全国で相次ぐクマの出没が、観光・宿泊施設の運営にも新たなリスクとなっている。クマの侵入による施設閉鎖や宿泊予約のキャンセルなどを補償する保険商品には300件を超える問い合わせが寄せられており、北海道や東北を中心に宿泊事業者などの関心が高まっている。東京商工リサーチ(TSR)が「クマ出没と企業活動への影響」としてまとめた。
東京海上日動火災保険は2025年11月、「クマ侵入時施設閉鎖対応保険」を発売した。クマの侵入に伴う施設の閉鎖や、宿泊業などで発生する予約キャンセルによる損失を補償するほか、電気柵や威嚇装置など安全対策にかかる費用も対象とする。
同社によると、これまでに300件以上の問い合わせがあり、加入者は北海道や東北に多い。業種では宿泊業やゴルフ場運営業者などが目立つという。
担当者は、現時点で保険金支払いにつながる被害は発生していないとした上で、施設利用者に安心・安全な環境を提供するため加入を検討する事業者が多いとしている。
クマ出没の影響は観光業に限らない。TSRが今年2月に実施した調査では、冬眠前のクマ出没を受けて何らかの対応をした企業は全国で7.8%。特に東北では27.8%に達し、全国平均を大幅に上回った。
福島県では6月、電子機器メーカーの敷地内にクマが侵入した。同社は門を常時閉鎖し、クマの忌避剤を導入するなどの対応を迫られた。朝方の侵入だったため、従業員に人的被害はなかったという。
調査には「配送ルートを変更した」(東北の製造業)、「拠点を縮小または閉鎖した」(中部の総合工事業)との回答もあり、クマの出没が従業員の安全確保だけでなく、物流や事業拠点の運営にも影響を及ぼしている。
一方、「熊リスク」の高まりを新たな需要として捉える動きも出てきた。岩手県大船渡市で建材販売などを手がける橋爪商事は6月23日、AI(人工知能)を活用したクマ検知システムを発売した。7月には仙台市で開催された展示会に出展し、今後の導入拡大を見込む。
クマは山間部だけでなく都市部でも目撃が相次いでいる。環境省は7月17日、「アーバンベア対策チーム」を発足。クマ対策の成功事例を収集・共有し、市街地での出没への対策強化を図る。
クマの出没は地域住民の安全だけでなく、宿泊施設やゴルフ場など、自然環境そのものを観光資源とする事業者にとっても無視できないリスクとなっている。
TSRは、顕在化する「クマ」リスクが企業にBCP(事業継続計画)の見直しを迫る一方、保険や検知システムなど新たなビジネスも生み出していると指摘している。