東京科学大学は6月9日、歩行アシストロボット「Walk-Mate(ウォークメイト)」を活用したバリアフリー観光ツアー「ロボット×街歩きによるバリアフリー観光:神楽坂ツアー」を実施した。坂道や横丁が多い神楽坂を舞台に、ロボットが旅行者の歩行を優しくサポートしながら、足腰に不安を抱える人でも江戸情緒あふれる街並みを楽しめる新しい観光のかたちを提案している。
Walk-Mateとはどんなロボットか
Walk-Mateは、東京科学大学が開発した装着型の歩行アシストロボットだ。人と人が「間(ま)」を合わせるという日本独自のコミュニケーション概念を、世界で初めてロボット工学に応用した点が特徴で、装着者の歩行リズムを読み取り、小型モータが自然に同調して駆動する仕組みを採用している。

重量は約2kgと軽量で、装着にかかる時間はわずか約1分。フィッティングの手順もシンプルで、一度ガイドのサポートのもと説明を聞けば誰でも迷わず着けられる設計になっている。
実際に試着すると、機械に動かされているという違和感はなく、自分の足で歩きながら、その歩みをそっと後押ししてもらうような感覚だった。坂道での負担が軽減され、普段より足が軽く前に出る印象を受けた。
神楽坂を舞台にした約7時間のツアー
ツアーはJR飯田橋駅に集合し、まずAI歩行分析とロボットのフィッティングを行う。その後、飯田橋駅西口駅舎2階の「史跡眺望テラス」から眺望を楽しみ、神楽坂入口からロボットを装着して街歩きをスタートする。

ルートは、神楽坂の老舗「助六」や東京神楽坂組合・見番、見番横丁、小栗横丁、熱海湯などを経て、毘沙門天善國寺へ。昼食を兵庫横丁で取った後、軽子坂から本多横丁、かくれんぼ横丁、芸者新道、地蔵坂と続く路地を巡り、樹王山正覚院光照寺へと歩みを進める。
締めくくりは有職組紐道明での組紐体験と、組紐の歴史や技術を学ぶミュージアム見学。神楽坂の伝統文化を五感で体験しながら約7時間をかけてじっくりと街を味わう内容となっている。
多彩な連携組織が支えるエコシステム
このプロジェクトはスカイツアーズ、ANA総合研究所、新宿観光振興協会、八王子観光コンベンション協会、高尾山薬王院有喜寺、粋なまちづくり倶楽部、神楽坂通り商店会、高尾登山電鉄、いちのせきワークス、NEW WORLD、共創システム研究所と連携して進められている。観光業、交通、地域商店会、寺社、テクノロジー企業と幅広い分野の組織が参画しており、ロボット観光を地域に根付かせるための多層的な基盤づくりが進んでいる。
未来のまちづくりへの考察
今回の神楽坂ツアーを見学して強く感じたのは、このロボットが単なる「移動補助ツール」にとどまらないという点だ。Walk-Mateは、これまで坂道や長距離歩行に不安を抱えていた高齢者や身体的に少し衰えを感じはじめている人が、観光地に「来られない」という壁を物理的に取り除く可能性を持っている。
バリアフリーのまちづくりはこれまで、スロープやエレベーターといったハードウェアの整備が中心だった。しかし神楽坂のような歴史的な街並みでは、石畳や急坂といった地形的な特性こそが魅力の源泉でもあり、大規模なインフラ改修は街の風情を損ねる側面もある。ウェアラブルロボットという「人が身につけるバリアフリー」の発想は、街のかたちを変えずに人の側の能力を拡張するという新しいアプローチであり、歴史都市の観光振興と福祉政策を同時に解決しうる視点として注目に値する。
さらに、歩行分析システムC-Walkと活用したAI歩行分析によって蓄積されるデータは、将来的にその人の歩行特性や健康状態のモニタリングにも活用できるポテンシャルを持つ。観光という日常から切り離された体験の場が、健康増進やリハビリの延長線上に位置づけられるとすれば、「旅することで健康になる」という新しい価値観がまちづくりの軸になる日も遠くないだろう。
高齢社会が進む日本において、観光地が「誰でも来られる場所」であり続けるためのモデルケースとして、この神楽坂の取り組みは全国の地域に問いかけている。ロボットと人と街が互いの「間(ま)」を合わせながら共存するまちのかたちは、未来の観光立国を支える重要なピースになりえると感じた。
寄稿者:西川佳克(にしかわ・よしかつ)東京山側DMC 地域創生マチヅクリ事業部