アニメーションの背景美術を20年以上手掛ける石林武之氏と、音楽指導を22年続ける「ことたまボイストレーナー」の石林里英氏夫妻。9月13日には、札幌市のライブスペース「Merry Echoes」で3回目の「高橋武之作品展」を開催し、41人が来場。会場は満席となった。武之氏は作家名「高橋武之」で活動する。2人は背景画の展示に歌とピアノ、ギターの演奏を重ね、作品を地域へ足を運ぶ入口にする取り組みを進める。今回は、作品展の手応えと、地域の記憶を次世代へつなぐ活動への思いを聞いた。(9月15日オンライン取材、聞き手=ツーリズムメディアサービス特任記者・地域創生プロデューサー 髙橋亜佳理)
背景と声、それぞれの道を20年以上
――まず、2人のこれまでの経歴や現在の取り組みについて教えてください。
武之氏 20余年にわたり、背景美術やセットデザインに携わってきました。背景美術では、ただきれいな絵を描くのではなく、その物語の舞台がどんな場所なのか、時間や季節、空気、人の暮らしまで考えながら、一つの世界をつくっています。
石林武之氏は、作家名「高橋武之」としてアニメーション背景美術の仕事を続けてきた。作品展など作家としての活動では「高橋武之」の名前を使用している。
里英氏 私は音楽大学卒業後22年間、子どもからシニアまで幅広い世代に音楽を伝えてきました。音楽や声を通して、人の声を聴き、その人らしさを引き出すことを大切にしています。
武之氏 現在は2人とも、地域の資源を生かした活動づくりを学ぶ「地域創生プロデューサー講座」で学びながら、それぞれの専門性を地域に関わる活動へどう生かせるかを考えています。
里英氏 夫婦になる前から「まだ言葉にならないものを、2人で何かの形にしてみたい」という思いがありました。それぞれ違う分野で経験を重ねてきましたが、今は絵や音楽、言葉などを組み合わせながら、2人だからこそできる表現を探しています。
背景美術と音楽を一つの空間に
――今回の作品展の手応えはいかがでしたか。
里英氏 過去2回も満席となり、今回は定員35人の会場に追加で席を設け、計41人が来場しました。
背景美術と音楽は違うもののようでいて、どこかで響き合うものがあると思っています。それをどう人に届けるか、これまで試行錯誤を重ねてきました。今回の会場では背景画を展示し、歌とピアノ、ギターによる演奏を組み合わせました。武之さんが背景美術やアニメーションについて話し、私が進行を担当しました。
3回目を終え、反省点を感じる一方で、「私たちらしい形が少し見えてきたのかもしれない」という感覚が初めてありました。開催後には、背景画のさらに奥にある話を聞けたことを喜ぶ感想もいただきました。2人の話にうなずきながら耳を傾けてくださる来場者の姿も心に残っています。それぞれが持っているものを持ち寄り、2人だからこそ生まれる世界を、必要とする誰かに届けたいという思いがあります。
――2人で活動するからこそできることは何でしょうか。
里英氏 同じ場所を見ても、捉えているものが違います。武之さんは景色や空間、全体の構成を見る。私は人の声や表情、会話の中にある思いを見ます。
武之氏 だからこそ2人で話すと、一つの場所についても風景と人の両方から考えることができます。まず地域の人と訪れる人がどのように関われるかを考えたいと思っています。
里英氏 その視点を、絵や音楽、言葉など、目的に応じた表現へ変えていけることも強みです。誰に何を届けたいのかを考えながら、伝え方を選べます。一つの方法に決めつけず、風景、人の声、作品、体験を組み合わせながら、地域との接点を増やしていきたいと考えています。

土地にある世界を見つけ、人の声を聴く
――それぞれの仕事で培った経験は、地域を見る視点にどうつながっていますか。
武之氏 背景美術では、その物語の舞台がどんな場所なのかを考えます。時間や季節、空気、人の暮らしまで含めて、一つの世界をつくる仕事です。地域に関わるときも、風景を単独で見るのではなく、山や川、道、建物、祭り、人の暮らしがどう結びついているのかを考えます。そうすることで、場所を点ではなく、関係性のある風景として捉えられるのだと思います。
里英氏 音楽を通して培ってきたのは、まず聴くという姿勢です。地域の人が何を大切にし、何を誇りに思い、何に困っているのか。外から見ただけでは分からないことも、声を聴くことで知ることができます。武之さんが景色や空間を捉えるとすれば、私は人の声や表情から、その土地で暮らす人の思いを受け取っています。
――地域に関わる際、共通して大切にしていることは何でしょうか。
武之氏 地域の外から新しいものを持ち込む前に、まずその土地にあるものを知ることです。地域の魅力は名所や有名な観光地だけではありません。何気ない道や、そこから見える景色、昔から続く暮らしの中にもあります。日常の風景を丁寧に見直すことが、その地域を知る入口になると思っています。
里英氏 地域にはすでに多くの人や資源がありますが、日常の中にあるため、本人たちには価値が見えにくいこともあります。話を聞いたり、歩いたりしながら、地域の人と一緒に確かめていくことを大切にしています。
作品との出会いを、地域を訪れる入口に
――今後、どのような作品や体験をつくっていきたいですか。
武之氏 地域を知る入口となるアニメーションをつくりたいです。アニメーションなら、実在する風景だけでなく、その土地の歴史や自然、暮らし、未来への想像まで含めて表現できます。複数の要素を組み合わせて、地域への関心を生み出す作品にできると考えています。
里英氏 作品を見て終わりではなく、「この場所を訪れてみたい」「もっと知りたい」「ここで暮らす人の話を聞きたい」と思ってもらえる入口をつくりたいです。そこから実際に人が訪れ、地域の人と出会い、新しい関係が生まれる。作品と現地での体験が行き来するような仕組みをつくっていきたいと考えています。
何度でも関わりたくなる地域へ
――10年後、地域にどのような姿を思い描いていますか。
里英氏 「観光客を呼ぶ場所」だけでなく、「何度でも関わりたくなる場所」になっていたら面白いと思います。一度訪れて終わりではなく、再訪したり、地域の人とつながったり、仕事や学びを通して関わったりする。訪れる理由や関わり方が一つではない地域になっていてほしいです。
武之氏 住んでいる人が、自分たちの地域にもっと誇りを持てるようになっていたらうれしいです。子どもたちが「自分たちの町には、こんな面白いものがある」と胸を張って言える場所になっていたらいいと思います。外からの評価だけでなく、地域の中で価値が受け継がれていることが大切です。
地域にある記憶を次の世代へ
――最後に、地域に何を残していきたいですか。
武之氏 単なる観光コンテンツではなく、その土地にある記憶や、そこに暮らしてきた人の経験を次の世代に手渡したいです。自然や文化、人の暮らしも、誰かが築いてきたものを私たちは受け取っています。それを自分たちのところで終わらせず、次の人へ渡していきたいと思っています。
里英氏 アニメーションも音楽も言葉も、伝えるための手段です。大切なのは、地域の人が何を残したいと思っているのかを確かめ、それを未来へつなぐことです。
武之氏 これまでそれぞれの仕事で積み重ねてきたことが、今になって一つにつながり始めているのかもしれません。
里英氏 背景をつくる仕事と、声を聴く仕事。一見異なる道を歩んできた私たちは今、地域という舞台で、風景と人の記憶を次の世代へ手渡そうとしています。地域には、まだ知られていない風景や声、経験があります。それらを丁寧に受け取り、必要な形に整え、未来へつないでいきたいです。

聞き手 髙橋亜佳理 ツーリズムメディアサービス特任記者、地域創生プロデューサー