那智の滝は、華厳の滝(栃木県)、袋田の滝(茨城県)とともに日本三名瀑に数えられる。滝壺までの落差133m、一段の滝としては日本一だ。また、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として、世界遺産に登録されている。
紀伊半島の那智山の原生林には60余の滝が架かっている。そして、修験道の瀧篭修行の行場として48の滝が記される。しかし、一般に那智の滝と呼ばれているのは、一の滝を指す。熊野那智大社の別宮である飛瀧(ひろう)神社の御神体として崇敬の対象だ。
観光用のポスターなどでは、青岸渡寺の三重塔とこの滝を一枚に収めた写真が有名である。その理由は、明治時代の神仏分離令以前は、青岸渡寺と那智大社が一体となった信仰の場であったことを示す名残だからだ。
困難こそ、至福のモノ・コトを
さて、紀伊半島は、古くから天皇家や貴族たちが詣でる霊場である。それ故、彼らの憧れの地とも言われてきた。都から遠隔地である紀州路は、最果ての地であり、天界に通じる場所でもあっただろう。今でも、首都圏から赴くとかなりの時間を要する。名古屋から非電化のディーゼル特急に乗車するか、新大阪から和歌山市経由で向かうか、いずれにしても移動するのが一日仕事である。また、現地に着いても、自動車などの二次交通がないと、移動にもかなりの困難を生じる。
赴くことが困難な故に、霊験あらたかな場所や時間軸を提供してくれるのだろう。今も昔も困難を克服してこそ、幸福を手にできる。
(2017.03.01.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長