コロナ禍がほぼ収束した今、国内各地に訪日外国人を見ない日はなくなった。平日の都内の風景は、海外の都市と見間違うほどだ。
その中でも京都市内の状況は、大きな変化を起こしている。2024年の統計数値によると、総観光客数は5,606万人(前年11.5%増)、特に外国人の訪日客数は1,088万人(前年53.5%)と過去最高の数値を示している。日本人も微増であるが、修学旅行生の数は減少傾向にある。

このような状況下、京都市はさまざまな対策を構築し始めている。「訪れて良し」という町を目指す京都観光について、数回に分けて、考えてみたい。
烏丸口から路線バスに乗って
筆者は、比較的観光客が少ないと言われる9月下旬の週末、京都市内を訪れた。まずは、路線バスに実際に乗車し、その状況をレポートする。
京都市交通局は、2024年6月から観光地を速達で結ぶ特急バスを導入した。これは、国内外の観光客と地域住民を分け、双方の利便性を高めることを目的としている。しかし、最繁忙期における棲み分けはうまくいっているとは言い難い。
京都市内の人気観光地は、京都駅を背にして右側(東側)に位置していることが多い。そのために、これらの観光地を結ぶ観光専用路線の必要性が求められてきた。
市バス路線網は、かつて網の目のように敷設されていた市電路線網を踏襲している。そのため、外周路を運行する「200番台」の路線は、乗車人員が飽和の量に達している。また、訪日外国人が大きなスーツケースを持って乗車するために、本来の定員の数まで乗車できずに出発するという事象も出ている。
一方、市内中心部に「鉄道空白地域」が存在することも京都の交通網の脆弱さを物語る。交通局は烏丸通と御池通を通る地下鉄を活用し、そこから路線バスに乗車させるシステムを構築しようとしている。しかし、北野白梅町駅から北大路駅まで、特に金閣寺周辺は、路線バスに依存する傾向が強く、移動方法に多くの困難が存在している。
地域住民と観光客の導線分離
さて、観光客の大多数は、新幹線で京都駅に到着する。しかし、ここから路線バスに乗車するには、「烏丸口」まで大きな荷物を持って移動しなければならない。そう考えると地域住民と観光客の導線を分ける方法として、「烏丸口」は地域住民専用バスターミナル、「八条口」は観光客中心のバスターミナルと位置付けることが最良の方法と言える。そして、現在運行が始まっている特急バスも八条口発着に変更することがより効果的な棲み分けにつながると考える。
また、烏丸口バスターミナルは、市内の交通渋滞によって、定時運行が妨げられる傾向にある。特に堀川通から烏丸口に入ってくるバスは、塩小路通からロータリーに進むコースを辿る。しかし、対向車の関係で、ロータリーに入るまで長時間滞留することも少なくない。
このような京都駅前バスターミナルの構造上のマイナス面は、一朝一夕には解決できない。しかし、できる限るの改修を行い、永続的な観光客への利便性を追求することが喫緊の課題でもある。
鉄道空白地域のバス路線
今回のテーマは、路線バスの実情を調査することである。そのため、鉄道空白地域と言われる上賀茂神社まで路線バスに乗車し、車内外の観察を進めたい。
筆者は、バスターミナル北西の端(B1)から9番系統(西賀茂車庫行)に乗車することとした。特急バスなどが停車する場所からも離れ、なおかつ、10分間隔で運行されている9番系統は、ほぼ地域住民がバスを待っていた。

このバスは、堀川通を北に向かって進む。途中には、西本願寺や二条城といった有名観光地も位置している。しかし、観光客のほとんどは、Aターミナルから出発する4番系統を待っているようだ。そちらの方に目を向けると観光客と思われる大きな荷物の乗客が多い。
9番系統は、有名観光地までの間、数多くの乗客が乗り降りを繰り返す。そして、晴明神社を越え、今出川通を過ぎると車内に立っている乗客は、ほとんどいなくなった。観光客が少ない一つの理由は、このバスが上賀茂神社まで行かず、近くの上賀茂御薗橋の南側を通るためだ。一方、4番系統は上賀茂神社まで直通するために、観光客のほとんどが、そちらを選択しているのだ。
面で捉える重要性
WEB上にあらゆる「乗車案内サイト」が整備されるようになった。そのため、多くの観光客はこれらのアプリを活用して、目的地に移動する。しかし、目的地が目の前にないと、移動方法の選択肢から外されてしまうのだ。アナログ時代の観光は、地図を片手に目的地を面で捉えていた。一方、デジタル時代の観光は、線どころか、点と点をつなぐだけのものとなっている。

約30分ほど乗車して、9番系統は御薗橋西詰を左折する。目的地の上賀茂神社とは逆の方角だ。御薗橋通の商店街の中で停車したバスは、まさしく、住民目線のものであった。残念なことに、京都駅を遅れて出発したために、すぐ後ろには10分後の同系統のバスが停まっていた。
路面が濡れている。つい先程まで通り雨だったようだ。賀茂川を渡り上賀茂神社に参拝するが、訪日外国人はもとより、日本人の観光客も少なかった。訪日外国人にとって、好まれる観光地とは、どのようなものだろうか。この課題は、次回に譲ることとする。
今日はこれから、上賀茂神社から明神川を抜け、上加茂社家町の町並みを視察し、地下鉄の北山駅を目指す予定だ。ほとんど観光客に出会うことのない場所、小洒落たお店が多い北山通は、地元密着の華やかな町であった。

(つづく)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長