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データが導く持続可能な観光地域づくり JSTS-D活用、国内外の先進6事例【JSTS-D入門】その9

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持続可能な観光地経営の羅針盤「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」。その指標とデータ分析は、観光課題の解決に強力な武器となる。本記事では、観光庁のモデル事業をはじめ、国内外でJSTS-Dの考え方を実践し、オーバーツーリズム対策や地域独自の価値創出に成功している先進事例を具体的に解説。データに基づいた次の一手を模索する、すべての地域に実践のヒントを提示する。

JSTS-Dを指標としたデータ活用の国内先進事例

観光庁のモデル事業などに参加した地域では、JSTS-Dを道しるべとしたデータ活用により、具体的な成果を生み出し始めている。それぞれの地域が抱える固有の課題に対し、データがいかにして解決の糸口となったのか。その実践例を見ていく。

沖縄県:5分野85項目の独自指標で実現する多角的な観光経営

沖縄県は、観光振興基本計画において、経済的側面だけでなく、県民の所得や環境負荷、文化資源の状況までを捉えるため、5分野85項目にわたる独自の「沖縄観光成果指標」を設定した。

これにより、観光部局のみならず、環境部や土木部といった他部署との部局横断的な連携が促進された。データという共通言語を持つことで、多角的な視点からの観光地マネジメントを実践している好例である。

三浦半島:観光客を巻き込みデータで挑むゴミ問題

神奈川県の三浦半島では、海水浴場におけるゴミや騒音問題が深刻化していた。そこで、ゴミの排出量やエリア・時間帯別の混雑状況といった客観的なデータを測定。

さらに、観光客へのアンケート調査を実施し、利用者の意識やニーズを把握した。これらのデータに基づき、利用者負担による課金制ゴミ箱の設置など、実効性の高い具体的な対策の検討へとつなげている。

京都市:ビッグデータで混雑を可視化し、市民生活との調和へ

オーバーツーリズムが長年の課題であった京都市は、「京都観光振興計画2025」を策定。携帯電話の位置情報などのビッグデータを活用し、これまで感覚的に語られがちだった市内の混雑状況を詳細に可視化した。

このデータ分析は、公共交通のルートやダイヤ見直しといった具体的な施策に結びついている。また、データに基づき市民・観光客双方の納得感を得ながら「京都観光モラル」を制定し、市民生活と観光の調和という難題に正面から向き合っている。

北海道美瑛町:農業と観光の融合へ、データに基づくポジティブなマナー啓発

「パッチワークの丘」で知られる美瑛町では、観光客による農地への無断立ち入りが後を絶たなかった。この課題に対し、DMOと生産農家が連携。

本来は立ち入れない畑での特別な農業体験アクティビティを開発した。その際、ガイドが農業の現状や課題に関するデータや情報を提供することで、観光客の深い理解を醸成。罰則や禁止ではなく、ポジティブな体験を通じてマナー向上へと導く、新しい形のソリューションである。

鹿児島県与論町:星空ツーリズムとデータによる文化伝承

与論町は、その美しい星空という地域資源を活かし、「星空案内人」の育成に着手。新たな雇用創出と経済効果をもたらした。

特筆すべきは、単なる観光開発に留まらない点である。島に古くから伝わる星空に関する民話や伝承を調査・データ化し、それをガイド養成講座のカリキュラムに組み込んだ。これにより、観光振興と、消えゆく危機にあった無形文化の継承を同時に実現している。

【海外事例】成果の「見える化」で戦略を加速するブエノスアイレス市

アルゼンチンの首都ブエノスアイレス市では、観光関連の多様なビッグデータを一元化し、分析結果をリアルタイムで表示するダッシュボードを開発した。

このシステムは、観光施策の成果を視覚的に分かりやすく示すことで、行政、民間事業者、市民といった多様な関係者間の迅速な情報共有と合意形成を促進する。データに基づいた戦略的な意思決定を加速させる強力なツールとして機能している。

まとめ:データは未来への羅針盤。「選ばれる観光地」への投資

JSTS-Dのような指標を用いてデータに基づいた観光地経営に取り組むことは、地域の担当者が「自分たちはどのような町か」というアイデンティティを見つめ直し、地域の潜在的な価値を再認識する貴重な機会となる。

Booking.comの調査で世界の旅行者の86%がサステイナブルツーリズムに関心を持つとされる今、こうした取組は、地域の国際競争力を強化する上で不可欠である。データに基づいた観光地経営は、未来への極めて重要な投資といえる。

自治体、DMO、そして地域の事業者。データという羅針盤を手に、「50年後、100年後にも自分たちが望む町であり続ける」ための一歩を踏み出し、地域全体で「住んでよし、訪れてよし」の持続可能な観光地を築き上げていくべきである。

日本版 持続可能な観光ガイドライン( JSTS-D) は下記のリンクよりご覧いただけます。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810000951.pdf

寄稿者:東京山側DMC 地域創生マチヅクリ事業部

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