IC乗車券のない時代は、紙の乗車券が列車に乗る際に必須アイテムだった。そして、その乗車券が旅の思い出となっていた。
「愛の国から幸福へ」というキャッチフレーズ、旧国鉄広尾線・幸福駅は、その素敵なネーミングが人気を博した。学生を中心に周遊券で旅する人々が、記念として硬い乗車券を購入する。中には、プラスティックケースに入れた土産品になったものもある。残念ながら、1987年、国鉄民営化前に広尾線は廃止され、駅舎は閉鎖された。
しかし、この駅舎は、廃止後も北海道ツアーには欠かせぬ観光地として組み込まれる。いつしか、記念写真スポットが作られる。また、近隣のお土産屋が切符を継続して販売する。そして、駅舎は、さまざまな落書きが年を追うごとに増えていった。当然、駅の建物は、そのまま残されている。
良きモノは残り、未来につながっていく
既に廃止されて40年近くなる場所。しかし、道央の観光地としてガイドブックにもページが割かれている。今では死語となりつつある「切符」が、まだまだ人気アイテムなのだ。建物の方々に切符を模したステッカーが隙間のないぐらいに貼られている。
北海道は、急速に高速道路網が発達している。それに伴い、鉄道網は減少傾向にある。既に南端の襟裳岬は、鉄道路線がなくなった。また、路線バスも運行本数が減らしている。その結果、行こうにも行きづらい観光地となり、人気も減少傾向となっている。
この先、幸福駅はどのように残っていくのか。移動手段がバスからレンタカーに変わったことは、観光の個人旅行化の大きな要因でもある。旅の原点回帰につながる新たな観光コンテンツとして、変化することが未来を創造していく道筋になるかもしれない。
(2016.12.08.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長