東京・六本木のサントリー美術館で2月15日から、「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」展が始まった。エミール・ガレを知らず、名前からは男性か女性かも分からないけど、きっと目の保養になるんじゃないかと、喜んで内覧会に参加した。
展示会紹介文の冒頭には、「エミール・ガレ(1846–1904)はフランス北東部ロレーヌ地方の古都ナンシーで、父が営む高級ガラス・陶磁器の製造卸販売業を引き継ぎ、ガラス、陶器、家具において独自の世界観を展開し、輝かしい成功を収めました」とあった。
内覧会に先立ち展示会を企画した学芸員の説明が30分ほどあり、これが大いに内覧の助けになった。どうやら芸術家というより、ガラス職人、セールスマン、経営者としてのキャリアのスタートだったようだ。作品作りの工房はナンシーに置き、販売やブランドプロモーションの拠点にはパリを選んだことが、作品の魅力と相まって成功の要因となった。
なかでもパリでの成功の決め手となったのが、19世紀後半の1878年、1889年、1900年のパリ万国博覧会への出品だった。実際に1878年のパリ万博に出品された「脚付杯 四季」が展示されている。
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この作品にはガレが開発したガラス技法による月光色ガラスが使われ、作品は銅賞を受賞し、その後ヨーロッパで模倣されたそうだ。どうやら100年以上前の万博ではコンテストが行われていたようで、野心いっぱいの職人や芸術家が世界を向いて腕を競っていたことを知った。今年、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開かれる大阪・関西万博は、なにをレガシーとして残すんだろう。
万博は1851年にロンドンのハイドパークで初めて開催され、日本の初参加は明治維新前年の1867年の第2回パリ万博。その時は日本としてではなく徳川幕府、薩摩藩、鍋島藩が独自に出展した。
同時代の作品「花器 鯉」は葛飾北斎の北斎漫画「魚籃観世音」をモチーフにした花器で、当時のジャポニズムの影響だそうだ。美術館の支配人に立ち話で尋ねると、おそらく初期の作品は実用品として作られたのだろうと。展示会場を進んでいくと、後期になるほど作品が大きくなっていて、おそらく鑑賞用のアートとして購入されることが多くなっていたようだ。
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「花器 人物・ふくろう(夜)」は美人画が描かれていて目に留まる。ただ、実物は花器というには、とても小さかった。ワインでも日本酒でも、これで蒸留酒じゃなく醸造酒を飲みたいと思った。レコードでいえば両A面のような器で、美女の後ろ側には真っ黒なふくろうが描かれている。なんでこの組み合わせかは分からない。ふくろうが昼は美女に変身するんだろうか。口をつけるなら、もちろん手前側で。
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ガレにとって2回目の万博、1889年のパリ万博では、新技法の黒色ガラスを発表した。「花器 ジャンヌ・ダルク」はダークなガラス瓶で、見る角度を変えると剣を持ったジャンヌ・ダルクが見えた。
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ガレは黒色ガラスを使うことで悲しみや生死、闇といった世界観を表現したそう。自然や物語をモチーフに取りながら、技術者、職人からだんだんと芸術家に変わっていったように、展示会では見えた。ダークなガラス瓶が新鮮で、ひかれた。
会場の最後に展示されている「ランプ ひとよ茸」の解説板には、幼菌から成菌となり一夜で朽ちていくヒトヨタケに命の儚さを表現した、というようなことが書かれていた気がする。いくつか作られた作品のようで、ここを含めて日本では3カ所の美術館に収蔵されているようだ。サントリー美術館で展示されるのは、前回ガレ展の2016年以来だそう。
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ちなみにヒトヨタケは主に幼菌は食用で、成菌は飲酒時に食べると悪酔いするそうだ。作品と違って本物は地味な枯れ葉色だ。
展覧会は4月13日まで。入館料は大人1700円、大高校生1000円、中学生以下無料。