一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会は、観光地域づくり法人(DMO)として、天王洲アイルの観光振興と地域活性化を推進しています。当協会は、行政・企業・大学・地域住民を結びつける「コーディネーター」として、まちの価値向上に取り組んできました。
「観光地域づくり法人(DMO)と天王洲アイル」の連載は今回で第23回となり、最終回を迎えることとなりました。本連載では、天王洲アイルをフィールドに、DMOが果たす役割や官民連携、文化と観光の融合、そして地域が主体となるまちづくりの可能性について、多角的に考察してきました。

ハイブリッドな都市観光への挑戦
天王洲アイルは、オフィス街の機能に観光地の要素を組み込む、ハイブリッドなまちづくりに挑戦してきました。かつては物流・倉庫機能を担ってきたエリアであり、観光とは縁遠い地域でした。しかし再開発を経て進化した天王洲アイルは、水辺という資源、運河に囲まれた地形、企業活動と居住が共存する都市構造を併せ持ち、見方を変えれば大きな可能性を秘めていました。この「未完成さ」こそが、観光地域づくりの余白であり、DMOが関与する意義でもありました。

コーディネーターとしてのDMOの役割
天王洲・キャナルサイド活性化協会は、観光振興を目的とする協会でありながら、観光そのものをゴールとしてきたわけではありません。行政、地元企業、文化施設、地権者、住民、来街者といった多様な主体をつなぐハブとして、まずは地域の価値を丁寧に掘り起こし、共有することに力を注いできました。DMOの役割は、事業を主導する存在というよりも、対話を促し、共創を支えるコーディネーターであったと言えます。

日常から生まれる観光体験
天王洲キャナルフェスをはじめとするアート・文化イベントの開催、パブリックアートの導入、プロジェクションマッピングやライトアップ、水辺空間の利活用、舟運などの取り組みは、いずれも「観光客を呼び込むため」だけに行われたものではありません。地域で働く人、暮らす人、日常的に天王洲アイルを訪れる人々が、自分たちのまちに誇りを持ち、その魅力を語れるようになることを重視してきました。その積み重ねが、結果として外から訪れる人々にも伝わり、天王洲アイルならではの観光体験を育んできました。

都市型DMOの可能性を探る
本連載を通じて繰り返し触れてきたのが、「都市型DMO」の可能性です。地方の観光地と異なり、都市部では観光と日常の境界が曖昧であり、観光客と地域住民の行動が同じ空間で交錯します。天王洲アイルでは、アートクルーズや運河沿いの散策、日常の風景そのものが観光資源となり、観光客だけでなく地域の人々の生活にも自然に溶け込んでいます。このような重なり合いこそが、都市型観光の本質であり、DMOが果たすべき重要な役割だと考えています。

観光DXが支える地域のストーリー
観光DXへの取り組みも、天王洲アイルの地域づくりを支える重要な要素です。デジタル技術は集客のための手段ではなく、体験の質を高め、地域のストーリーを分かち合うためのツールです。アート作品やイベント情報の発信、回遊データの活用、来街者の行動分析などを通じて、天王洲アイルは「一度訪れてみたいまち」ではなく、「何度も訪れたくなるまち」へと少しずつ変化してきました。

天王洲DMOが果たす役割と他の地域への示唆
一方で、DMOは万能な存在ではありません。制度や肩書きがあるだけでは、まちは動きません。重要なのは、まちや周辺地域に存在するさまざまな文脈を読み解き、時間をかけて信頼関係を築き、挑戦と試行錯誤を続ける姿勢です。天王洲アイルの取り組みも、必ずしも順風満帆だったわけではなく、調整や対話に多くの時間を要してきました。しかし、その過程こそが、地域にとっての大切な財産になっていると感じています。
天王洲アイルの事例は、他の地域にそのまま当てはめられる「成功モデル」ではありません。しかし、地域の強みを見つめ直し、小さな実践を積み重ね、関係者同士が同じ方向を向くためのプロセスは、全国どの地域にも共通する示唆を含んでいるはずです。DMOは事業体であると同時に、関係性を育てる装置であり、地域の未来を共に考えるためのプラットフォームなのです。

おわりに-未完成であり続けるまちへ-
最終回となる本稿では、天王洲アイルの現在地を一つの通過点として位置づけたいと思います。完成形を目指すのではなく、常に更新され続ける地域であること。次の世代や新たな担い手が参画できる余白を残し続けること。それこそが、持続可能な観光地域づくりにつながると考えています。
本連載が、天王洲アイルという一地域の記録にとどまらず、全国各地で観光地域づくりに携わる方々にとって、小さなヒントや勇気となれば幸いです。DMOは制度ではなく、人と人、地域と地域をつなぐ「関係性のデザイン」です。
最後に、本連載を通じて天王洲アイルに関わってくださったすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。一つひとつの対話や小さな実践が、今日の天王洲アイルを形づくってきました。今後もこのまちが、関わる人それぞれの想いによって少しずつ育ち続けていくことを願っています。引き続き、天王洲アイルの取り組みを温かく見守り、応援していただけましたら幸いです。
寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 会長