旅の見方が変わるとき
天王洲アイルで観光地域づくり(DMO)に携わるようになり、旅の見方が少し変わったように感じています。観光地は「つくるもの」なのか。それとも「見つけるもの」なのか。地域の魅力とは何なのか。そのようなことを考えるようになってから、旅の仕方そのものも少し変わりました。
旅に出るとき、私たちは通常、目的地を決めて出発します。しかし、あえて行き先を決めないことで見えてくる風景や、感じられる豊かさもあるのではと思います。
この春、新緑に包まれた三浦半島を訪れ、そんな旅の原点のような感覚を味わってみてはいかがでしょう。三浦半島は、都心から電車でおよそ1時間。思い立ったときに、ふらっと出かけられる距離にあります。近いはずなのに、駅を降りた瞬間から日常とは少し違う時間が流れ始めます。潮の香り、土の匂い、海風と強い日差し。確かに「旅に来た」と感じられる空気がそこにはあります。

行き先を決めない旅という選択
電車を気ままに途中下車し、目的地を定めずに歩いてみる。有名な観光スポットを巡るわけでもなく、行程を詰め込むわけでもない。気になる方向へ進み、景色が開けた場所で立ち止まり、風が心地よければ遠回りをしてみる。そんな歩き方をしていると、三浦半島は驚くほど多くの表情を見せてくれます。とりわけ新緑の季節は、この土地の魅力が際立ちます。谷戸を覆う柔らかな緑、光を受けて色を変える海、畑と住宅地が自然につながる風景。「見る」という行為が、単なる観光ではなく、土地の時間に身を委ねる体験へと変わっていくように感じられます。

日常に溶け込む異国情緒
三浦半島の魅力は、日本らしい自然や暮らしの中に、ふと異国情緒が入り込んでくるところにもあります。米軍基地の存在もあり、英語の看板や多様な人々が行き交うまちの風景は、ときにアメリカにいるかのような感覚を与えます。それは、観光向けに演出されたものではなく、この土地が積み重ねてきた歴史の延長にある日常です。歩いていると、日本の暮らしと異国の文化が自然に混ざり合う場面に出会います。その境界の曖昧さこそが、旅に奥行きを与えているのだと思います。
さらに、市街地から南へ足を延ばすと、旅の醍醐味である「見る」「食べる」「体験する」が、自然に揃っています。新鮮な魚介や地元の野菜を味わい、人々の暮らしに触れ、自然の中を歩く。特別な準備や知識がなくても、旅の満足度は高まっていきます。

地域の「余白」を活かすという考え方
観光地域づくり、そしてDMOの視点から三浦半島を見ると、この地域は一つの示唆を与えてくれます。それは、「観光地は必ずしもつくり込まなくてもよい」ということです。この地域に求められるDMOの役割は、新しい目玉を生み出すことではなく、すでにある自然、暮らし、文化、そして異国情緒といった多様な要素をゆるやかにつなぐことにあるのではないでしょうか。そして、訪れる人それぞれが、自分なりの旅の入口を見つけられるようにすることです。そのために必要なのは、地域が本来持っている「余白」を守り、それを伝えていくことなのだと思います。

自分の感覚を取り戻す旅へ
行き先にとらわれない旅は、効率や正解から一度離れ、自分の感覚を信じる時間を与えてくれます。その感覚を取り戻すことこそ、これからの観光にとって、そして私たち自身にとっても、大切な価値なのではないでしょうか。
今、三浦半島は一年の中でも最も美しい季節を迎えています。新緑、海、食、暮らし、そして異国情緒。遠くへ行かなくても、行き先を決めなくても、身近な旅の中でお気に入りの場所を見つけることは、人生を少し豊かにし、日々を少し楽しくしてくれます。この春、ふらっと三浦半島を訪れてみてはいかがでしょうか。そこには、きっとあなただけの旅の風景が待っているはずです。
※サムネイルは、小網代湾:森・湿地・干潟・海が連続し、貴重な自然生態系を育む環境。
寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 会長