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観光人材のキャリア形成を考える 〜観光人材の地域間留学〜

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アップデートが求められる観光人材のキャリア形成の考え方

近年、観光産業は活況を呈しており、観光地を訪れる人々に満足度の高い体験を提供する「おもてなし人材」の確保と育成が重要なテーマとなっています。しかし、ホテルや旅館などの現場では離職率が高く、特に25〜40代の働き手が少ない事業者も少なくありません。

ホテル・旅館を対象に行った社員の離職理由に関するアンケートでは、離職理由に「給与・報酬が低いから、上がる見込みがなさそうだから」という回答が上位に挙がり、報酬水準とキャリア形成支援の不在が、離職要因と密接に関わっていることが明らかになっています。

観光人材が30代・40代になっても「この業界で働き続けたい」と思える未来像を提示できるか。キャリアパスや学び直しの機会を提示できるかが、今後の観光産業の発展と、おもてなし品質の向上に直結すると言えるでしょう。

※1:〔業種別/宿泊・その他〕就業者・離職者と企業に関するレポート

https://jbrc.recruit.co.jp/data/data20240401_3146.html

「旅の高付加価値化」から考える、キャリア形成支援のありかた

観光人材のキャリア形成はどうあるべきなのでしょうか。

「旅の高付加価値化」の観点から、観光人材の備えるべきスキル・地域を考えていきましょう。

観光庁によると、「高付加価値旅行者は、単に一旅行当たりの消費額が大きいのみならず、一般的に知的好奇心や探究心が強く、旅行による様々な体験を通じて地域の伝統・文化、自然等に触れることで、自身の知識を深め、インスピレーションを得られることを重視する傾向にある」とされています。※2

このような旅行者に対応できる観光人材には、以下のようなスキル・知識が求められます。

・質の高い滞在体験を提供できる

 地域の伝統文化・自然・食などを知り、旅行者に語ることができる

・旅行者の多様なニーズに対応できる

 高付加価値旅行者の興味関心(ウェルネス、歴史、文化など)に沿った地域の魅力あるコンテンツを理解し、旅行者に語ることができる

こうしたスキル・知識獲得を支援し「日本中どの観光地で働いても通用する」人材像を業界として共有・可視化することは、観光人材のキャリア形成支援において極めて重要です。

※2 出典:観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」(2022年5月)

地域間留学という選択肢 〜知らない土地で働く学び〜

令和6年度に一般財団法人奈良県ビジターズビューロー主体で、旅館従業員に「質の高い滞在体験を提供できる」「旅行者の多様なニーズに対応できる」観点でのスキルUPを目的とした地域間留学の実証実験が行われました。

この実証実験では、北海道の宿泊施設で料飲スタッフとして働くキャリア3~5年の社員2名が、奈良県の宿泊施設で料飲スタッフとして1カ月働くことで、どのようなスキル・知識習得があるかを検証しました。

仕立てとして「日本各地の伝統文化・自然・食・地域の魅力あるコンテンツに関する知識習得を支援すること」、「他地域で働くことで普段とは異なる客層への接客スキルの獲得を支援すること」を意識し、いつも働いている地域・施設を飛び出し、知らない地域・施設で働く”地域間留学”という形を採用し、宿泊施設には従業員の研修として本実証実験にご協力いただきました。

地域間留学による観光人材のスキルアップとキャリア形成の可能性

今回の実証実験で、北海道から奈良県へ地域間留学をした2名の従業員に、地域間留学終了後に以下のような変化が見られました。

・奈良で就労したホテルでの接客スキルの向上と、自社内での業務改善提案

・奈良・関西という観光地を知ることで、日本の文化・伝統に関してお客様へ案内できる知識の深化

・他地域を知ることでの自地域(北海道)の伝統文化・自然・食・地域コンテンツの魅力の再発見

これはあくまで「質の高い滞在体験を提供できる」「旅行者の多様なニーズに対応できる」観点でのスキルUPへの第一歩ではあるものの、❝日本の観光人材❞としてのスキル・知識習得とその先のキャリア形成を見据えた際に、兆しを感じる取り組みとなりました。

キャリア形成観点では、業務での成長や業界に関連する知識習得とともに人材としての市場価値が上がり、自社内での昇給がされたり、転職時に経験が正しく評価されること、また自分のありたい姿・働き方の実現ができることまで、本取り組みをアップデートできるかが今後ポイントとなります。

この取り組みを継続することで、日本中の観光業の働き手のスキルがUPし「日本を旅行することの価値」が高まることはさらなる業界の発展につながっていきます。

また働き手観点では、他業種では実現できない面白い働き方の提示につながる可能性も高いと考えております。

旅行者にとって旅の価値は「生き方の発見」や「自由」「リフレッシュ」といったものが挙げられますが、それは旅という行為が、日常から離れ知らない土地の人・文化・自然と触れることで、「固定概念」や「日々のストレス」から解放されるという側面を持つからです。そういった価値に触れることができる観光地という場所で働くことそのものが、ある意味「固定概念」から解放された自由な仕事であるべきで、地域で生きることを選んだ人々のイキイキとした生活の一部であってほしいと私は考えています。知らない土地で働くことが、そのきっかけとなり、観光業に携わることが働き手にとって「場所やルールにとらわれず自由に自分ならではの生き方を実現できる」手段になることを目指して、今後も研究を続けていきます。

関連情報

じゃらんリサーチセンター:季節ごとの繁閑の違いに注目!他地域で働きながら学ぶ“観光人材留学”
https://jrc.jalan.net/research/6531/

寄稿者 日野秀美(ひの・よしみ)㈱リクルート じゃらんリサーチセンター 研究員

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