アジアみらい文化交流協会推進委員の小田切妙氏は着物文化を絶やさず次世代へつなぐ取り組みや、教育、ホスピタリティ、日本とアジアの文化交流に対する思いを語った。
MCや講師として活動する傍ら、着物文化の継承や日本とアジアの文化交流に取り組む、アジアみらい文化交流協会推進委員の小田切妙氏。着物を「特別な日の装い」ではなく、日常の選択肢として次世代へつなぐことを目指している。今回は、ホテルやレストランへの就職を目指す学生にホスピタリティを教え、着付け講師としても活動する小田切氏に、着物文化が直面する継承の課題や、時代に合わせた教育の在り方、日本とアジアを結ぶ文化交流への思いを聞いた。(8月28日、インタビューアーはツーリズムメディアサービス特任記者 熊谷綾)
MC、教育、着物 多彩な活動を一つにつなぐ
――現在は、どのような分野で活動されていますか。
MCやタレントとしての活動に加え、接遇介助士ホスピタント認定講師として、ホテルやレストランでの就職を目指す学生にホスピタリティやおもてなしについて教えています。また、着物が好きということもあり、着物愛好家、着付け講師としても活動しています。
ギャラリーの運営に携わることもあり、紅茶も昔から好きです。以前はカフェを営んでいて、そこで提供していたかき氷を今でも「また食べたい」と言ってくださる方がいます。分野だけを見ると幅広いのですが、自分の中では、人と人をつなぐことや、その人に喜んでもらうことという部分でつながっています。
和文化とは昔から縁があり、長刀と剣道も続けてきました。現在はアジアみらい文化交流協会の推進委員として、日本とアジアを文化でつなぐ活動にも関わっています。
おもてなしは相手の尊厳を大切にすること
――教育分野では、どのようなことを大切にしていますか。
ホテルやレストランなどで接遇やホスピタリティについてお伝えしていますが、私が大切にしているのは、単に接客技術を身に付けることではありません。
ホスピタリティを尽くすということは、目の前にいる人を一人の人間として尊重することにつながると思っています。相手が何を求めているのかを考え、その人の立場に立って行動する。その積み重ねがおもてなしになると考えています。
一方で、教育の現場に立っていると、今の学生と自分たちの世代では、考え方や受け止め方が大きく違うことも感じます。以前と同じ教え方を続けるだけでは伝わらないこともあります。
だからこそ、教える側も常にアップデートしていかなければなりません。自分の専門分野だけを見るのではなく、さまざまな分野から学び、今の世代にどのように伝えれば届くのかを考え続けることが大切だと考えます。
着物を「特別なもの」にしない
――着物文化の継承に力を入れるようになった背景を教えてください。
着物は日本の民族衣装であり、残していかなければならない大切な文化の一つです。しかし現在は、着物を着ること自体が「特別なこと」「大変なこと」と捉えられるようになっています。
成人式や結婚式など、特別な日だけに着るものというイメージが強くなり、日常生活の中で着物を見る機会も減りました。着る人が減れば、当然、作る人や売る人にも影響が出ます。作り手の後継者不足や販売不振も深刻な問題です。
だから私は、まず着物を着る機会そのものを増やしていきたいと思っています。着物姿の人を街で見たり、イベントで目にしたりする機会が増えれば、「自分も着てみたい」と思う人が出てきます。
日本最大級の着物イベントでMCを担当する機会もありますが、こうした場を通じて、着物をより身近に感じてもらうことも大切だと考えています。
「正しく着る」より、まず着て楽しむ
――着物を身近にする上で、どのような課題がありますか。
着物はルールが多く、難しいという印象を持たれやすい文化です。着方について細かく指摘する、いわゆる「着物警察」と呼ばれるような存在も、これから着物を着てみたい人にとっては一つのハードルになっていると感じます。
もちろん、着物には長い歴史の中で受け継がれてきた決まりや美しさがあります。それを知ることも大切です。ただ、最初からすべてを完璧に求めてしまえば、「間違えたらどうしよう」「注意されたら嫌だな」と思い、着ること自体を避ける人が増えてしまいます。
まずは着てみること、楽しんでみることから始めてもらいたいと思っています。身近な場所で着物を目にする機会が増えれば、着物に対する心理的な距離も少しずつ縮まっていくはずです。
着物を守るということは、昔と全く同じ形を維持することだけではありません。今の時代の暮らしの中にどう残していくのかを考えることも、文化を継承するためには必要だと思います。
着物から各地の伝統文化へ関心が広がる
――着物に関わることで、ほかの伝統文化についても感じることはありますか。
着物を入り口にして伝統文化に関わっていくと、自然と日本各地の文化につながっていきます。着物一つを取っても、生地を織る人、染める人、仕立てる人など、多くの技術や仕事によって支えられています。
そして各地を見ていくと、着物だけではなく、さまざまな伝統文化が同じように後継者不足や担い手不足という課題を抱えていることに気付きます。
長い時間をかけて受け継がれてきた技術や文化が、一度途絶えてしまえば、元に戻すことは簡単ではありません。伝統文化の美しさは、その国にとっての宝物だと思っています。
だからこそ、ただ「残したい」と言うだけではなく、日常の中で触れる機会をつくり、次の世代が興味を持てる入口を増やしていかなければなりません。
日本とアジア、文化を通じて互いに学ぶ
――アジアみらい文化交流協会では、どのような交流を目指していますか。
日本とアジアが文化を通じて交流し、互いに学びながら発展していくことを目指しています。
文化には、言葉だけでは伝えきれない、その国の歴史や価値観、暮らし方が表れます。日本の文化を海外の方に知っていただくことはもちろんですが、私たち自身もアジアのさまざまな文化に触れることで、新しい発見があります。
自分たちの文化は、自分たちだけで見ていると当たり前になってしまいます。外から見てもらうことで、初めてその価値に気付くこともあります。
着物をはじめとする日本文化を伝えると同時に、相手の文化も尊重する。一方通行ではない文化交流を積み重ねていくことで、互いの理解や発展につなげていきたいと考えています。
着物がワードローブの一つになる社会へ
――今後、着物文化をどのような形で次世代へつないでいきたいですか。
最終的には、着物を着ることが特別なことではなく、洋服と同じようにワードローブの一つの選択肢になる社会をつくりたいと思っています。
「今日はワンピースにしよう」「今日はパンツスタイルにしよう」という選択肢の中に、「今日は着物を着よう」が自然に入ってくる。そのくらい身近な存在になれば、着物文化はこれからも残っていくのではないでしょうか。
文化を残すために必要なのは、守らなければならないと訴えることだけではありません。「楽しい」「きれい」「着てみたい」と感じてもらえる機会を増やすことだと思います。
そして、着物だけに限らず、日本には各地域に守るべき文化があります。それを次の世代へ渡していくためにも、まず私たち自身が文化に触れ、その魅力を知り、誰かに伝えていくことが大切です。
伝統文化とおもてなしを次の世代へ
――これから取り組んでいきたいことを教えてください。
これからも、着物をはじめとする伝統文化を残し、次の世代へ引き継ぐ活動に力を入れていきたいと思っています。
同時に、ホスピタリティについても、単なる接客マナーとしてではなく、人として相手を尊重する考え方として伝えていきたいです。おもてなしの心を自然に育てていけるような仕組みをつくることも、今後取り組みたいテーマの一つです。
伝統文化もホスピタリティも、根底にあるのは人を大切にすることだと思っています。過去から受け継いできたものを大切にしながら、時代に合わせて伝え方を変え、次の世代につないでいく。そのために、自分自身も学び続けていきたいです。
※小田切妙=アジアみらい文化交流協会推進委員。MC、タレントとして活動するほか、接遇介助士ホスピタント認定講師、着物愛好家兼着付け講師として教育や伝統文化の継承に取り組む。ギャラリー運営にも携わり、薙刀、剣道の有段者。日本とアジアの文化交流を通じた相互理解や、着物を日常の選択肢として次世代へつなぐ活動を進めている。
聞き手 熊谷 綾 ツーリズムメディアサービス特任記者、気仙沼DMC所属(マネージャー)、日本DMCアライアンス所属)