東京都内に居住していると「後楽園」とは、かつての野球場を思い出す。今では東京ドームと呼ばれる屋根付き球場が、その代名詞となっている。
しかし、小石川後楽園(こいしかわこうらくえん)は、文京区後楽にある都立庭園だ。江戸時代初期に水戸徳川家の江戸上屋敷内につくられた築山泉水回遊式の大名庭園である。国の特別史跡及び特別名勝に指定されている。「後楽園」とは、藩邸の庭園の名称である。

今や中心的な役割を遊園地「東京ドームシティアトラクション」に譲っているが、周辺のビル群の中に、ひっそりと位置する庭園こそ、この場所の由縁だ。その歴史は、水戸藩初代藩主徳川頼房が、敷地を庭園造りのために将軍から賜った邸宅である。当時、小石川は沼や丘があり起伏に富んだ地形だった。そのため、土地の形状を生かした作庭が可能であった。江戸時代初期、1629年に完成する。都内には、多くの大名庭園が現存するが、後楽園はその最古のものである。
また、2020年12月には、太平洋戦争で焼失した唐門も復元された。古い写真や絵図を基に、富山県南砺市の井波彫刻協同組合が、欄間や妻壁を組み込み完成させた。

あえて、見る角度を変えて・・・
さて、春は趣きのある梅林や菖蒲田に花々が咲き誇る。一方、秋は園内各所の木々に朱色が映える。特にJR水道橋駅方面から入園すると、ドームシティの嬌声は消え去り、都会の喧騒を忘れるほどの静寂空間が待っている。
残念ながら、周辺の高いビル群やドームの銀屋根も見え隠れする景色である。しかし、少しばかり見る角度を変えてみると、現代的な姿は視界から見えなくなり、江戸時代にタイムリープするような錯覚に陥る。
徐々に寒さが厳しくなってきた。11月下旬から12月上旬にかけて、東京都内の紅葉狩りは、秋本番、最盛期を迎える。

(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8
取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長