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(風土再生の旅)【陸前高田スタディーツアー現地ルポ|第5回】ただの昼食じゃない。食卓の対話から見えた、災害を越える「本当の豊かさ」

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陸前高田ツアー2日目、お昼の時間。温かいご飯を囲む和やかな雰囲気のなかで交わされたのは、私たちの価値観を根底から揺さぶるような、力強く、そして示唆に富んだ言葉の数々でした。それは、災害という極限状態を生き抜いた人々のリアルな声。今回は、この食卓で紡がれた対話から、これからの時代を生きる私たちへの大切なメッセージをお届けします。

村長さんからの体験からのお話しは参加者の心に響いた

◼️「誰かの話」ではダメなんだ。被災者自らが学びに赴いた、奥島への旅路

「自分たちの復興は、自分たちの目で見て、考えなければならない」

その強い思いから、陸前高田の被災者の方々は、同じく被災した「奥尻島」という地へ自ら足を運んだと言います。驚くべきは、それが行政主導の視察ではなく、仮設住宅の希望者自身がフェリーに乗って学びに行ったという事実です。

奥尻島の総務課長は「被災者自らが学びに来るなんて、前代未聞だ」と驚きながらも、公用車を自ら運転し、復興の光と影、賛成派と反対派のリーダーまで、彼らが見たいと望む場所すべてを案内してくれたそうです。

この話には続きがあります。滞在中、課長の元に静岡県の国会議員団が視察に来るという電話が入りました。その時の彼の冷静な一言が、被災地の現実を物語っていました。

「その人たちは『現地に来た』という事実さえあればいい人たちだから、記念館だけ見せて帰ってもらっていい」

「誰かから聞いた話ばかりでは、どうにもならない」――。当事者として真摯に学ぼうとする人々への深い敬意と、形だけの視察への静かな不信。この対比は、本当の意味で「自分ごと」として物事に向き合うことの重みを、私たちに突きつけます。

ランチを共にしながらの交流

◼️笑いと知恵が命を繋ぐ。災害直下で光ったコミュニティの底力

「うちは明治、昭和、そして平成と、津波で3回流されてね」

さらりと語られた言葉に、この土地が背負ってきた歴史の壮絶さを感じます。だからこそ、地域には災害を乗り越えるための知恵と、揺るぎない絆が息づいています。

  • 闇の中の「楽しさ」:停電が続いた夏、子どもたちはロウソクの灯りで掘り抜き井戸から水を汲む生活を「楽しんでいた」という話は、人間の持つ驚くべき適応能力を感じさせます。極限状態に陥ると、人は絶望するだけでなく、時に「笑う」ことで乗り越えようとする本能があるのかもしれません。
  • アワビご飯とカンパン:停電で溶け出す冷凍庫の食材を急いで食べる日々。しかし、テレビ局の取材が入った際は「被災地なのに贅沢をしている」と誤解されぬよう、あえてカンパンを食べるふりをした、というエピソード。そこには、外部の目にまで配慮する繊細な心が伺えます。
  • 暮らしのDIY:トイレが使えなくなれば、若者たちが意見を出し合いながら山に簡易トイレを作る。冬の寒さは、ストーブで沸かしたお湯をペットボトルに入れ、交代で抱きしめて暖をとる。一つひとつの工夫が、地域の命を繋ぎました。
  • 消防ポンプ車が救急車に:薬が必要な高齢者のため、地域の消防ポンプ車が出動する。誰がどんな薬を飲んでいるか、ご近所が把握している。そんな密な人間関係こそが、公的なインフラが途絶えた時の最強のセーフティネットとなるのです。
これからの話に熱が入る

◼️月給30万では暮らせない東京と、自然が遊び場の地方。僕らが選ぶ未来とは

対話は、現代社会の「豊かさ」そのものへと及びます。

億ションが立ち並び、多くの若者が「見えない借金」とも言えるローンや家賃に追われる東京。一方で、「山も川も海も全部、子どもの遊び場だった」と語られる陸前高田の暮らし。リモートワークが普及した今、私たちはどこで、どのように生きることを選ぶのか。

もちろん、地方の暮らしも楽ではありません。かつては「買うものではなく、もらうものだった」という魚は高騰し、食費は倍以上に跳ね上がりました。

それでも、草刈りや山仕事といった地域に根差した多様な生業があり、自然と共に生きる手触りのある暮らしがあります。都市生活のインフラがいかに脆いものであるかを、被災地の経験は教えてくれます。


陸前高田の食卓で交わされた対話は、私たちに問いかけます。本当の豊かさとは何か。本当に強い社会とは何か。その答えは、豪華な食事や便利な生活の中ではなく、困難な時に知恵を出し合い、寄り添い、共に笑い合える人々の繋がりの中にこそあるのかもしれません。この貴重な学びを胸に、私たちは自らの暮らしとコミュニティを見つめ直す旅を続けます。


寄稿者:東京山側DMC 地域創生マチヅクリ事業部

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