持続可能な観光への取り組みは、もはや特別なことではない。国内外の旅行者が観光地に求める価値観が変化するなか、その指標となるのが日本版持続可能な観光ガイドライン「JSTS-D」である。
本記事では、観光地がJSTS-Dに取り組むことで得られる7つの具体的なメリットを解説する。JSTS-Dの実践は、国際的な競争力を高め、地域社会の未来を豊かにする確かな一歩となる。
JSTS-Dがもたらす7つの戦略的メリット
JSTS-Dは、単なる環境配慮の枠を超え、観光地の経営戦略そのものに多大な好影響を与える。インバウンド誘致から地域課題の解決まで、その導入メリットは多岐にわたる。

1. サステナビリティを重視するインバウンド客に選ばれる
Booking.comが2019年におこなった調査では、世界の旅行者の86%が「サステナブルな旅行をしたい」と回答している。特に欧米豪の富裕層においてこの傾向は顕著であり、国際基準に準拠した取り組みは、高付加価値な旅行者を惹きつけるための必須条件となりつつある。
海外の大手旅行会社幹部が「サステナブルな取り組みをしない観光地には送客しない」と公言するように、観光地の選別はすでに始まっているのだ。
2. 「世界基準の持続可能な観光地」という強力なブランド
JSTS-Dは、国連世界観光機関(UNWTO)などが設立したGSTC(世界持続可能観光協議会)の国際基準に準拠している。そのため、JSTS-Dに取り組むこと自体が、その地域が国際的に認められた基準で運営されていることの証明となる。
取り組みを推進する地域は公式ロゴマークの使用が認められるほか、「グリーン・デスティネーションズ」が発表する「世界の持続可能な観光地TOP100選」のような国際認証の取得にもつながり、強力なプロモーションツールとなり得る。
3. 日本の実情に即した、実践しやすい指標
汎用的な国際基準には、日本の文化や法制度に必ずしも適合しない項目が含まれることがある。
その点、JSTS-Dは自然災害や感染症への対策、文化財の維持管理といった日本特有の課題を反映している。これにより、他の国際指標に比べて、地域が無理なく、かつ現実的に取り組める内容となっている。
4. オーバーツーリズムから地域全体の課題解決へ
JSTS-Dは、オーバーツーリズム対策を契機に開発されたが、その射程ははるかに広い。危機管理、誘客促進、雇用創出、文化保護など、観光を取り巻く地域課題を網羅的にカバーする。
観光客と地域住民の双方に配慮し、地域の価値を次世代へ継承するための包括的な視点を提供するため、あらゆる特性を持つ地域で活用できる強みがある。
5. 地域における「SDGs」達成への具体的な道筋
JSTS-Dの各指標は、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標と明確に連関している。UNWTOも、観光がSDGsのすべての目標に貢献する潜在力を持つと明言している。
JSTS-Dを実践することは、地域におけるSDGs達成に向けた具体的なアクションプランそのものとなるのである。
6. 日本独自の充実した「伴走支援ツール」
JSTS-Dには、他の国際指標には見られない手厚い支援ツールが用意されている。各指標を実践するための「考え方」、法令や統計などの「参考資料」、そして全国の「先行事例」が豊富に提供される。
これにより、初めてサステナビリティに取り組む自治体やDMO(観光地域づくり法人)であっても、比較的スムーズに実践へと移行することが可能だ。
7. 取り組みへのハードルは決して高くない
JSTS-Dが示す指標には、多くの自治体などが通常業務としてすでにおこなっている内容(例:観光計画の策定、水質保全、廃棄物処理など)が数多く含まれている。
GSTCも、すべての指標を短期間で完璧に達成することは求めていない。ゼロから何かを始めるのではなく、まずはチェックリストとして活用し、「すでにできていること」と「これから取り組むべきこと」を可視化するだけでも、それは大きな前進である。
結論:未来への投資としてJSTS-Dを
JSTS-Dは、観光地が未来の旅行者から選ばれ続けるための、具体的かつ実践的な羅針盤である。その導入は、単に認証を取得することが目的ではない。インバウンド誘致、ブランド構築、地域課題の解決、そしてSDGsへの貢献といった、数多くの戦略的メリットをもたらす。
重要なのは、長期的な視点を持ち、自らの地域のアイデンティティを見つめ直し、優先すべき項目から一歩ずつ着実に歩みを進めることだ。JSTS-Dの活用は、地域の未来に向けた最も確実な投資のひとつといえるだろう。

日本版 持続可能な観光ガイドライン( JSTS-D) は下記のリンクよりご覧いただけます。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810000951.pdf
寄稿者:東京山側DMC 地域創生マチヅクリ事業部