長崎市の端島炭鉱、通称「軍艦島」は、世界遺産に登録されて以来、数多くの観光客が来訪する県を代表する観光地となった。また、2024年10月からテレビドラマ「海に眠るダイヤモンド」が放映されると、軍艦島へのクルーズは、再び人気を博するようになっている。
しかし、この場所は炭坑に働く人々の衣食住が接近した生活の場所だった。1974年に閉山されるまで、明治以降の産業先進地として日本全体を牽引してきた。そして、当時の島内人口密度は、日本最大級の町だった。
さて、温暖化の影響か、ここ数年の台風などの自然災害は、想定外の被害を及ぼすようになった。海上にある軍艦島は、その自然の力をそのまま受けることになる。そのため、これらの台風で、島内建物の破壊が激しく進んでいる。自ずから朽ちていくことを待つだけでなく、きちんと保護することも重要なことだ。
一方、国をはじめとする有識者は、もっと入島できる数を増やし観光がしやすいようにするといった答申を出している。
観光地のあり方を考えるきっかけに
世界遺産登録地は、必ず見学できる場所である必要はないと考える。例えば、大阪府堺市の大仙古墳や福岡県宗像市の宗像大社は、その最たるものである。観光客を増やすよりも、しっかりと保護して未来につなげる。このことこそ、私たちに課せられている使命ではないだろうか。保護するためには、資金がかかるという意見も少なくない。入島料などではなく、ふるさと納税などを活用して、基金を作るという施策も良い方法ではないだろうか。
長崎市内から野母崎に向かう途中に夫婦岩という観光名所がある。長崎県の海岸線、長崎サンセットロードの夕陽がきれいな名勝の一つである。直性距離にして軍艦島に一番近い場所だ。そして、入島が許可されない時代、野母崎から小舟が、秘かに島に人々を運んでいたという。今でもチャーター船が、時折、島を目指している。しめ縄の向こう側に神々しい島影、人の入ることを拒んでいるようにも感じた。
(2017.02.06.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長