。自社ではリモートワークやフレックスタイム制度のほか、国内外どこからでも勤務できる「Work From Anywhere」制度など、従業員が長く働きやすい制度整備を進めている。

 また、地方の人口減少と高齢化が加速度的に進行する日本では、外国人の雇用も重要な解決策となりうるだろう。IT分野ではすでに外国の優秀な人材を受け入れる体制ができつつある。ITやエンジニアリングの世界では言葉の壁よりも技術力のほうが重要であるからだ。しかし、サービス業やエッセンシャルワーカーにおいては言葉の問題は大きいため、日本人採用が大前提である一方、採用が困難であるため、やむを得ず外国人採用を意識する場合も多いのではないか。こうした臨時的な採用措置では、安定的な外国人雇用は難しい。日本人と同様、外国人被用者のキャリアパスを形成することが必要である。

外国人の管理職や役員への起用

 現に日本のサービス業で経営者や管理職に外国人を採用している例は極めて少ない。私はサービス業においても、外国人の管理職や役員を起用することを強く勧める。日本に訪れる外国人就労者の学ぶ意欲と人生目標のためのモチベーションは非常に高く、外国人が重要な責務に就き、意思決定者の一員となることで、より優秀な外国人の雇用における戦略策定やグローバルな考え方が企業に定着すると考えるからだ。現に自社でも技術チームの部長や社外取締役は外国人の方が務めているが、異なる視点からの意見やアイディアは社内での議論の活性化に繋がる。明確なビジョンと戦略をもって外国人雇用を推進すれば、その意欲を企業活動に活かすことができるだろう。

 日本のサービス業においても、今後グローバル化はますます加速する。国内限定のビジネスを扱っているとしても、このグローバル化の流れに抗うのではなく積極的に受け入れるとともに、働き方改革や外国人雇用など自助努力を怠らず市場での競争力を高めていく必要があると強く思う。

寄稿者 二木渉(ふたぎ・わたる)ベルトラ㈱代表取締役社長 兼 CEO

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