今では、口コミと言うのであろう。国鉄富良野線の美瑛から美馬牛にかけての丘陵地帯の風景が、一番北海道的だと、学生時代にユースホステルで教えてもらった記憶がよみがえる。
それ以来、ここは、憧れの場所となった。そして、その風景をずっと撮り続けていたのが、前田真三さんだ。パノラマ写真という概念がなかった時代、画角を横長にトリミングした写真が、北海道の雄大さを映し出していた。それ故、美馬牛にある「拓真館」という前田真三写真館は、地域の隠れた名所となっていた。
手書きの地図を片手に・・・
丘陵地帯に色とりどりの花々が咲き誇り、まるでパッチワークのように映る。また、雪景色の中にたった一本の木、シルエットをモノクロで表現する。誰もがその場所に赴きたいと思ったことだろう。しかし、当時はスマホもなかった。そのため、位置情報は地元の方々の手作り地図が主流だった。レンタカーも台数が少ない時代だ。ひたすら歩くか、自転車を必死に漕ぐことで、目的地を目指した。
ここ新栄の丘は、比較的新しいフォトスポットとして有名になった場所だ。刈り取られた秋の風景が、大空と大地の中に見え隠れする。一方、貸切バスからレンタカーに移動手段が変化した北海道観光は、手軽に自分だけの観光地を創造できるようになった。
しかし、昨今、この景観を破壊するニュースも流れた。美瑛周辺の景色は、後世に大切に残してほしい日本の風景遺産だ。壊してしまったモノ・コトは、元には戻らないのだから・・・。
(1995.09.18.撮影、フィルム画像をデジタル化で再現)
(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8
取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長
