エイチ・アイ・エス(HIS)は6月12日、2027~2030年10月期を対象とする新たな中期経営計画「Vision 2030 BEYOND」を発表した。2030年に総取扱高1兆円、売上高5,000億円、営業利益250億円を目指し、旅行事業中心の収益構造から脱却。AI活用やM&A投資を加速し、ホテル事業や訪日事業、グローバルトラベル事業を新たな成長エンジンとして育成する方針を示した。
「BEYOND」を掲げ、旅行会社の枠を超える
新中計のテーマは「BEYOND」。同日開かれた説明会では、澤田秀太社長が、「現状に満足した瞬間、成長は止まる。事業の領域、国境、そして自らを超えていく」と語った。
計画では、3つのBEYONDを柱に据える。
- BEYOND TRAVEL(旅行会社の枠を超える)
- BEYOND JAPAN(日本市場依存からの脱却)
- BEYOND HIS(AI活用による組織変革)
旅行事業を基盤としながらも、ホテルやコンテンツ事業、グローバル事業などを組み合わせた「垂直統合型SPA旅行業モデル」への進化を目指す。
2030年に営業利益250億円、過去最高更新を目指す
2030年の連結目標として、HISは総取扱高1兆円、売上高5,000億円、EBITDA350億円、営業利益250億円を掲げた。営業利益は2025年実績116億円から2倍超となり、過去最高の更新を目指す。
また、従業員数は現在の約1万2,700人から約1万3,700人へと小幅な増加にとどめる一方、営業利益率は5%まで引き上げる計画で、生産性向上を重視する姿勢を打ち出した。
澤田社長は「人数を大幅に増やすのではなく、テクノロジーと人材力を融合しながら利益成長を実現したい」と説明した。
AI活用で旅行ビジネスを変革
今回の中計で最も強調されたのがAI・テクノロジーの活用だ。
HISでは「AX(AI Transformation)」を推進し、需要予測によるダイナミックプライシングや、顧客ごとに最適な提案を行うハイパーパーソナライゼーションを導入する。これにより売上向上と業務効率化を同時に実現する考えだ。
レジャー旅行分野では販売業務の約40%削減を想定しており、創出した人材リソースを成長事業へ再配置する。さらに顧客データ活用による単価向上やLTV最大化も進める。
澤田社長は、「旅行業はAIに代替されると言われるが、私はそうは思わない。AIで効率化できる部分と、人にしかできない価値を組み合わせることで収益性を高められる」と語った。
ホテル・訪日・グローバル事業を次の柱へ
事業ポートフォリオも大きく見直す。
HISは事業を「コア領域」「ネクストコア領域」「グロース領域」の3つに再編。
コア領域は日本人向け海外旅行事業を中心とする既存事業。一方でネクストコア領域にはホテル事業、訪日旅行事業、グローバルトラベル事業、法人事業を位置付ける。さらに金融、人材、AI関連などをグロース領域として育成する。
Q&Aでは、日本人海外旅行市場の回復が想定より遅れていることを踏まえ、「旅行事業一本への依存は経営リスクになる」と説明。2030年にはホテル、グローバルトラベル、法人、グロース領域の4事業でコア事業を上回る利益水準を目指す方針を示した。
特にグローバルトラベル事業については、現在約2,400億円規模の取扱高を2030年に3,000億円へ拡大する計画。海外拠点間のクロスセルや訪日事業の強化、BtoB営業の拡大を進める。
4年間で1,000億円投資、M&Aも加速
成長投資としては、2027~2030年の4年間で総額1,000億円を投じる。
このうち400億円をM&A枠として設定。ホテルやグローバルトラベル事業に加え、金融、人材派遣、飲食など旅行とのシナジーが見込める分野への投資を進める。さらにCVCを通じてAIや宇宙関連分野への投資も視野に入れる。
澤田社長は、「現在の旅行事業が安定したキャッシュを生み出しているうちに、次の収益の柱を確立したい」と述べ、中長期的な事業ポートフォリオ転換への意欲を示した。
旅行会社から“グローバル成長企業”へ
HISはコロナ禍からの回復フェーズを経て、営業利益100億円超を安定的に確保できる体制を整えた。一方で、日本人海外旅行市場の回復鈍化や人口減少、AIの進展など事業環境は大きく変化している。
今回の新中計は、旅行会社としての強みを維持しながらも、ホテル、訪日、グローバル事業、さらには新規事業へと成長の軸を広げる「第二創業」ともいえる内容となった。2030年の創業50周年に向け、HISがどこまで“旅行会社の枠を超えられるか”が注目される。
※サムネイルは、HISの澤田社長。
取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通