今、観光業界で静かに存在感を増している世代がいます。それは、「α世代」です。
α世代とは、2010年~2024年に生まれた世代を指します。生まれたときからスマートフォンやタブレットなどが生活の一部として存在している世代です。Z世代が「デジタルに慣れた」世代であるとすれば、α世代は「デジタルに育てられた」世代です。まだ高校生以下が中心ですが、近い将来には観光の「消費者」として、さらに「担い手」としても市場に登場してきます。

α世代が旅先を“決定”し始めている?
α世代ラボで調査を進めていくと、α世代はZ世代に比べ、親子関係が少しずつ変化していることがわかってきました。親子関係は「上下関係」ではなく、「対話」を重視し、親が子どもの意見を尊重するケースが増えています。例えば、「子どもが動画で見た観光地を親に見せ、家族全員でそこへ出かける」「子どもが旅行先を親にプレゼン(提案)し、納得させることができれば採用される」といったエピソードがありました。
この事例から、α世代は「未来の旅行者」であると同時に、すでに家族旅行の意思決定に関わる存在であると言えます。観光市場におけるα世代の影響は、すでに始まっているのです。
未来の旅を動かすα世代の価値観
α世代は、幼少期からデジタル環境に親しみ、多様な文化や価値観に触れてきた背景があります。実際にα世代の家族にインタビューしていると親御さんから「体験」というキーワードがたくさん出てきます。親の価値観として、「楽しい」だけではなく「意味のある」体験を求める傾向にあります。また、α世代は環境問題や社会課題への意識が高く、自然や地域文化に興味を持つ子供も多いです。実際に、こうした体験を求める動きが年々広がるとともに、旅行先でも「自然体験」「地域文化に触れるプログラム」の需要が増えています。このことから、持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)との親和性が高いと考えられ、将来の観光需要を大きく方向づける可能性があります。
α世代やその家族の価値観を理解することは、観光業界が次の一手を考える上で重要な示唆を与えてくれるはずです。観光業界がα世代に目を向けることは、次の市場を開拓する戦略であると同時に、持続可能で多様な観光のかたちをつくる第一歩になるのではないでしょうか。
α世代ラボとは
α世代ラボは、「α世代と社会・企業をつなぐ」をコンセプトに活動するマーケティング組織です。「α世代」を”点”ではなく”線”で見ていきます。α世代は今時点で高校生以下と若い層ですが、早い段階から当世代を調査をすることで、どのような価値観が形成されているかを明らかにし、情報発信をしていきます。
寄稿者 喜藤雄介(きとう・ゆうすけ)α世代ラボ 主任研究員