旧三井家下鴨別邸は、高野川と賀茂川が合流する北側、下鴨神社の南に位置する。1880年に木屋町別邸を移築した建物だ。主屋は三階建て、その最上層の望楼が特徴的である。また、和洋折衷の意匠や独創的な茶室など、歴史的な価値が高い。2011年、重要文化財に指定されている。
1898年、三井家が芦田家から周辺の土地を購入し、祖霊社である顕名霊社(あきなれいしゃ)を遷座した。そして、三井11家の共有する建物として、大正末期の1925年に竣工する。一方、戦後国有化されて、京都家庭裁判所の所長宿舎として使用された。しかし、2013年に文化庁が所有、2016年から一般公開がはじまった。
神社仏閣だけでないコンテンツ作りを
晩秋になると、庭園一面に広がる黄や赤の葉が優雅に時を刻む。また、大文字焼きの夜には、主屋の向う側に「大」の字が映し出される景観も、その立地の良さを物語る。鴨川沿いには、このような邸宅が多く、頼山陽旧宅「山紫水明書斎」なども存在する。
京都を訪れる観光客は、有名な神社仏閣へ向かうことが多い。そのため、長い歴史を刻んできた邸宅などは見学者が少ない。穴場的な歴史遺産をゆっくりと見学できることは、歴史好きにとってはこの上ないことである。しかし、有名神社仏閣に偏るオーバーツーリズム対策は、これからの京都観光の喫緊課題と言えよう。地域住民が安心して普段の生活を行い、観光客も充実した旅に触れる。真剣に抜本的な対策を考える時がやってきている。
(2016.12.06.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長