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取捨選択と優先順位 出会いは成長の糧|セントラル警備保障 取締役常務執行役員営業本部副本部長 阪本未来子氏

コメント

――観光業と警備業の関わりについて。

警備業界全般として今夏、コロナ禍で完全な状態で行えなかった花火大会やフェスなどのイベント、催し物の警備の依頼を多く受けている。イベントを開催する地元の方は、3年ぶり、4年ぶりに実施する中、コロナへの感染を危惧する人もいるものの、イベントの復活を心待ちにしている人、イベントの楽しみ方に慣れていない人がいるなど来場人数や雰囲気の予測が難しく、関係する警備会社の方からは、どのような対策、どのような対応をすべきか、主催者、警察、近傍だと鉄道会社などと、毎回、綿密な打ち合わせの中で、リスク管理を今までになく大切にしていると聞いている。昨今は、夏に線状降水帯が発生するなど、災害の予報も多い。その中で、訪れた方が安心してイベントに参加する環境をつくる警備業は、観光業の一角を担う役割を果たしていると強く思っている。

――セントラル警備保障での女性の雇用の現状は。

 弊社における女性従業員の割合は、警備部門、それから技術部門、営業部門、経理など管理部門を含めて10%程度。現場、管理部門でのリーダー的役割の女性が増えてきたし、職域も拡大している。更に今年は、警備先に設置されているセンサーから異常信号を受信した際に、駆け付けるパトロール員に、初めて、新卒で女性の社員が配属された。彼女は非常にアグレッシブさを持っており、さまざまなことにチャレンジしたいと言っている。私が昔、JR東日本に入社した頃は、いろいろな設備や制度が整わなかった時代だったが、今は女性と男性が同じ仕事をして、経験を積む時代へと変わった。

 同様に管理職登用に関しても男女を問わず管理職を目指すところでしっかりと教育を行うほか、メンター制ではないが、管理職になった後も含めて継続した教育は必要である。私どもでは、管理職や管理職の手前の人たちに、社外研修など他流試合をしてもらいながら、常に意識高く業務に取り組んでもらっている。

――世間一般を見てどうか。

 私がJR東日本に新卒で入った時に比べ、女性が最前線で働くことが社会の中で当たり前となってきた。若手の間では「どのような生き方を選択するか」を重要視しつつ、働く場面では男性はこの仕事、女性はこの仕事という意識が薄くなっているような気がする。

 これは、例えば、学校で名簿を男女順ではなく「あいうえお」順にする、科目を男女で分けないといった、性差を感じさせない教育の賜物だと思う。実際、「女性がキャリアステップを踏む」ことに対し今年入社した人に尋ねると、「まずは仕事を覚えなければならず不安だが、いろいろなことにチャレンジしてみたい」と、目を輝かせて話す社員が非常に多かった。チャレンジングな意識や意欲を強く感じ、こちらも身の引き締まる思いがした。

――職場における女性の悩みは。

 警備業はもちろん、実は観光産業でも職種によっては男性の方が多いという印象はある。一般的な話として、若手がジェンダーレスの意識が強い反面、私も含めて古い世代は「この仕事はきめ細やかな女性が得意、この仕事は男性があっている」などのアンコンシャスバイアスが残っていることを反省している。よって、企業における女性の活用・登用の経験値でいうと、例えば女性はある仕事しか任されていない、していないなど、男女のキャリアに関して偏りがある場合がある。また、女性が責任ある立場を任されることも、以前よりはずいぶん多くなってきたが、一方で若い人からはなかなか任せてもらえないという話も聞く。今はさまざまな仕事に挑戦したいという意識が強くある女性は多い。男女問わずに人材育成という観点からも、働き方や子育ての多様化が進む今だからこそ、性差を考慮せずフラットに考え同じチャンスを与えてもらいたい。

 ある会社の話だが、アメリカやヨーロッパ、最近だとドバイに駐在させるにあたって何となく新興国は大丈夫だろうかという意識が働くという。これが、性差という形で見えている。本来はできる女性だが、小さな子どもがいることがハードルになっている場合もある。今は、小さな子どもでもパートナーに預けることもある。これは家庭内で決めること。もしかすると、社会全体が女性への「優しい思いやりが過ぎている」ことから、女性だけでなく企業側がチャンスをロスしているのではないか。

――仕事への意欲について。

 意欲は、育て方で向上する。若いうちからいろいろ仕事に携わり失敗も経験していると、男女における意欲差はない。人それぞれの性格もあるが、経験を積む中で、近くにこうなりたいという良いロールモデルがあると良い。意欲は本人の素質である部分はあるが、やはり意欲も含めて育てていくべきだ。

――女性の働き方に関わる制度について。

 1999年の改正労働基準法の施行により、女性労働者の時間外労働の制限や、休日、深夜労働の禁止がなくなるなど女性の保護規定が撤廃された。それまでは、医療従事者やキャビンアテンダント、パイロットを含めて必要な職種しか深夜労働などができなかった。1999年当時は、働き方改革やDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)ではなく、まずは女性活躍を推進してきたが、その潮流の中で多くの経営者が女性活躍推進を経営の中に位置付け始めた。それにより、制度が整うとともに、上司が女性の活躍を自分のことのように考え、女性がプロフェッショナル意識を持つようになった。

 現在、働き方においていろいろな制度があるが、制度は魂が入らないと互いに運用できないもの。経営トップも含めてDE&Iがなぜ必要なのかという部分をクリアにする。管理職社員はその会社の方針を理解し、男性も女性もプロフェッショナルになるにはどうしたらいいかを考えてもらいたい。いろいろな経験をしてきた中での発言だが、皆が納得する制度は、「運用する私たち」の気持ちや目指す方向を一緒にするものでなければならない。これは幹となる部分として重要であり、だからこそ、経営トップは、「各種制度」や「ありたい姿」について何度も繰り返し発信し社員一人ひとりを腹落ちさせなければならないと思う。

 これからのダイバーシティ=違うものを認めるとともに公正性が大事になる。公正さを保つためには、スタート地点の違いに着目した上で一人ひとりの状況に応じ、支援内容を変えるなどして、不均衡を是正する公正な環境を作らなければならない。これがエクイティである。また、解け合うというか寛容さというインクルージョンも業界問わず必要だ。それが何の目的で、なぜ必要かというと、「明るい将来に向けて」と言いたい。

――セントラル警備保障での働き方に関する取り組みは。

 もともと私どもはそこまで早くはないが、ダイバーシティ&インクルージョンというところを始めたのが2015年ごろから。ダイバーシティ関連として位置付け、いろいろなプロジェクトを立ち上げた。それから女性活躍推進や次世代育成支援対策推進法(次世代法)、くるみんマークの取得など、外からの知見をいただきながら進めている。2023年には、ダイバーシティ&インクルージョンに、エクイティを取り入れ、ジェンダー差別や職場環境の改善、違うことが当たり前の組織風土を目指して取り組んでいる。社内広報で案内するほか、グループ会社を交えて子育て中の女性の意見交換会も行っている。意見交換会では、制度の確認のほか、一人で悩みを抱えないことや先輩が話を聞くこと、本人が今後どのようにキャリアを積んでいくかなどを話し合っている。

――育児休業後の復職について。

 復職後は、復職前と変わらない仕事をしている場合もあるが、ケースバイケースだ。勤務時間は、全て時短勤務で対応が可能ならば良いが、警備サービスは24時間提供させていただいていることもあり、課題となる。しかしながら、一つができなければキャリアが終わりではない。本人の希望も聞きながら新たなキャリアの提案をすることもある。

――これからの時代を働く女性に向けて。

 全てを完璧にこなすことは難しい。例えば、時間は、1日24時間365日しかなく、この中でどう折り合いをつけていくかが大切だと思う。私は「何をどう納得して捨てていくか」を考えている。3年前まで私は親の介護をしていて、複数日の出張などできないことがあった。自分としては仕事を全うしたい、周囲の人に迷惑をかけたくない気持ちでいっぱいだったが、あえて職場内で事情を話すと、「仕事は皆ですることです。一人で抱え込まないでください。」と言われた。ふっと肩の力が抜け涙が出るほど嬉しかったが、真面目な人ほど取捨選択ができずに抱え込む傾向があるので、ここの仕事は自分がしっかりやる、ここは任せるなど、仕事にプライオリティを付けてほしい。もちろん、それでも無理であれば、上司や周りの人としっかり相談するべきだ。お願いしたいことは、周りの方からも積極的に声を掛けてほしいということ。

――女性ならではの強みについて。

 私は、能力については、性差はなく個人差だと思っている。あえて「傾向」として言えば、例えばホスピタリティや観察力、共感力、ネットワークづくりというところだろうか。ただ、それは傾向であり、全ての女性には当てはまらず、見極める必要がある。

――ご自身の強みは。

 非常に難しい質問である。強いて言えば、好奇心があるところ。いろいろなものに興味を持つ。だけど、体を壊すぐらいまでやってしまうところがあるので、今は自制しながら行うようにしている。好奇心を持つことは、「こうなりたい」、「これを知りたい」につながる。それは、ビジネスをサポートする心の拠り所にもなる。私は、あまりオン・オフや、ワークライフバランスという言葉は好きではない。ワークの中にライフがあるからだ。それでも、やはりワークに過度な比重を置くとアウトプットばかりになり自分が空っぽになる、自分がイライラすることがある。仕事は基本アウトプットだと思っており、好奇心がインプットを補う。好奇心は、その先に見えるものがある場合もあれば、自分のバランスの中で有意義な場合が有るなど、全体的に見れば仕事が楽しくなる役目を果たしている。

――これからに向けて、女性や観光業界の人に一言。

 観光から離れて、観光の持つ意味を考えたことがある。観光は非日常の体験を通じて心を豊かにすることであり、特に「人」との出会い、触れ合いが重要だと思う。現に私も、あの時にこうしてくださったこの方に会いたい、何かその時に話していて面白かったから今度行ってみたいということがすごくある。コロナは人と人を分断したが、今だからこそ、あの地であの時のあの人に会いたい、あの人にアドバイスをもらいたいという方が多いと思う。

 だからこそ、観光に従事されている皆さまには、人を大切にすることや、人と人とのつながりを意識する部分は、たとえ社会がデジタル化しても必要だと申し上げたい。デジタル化は時間の短縮や機会を均等化するためには必要なツールである。行き過ぎてしまうと、例えばSNS上の大量の口コミの中で何が真実かを見極めるなど、それがストレスになってしまう。要するに提供側もデジタルと人とのバランスを大切にしてほしいし、今後、人と人とのつながりはデジタル化が進むにつれて、より大切なものになるような気がしている。

 女性に対しては、コロナ禍を経て社会の価値が急速に変わっている今、従来の既成概念にとらわれずさまざまなことにチャレンジして欲しい。そして、観光はさまざまな経験によって人の心を豊かにすることと申し上げたが、皆さまが従事する今の仕事を通じてお客さまだけでなく自らも幸せで満たされるようになっていただきたい。

阪本未来子(さかもと・みきこ)=1989年に東日本旅客鉄道㈱に入社。大宮支社で営業部サービス課長、同営業部長を歴任。2012年鉄道事業本部サービス品質改革部長、2015年執行役員大宮支社長、2017年執行役員鉄道事業本部営業部長を経て、2019年常務執行役員鉄道事業本部営業部担当・観光担当・オリンピック/パラリンピック担当に就任。2021年5月から現職。

聞き手 TMS編集部 長木利通

セントラル警備保障 取締役常務執行役員 営業本部副本部長 阪本未来子
セントラル警備保障 取締役常務執行役員 営業本部副本部長
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