東京山側DMCが10月2日から3日間の日程で実施したモニターツアーにおいて、東京・御岳山(青梅市)の「御師(おし)」に代表される地域コミュニティとの深い交流体験が、欧米市場の旅行専門家から極めて高い評価を得た。都心から容易にアクセスできる立地で、地域の歴史文化と自然を組み合わせた体験は、アドベンチャー志向ではない新たなインバウンド層に響く可能性を示している。
体験の核心は「17代続く御師」との交流

モニターツアー参加者が最も記憶に残る体験として挙げたのが、御岳山の武蔵御嶽神社での神事や、神主であり地域の案内役でもある「御師」との交流であった。
御師は、古くから参拝者を神社へ導き、宿坊を提供して世話をしてきた存在である。そのコミュニティが17代にもわたり伝統を維持しているという事実は、参加者にとって強力なストーリーとして響いた。単なる観光案内ではない、地域に根ざした人々との直接的な対話が、体験に本物としての深みを与えている。
ツアーでは、神事(御祈願)の前にその目的や意味について丁寧な説明がなされた。これにより、参加者はより深い理解をもって神事に臨むことができたという。特に、神事中に自身の名前が日本語で読み上げられることは、パーソナルで特別な体験として印象に残ったとの声が多く聞かれた。こうした体験価値を最大化するためには、御師と参加者が直接対話できる時間を確保することが重要である。
都心からの近接性が生む「手軽な非日常」

御岳山は、都心から約90分というアクセスの良さも大きな強みである。多忙な都市生活から離れたいものの、長距離の移動は望まない旅行者にとって、同地域は「手軽に体験できる非日常」という独自の価値を提供する。
ツアーに組み込まれたハイキングは、自然の音や空気を楽しむのに最適な、ややゆっくりとしたペースで設定された。過度な解説を避け、参加者が自身の五感で自然と向き合う時間を設けたことが満足度の向上につながった。この「都市からの近さ」と「雄大な自然」のコントラストが、他の観光地にはないユニークな魅力となっている。
宿坊と食で深める地域への没入体験
ツアーでは、伝統的な宿坊での宿泊や、地元の食材を活かした食事が提供され、地域への没入感を高めた。
宿坊「片柳荘」などでの滞在は、日本の伝統文化に触れる貴重な機会である一方、共有のトイレや風呂、急な階段といった特性を持つ。こうした点を事前に旅行者に伝えることで、期待値のずれを防ぎ、スムーズな受け入れが可能になる。

また、レストラン「ラルブル」で提供された昼食は、地元の食材と食文化に焦点を当てた特別な体験として高く評価された。アユのような骨の多い魚や、食文化の違いから好みが分かれる可能性のある食材については、事前に代替案を用意しておくといった配慮が、さらなる顧客満足につながるだろう。こうした特別な食事体験は、ツアー価格の上昇要因となりうるが、その背景にある地域コミュニティとの連携やストーリーを丁寧に伝えることで、価格以上の価値として顧客に訴求できる。

まとめ:文化と自然の融合が新たな市場を拓く
今回のモニターツアーは、御岳山および周辺地域が持つポテンシャルを明確に示した。「御師文化」という強力な文化的フックと、心地よいハイキングという自然体験のバランスが、参加者に「東京や京都とは違う」独自の価値を提供したのである。
特に、文化と自然を組み合わせた販売戦略は、これまでアプローチが難しかったアドベンチャー志向ではない顧客層の獲得に有効である可能性が高い。地域コミュニティとの深い関係性を基盤とした体験造成は、今後のインバウンド向け高付加価値ツアー開発における重要なモデルケースとなるだろう。
寄稿者:東京山側DMC アドベンチャートラベル事業部