ソメイヨシノ、東京・染井の地で育成された品種の桜は、日本を代表する桜。東京の桜の開花を決める標本木も靖国神社にある。桜の名所は、都内にも数多く存在する。しかし、千鳥ヶ淵の桜は、東京の数ある桜の名所の中でも別格といえる場所だ。
千鳥ヶ淵は、江戸開府後の江戸城拡張の際、局沢川を半蔵門と田安門の土橋で塞き止めたお堀だ。かつて、隣の半蔵濠とはつながっていた。しかし、1900年に道路建設のため埋め立てられ、別々のものとなった。
お堀沿いの千鳥ヶ淵緑道は、時季になると桜渋滞となる。特に、夜はライトアップされるために、夜な夜な訪れる観光客が多い。東京タワーが見える位置には、スマホを構える人の順番待ちが列を成す。
手を伸ばすと触れる距離感
一方、昼間は、ボートに乗って桜を愛でる人も少なくない。散り際、花筏になると、お堀に手を伸ばして、桜花に触れている人もいる。広大な皇居の内濠ゆえ、優雅な風景だ。
また、隣接する日本武道館は、3月中には卒業式、4月になると入学式や入社式と、節目を迎える人々がやって来る。式の後には、お花見と洒落こむ姿も見受けられる。そして、訪日外国人の多さは、驚かされることばかりだ。彼らは「日本の桜が見たい」と言って、かなり早い時期からホテルの予約をするという。しかし、満開の桜は、なかなかタイミングが合わない。そのため、残念ながら、蕾を見て帰国する人も数多い。
この需給バランスによって、この時期の宿泊料金は、年間で一番高騰する。平準化は難しく、オーバーツーリズムにもつながる。自然環境との戦い故、なかなか打開策が見つからない。
(2018.04.01.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長