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食で地域をつなぐレストランとローカルフードプロジェクト

コメント

 最近、旅行に関するアンケート調査の結果を3件連続で見ることがあったのですが、旅行目的の1位はいずれも「食」に関するものでした。訪日外国人旅行者においても日本の食に対する関心は年々高まっており、食はツーリズムの大きな要素です。

 かく言う私も、出かける目的はほぼ「食」。何かしら「地域」を感じられる食が大好物の食いしん坊です。

「地域を食べる」

 先日、しまなみ海道に位置し柑橘の産地としても有名な、広島県の瀬戸田というまちを訪れました。瀬戸田には、築140年以上となる豪商のお屋敷を改装した「Azumi Setoda」というレストランがあります。こちらで提供される食事にまさに「地域を食べる」を体験させていただきました。

 Azumi Setodaで使う食材は、半径50km圏内という、人が1日で歩いてたどり着ける距離に絞ることで、その地域の風土と向き合うことを大切にするコンセプトを設けています。制約があるからこそ、一つの食材のそれぞれの部位から香りや食感など引き出せるものを最大限に引き出す、様々な工夫を凝らして無駄にするところなく丸ごと使い尽くす等、地域の食材および生産者さんと丁寧に向き合い、活かしきる知恵が生まれます。

葉や皮、間引きの人参まで全てを活用、仕込みに3日も手をかけて工夫を凝らし、でもシンプルに仕上げられた人参の一皿
葉や皮、間引きの人参まで全てを活用、仕込みに3日も手をかけて工夫を凝らし、でもシンプルに仕上げられた人参の一皿

ローカルフードプロジェクト

 先日は、1年間の感謝を込めて、地域の生産者さんをレストランに招待するイベントが開催されたとのこと。野菜や畜産の生産者、漁師、ワインや日本酒の醸造家、塩や味噌の生産者等が一堂に会し、普段は地域と訪問者をつなぐ役割となっている生産者さんたちが、その日は作り手同士の交流を楽しみ、そのコミュニケーションからまた有機的なつながりや取り組みが生まれていく。そんな姿を想像し、ふと、ローカルフードプロジェクトを思い出しました。 

 ローカルフードプロジェクト(LFP)とは、農林水産省の主導で2021年から始まった、地域の多様なプレイヤーが集まり、地域の食資源を活用して新たな価値をつくることに挑戦する取り組みです。毎年全国各地でプロジェクトが立ち上がり、さまざまな取り組みが同時に進行しています。現在までに28の都道府県が参画していますが、宮崎県は3年連続してこのLFPに参画し、2021年度8件、2022年度7件と、全国最多のプロジェクトを生み出してきました。

 私も、いちごの子会社で宮崎県に所在するショッピングセンターを運営する宮交シティの新規事業として2019年から農業支援事業に取り組んでいるご縁で、宮崎県のLFPに3年連続で参画させていただいています。

 みやざきLFPでの最初のプロジェクトは、本社を宮崎県に置く航空会社ソラシドエアさんと県内の生産者さんと一緒に、物流課題に取り組むコンソーシアムを立上げるものでした。ソラシドエアさんの客貨混載・空陸一貫配送で実現する当日配送の利点を生かして、朝どれの野菜や朝絞め地頭鶏(じとっこ)、きれいな水質環境で丁寧に育てられたチョウザメ(キャビアを取った後のチョウザメの母体)などの新鮮なみやざき食材を、首都圏のホテルやレストランへ当日配送する仕組みづくりを行っています。このプロジェクトをきっかけとして、宮崎の素晴らしい食材や生産者さんを首都圏の皆さんに知っていただけたことがありがたく、また、お届け先の飲食店さんからも、宮崎の新しい魅力を知るきっかけとなったとの大変うれしいコメントをいただけました。

宮交シティで集荷し、ソラシドエアの客貨混載・空陸一貫配送で運んだ宮崎の食材を、当社が保有する新宿のホテルTHE KNOT TOKYO Shinjukuにお届けする様子
宮交シティで集荷し、ソラシドエアの客貨混載・空陸一貫配送で運んだ宮崎の食材を、当社が保有する新宿のホテルTHE KNOT TOKYO Shinjukuにお届けする様子

 次に取り組んだのは、自然生態系農業のまち宮崎県綾町の野菜の生産者さんグループと、複数の県内食品製造事業者さんとともに、無農薬の人参の葉や、形やサイズのそろわない野菜の有効活用を模索するプロジェクトです。このプロジェクトでは、商品開発に加えて、その商品のお披露目を兼ねて綾町の魅力を綾町の皆さん自身が再認識する食のイベントや、首都圏での綾町の認知を拡げるための綾町マルシェを開催しました。

綾町の魅力を再認識してもらう食のイベントでふるまわれた、綾人参100%のジュースと、無農薬だからこそ使える綾人参の葉を使ったパン
綾町の魅力を再認識してもらう食のイベントでふるまわれた、綾人参100%のジュースと、無農薬だからこそ使える綾人参の葉を使ったパン

 LFPの良いところは、同じように地域課題とそれに対する取り組み意欲を持つ、異なるジャンルの多様な事業者が集まり、対話を繰り返す場が生まれることです。そこから、限られたスケジュールの中で具体的なプロジェクトをやりきる工夫が生まれ、具体的なプロジェクトに繋がらなかった場合も有機的なコミュニティが残ります。

 一方でLFPの難しさの一つは、継続性だと感じています。プロジェクトは単年なので、県や事務局が音頭を取って伴走してくれる最初の1年の間に、仕組みのベースをつくり、次年度以降のビジネスにつなげるか、もしくは、構築したコミュニティのメンバーで、さらなるプロジェクトを育てていくか。参画する各事業者がそのような意識を持って初めから取り組みを開始することが肝要だと思っています。

 上記のソラシドエアさんのプロジェクトについては、構築した物流の仕組みを継続して活用しており、今年はこの物流を応用し、宮崎と横須賀をつなぐ取り組みを行います。綾町のプロジェクトでは、町役場と生産者の皆さまの協力を得て、原宿を拠点に「都市における食の循環」について活動するCATs Street Farmingのメンバーとともに、今年で3年目となる東京渋谷区のこども園での食育の取り組みを続けています。今後、綾町と渋谷、生産と消費が有機的につながる取り組みに育てていきたいと考えています。

綾町の生産者さんが渋谷のこども園に来て直接こどもたちに指導頂き種蒔きをした人参が、無事収穫を迎えまし
綾町の生産者さんが渋谷のこども園に来て直接こどもたちに指導頂き種蒔きをした人参が、無事収穫を迎えました

有機的なツーリズムにつなげる

 日本全国に不動産の保有物件および活動の拠点を持つ当社においては、今は都道府県ごとで取り組んでいるLFP同士をつなげ、新たな展開をつくっていくことも、自分たちが担える役割だと考えています。土台となるプラットフォームを構築して下さっている農林水産省はじめLFP事務局、宮崎県、それからいつも活動においてご協力下さっている事業者の皆さまに改めて感謝するとともに、LFPとLFPをつなぐことが、人と人をつなぎ、地域と地域をつなぎ、有機的なツーリズムにつながっていく、そんな未来を妄想しながら、これからも地域の多様で豊かな事業者の皆さんとともに、新しい仕組みづくりに取り組んでいきたいと思います。

寄稿者 田口沙緒理(たぐち・さおり)いちご㈱ サステナブルインフラ事業本部 農業支援部 部長

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