中国旅行で民宿に泊まる貴重な体験をした。中国と民宿はあまりイメージできない。というのも、日本人観光客の場合、中国語ができれば自由にホテルも選べるが、そうでなければ添乗員付きのパッケージ旅行が一般的だからだ。
泊まったのは、上海から車で2時間余りの浙江省湖州市莫干山のある雲起琚民宿だ。中国の新幹線である高鉄を使う場合、上海から杭州まで乗り、そこからタクシーを利用する。こちらの経路でも2時間ほどだ。上海から近く、家族連れで訪れる人たちのほか外国人も多いと言う。そうした立地に恵まれていることから、この辺りには約800件の個性的な民宿が立ち並んでいる。
雲起琚は緑に囲まれた広大な敷地に7室のみのおしゃれな作りの施設だ。客室は離れとなっていて、前面がガラス張りの円形の外観が目をひく。モンゴルのゲルのような雰囲気で、広い室内と高い天井の広々とした空間。開業のきっかけは、近くに南アフリカ出身の人が農家を借りて、友達を泊めていた。国際都市・上海から近いこともあり、外国人も多く、「洋家楽」と呼ばれ、親しまれていたという。ここの管理人、鮑紅良さんと周春云さん夫婦によれば、こうした経緯もあり、夫の鮑さんの姉であるオーナーが2014年10月にオープンさせた。

蛍が舞い、お茶摘みやトマト収穫も体験可能
この民宿の特徴は、台湾人デザイナーの手によって環境に配慮した造りになっていることだ。民宿名の雲起琚は周囲の豊かな自然と溶け込むよう環境に配慮したことを表しており、敷地の一角の水場で育てている蛍が舞うのも宿泊客にとっては楽しみだ。また、農場と茶園を所有しており、お茶やトマトの摘み取りもできる。妻の周さんはこう話した。「この地区、莫干山は上海に近く、毛沢東や蒋介石の別邸があって、歴史的に知られた土地です。また、夏は涼しく避暑に来る人も多いです」
夫の鮑さんは「雲起琚はホテルと違い、私たち2人がきめこまやかなおもてなしをして、お客様のニーズに応えることができます」と明かした。フロント脇には、コーヒーを飲んだり、おしゃべりをしたり、本を読んでリラックスしたりできるスペースがある。「時には、私たちもおしゃべりの仲間に入りします」(鮑さん)。筆者たちも夕食を終えて戻ってきてから、カエルの鳴き声がするテラスで夫妻と会話を楽しんだ。

最後にこの地区の観光の動きも尋ねてみた。これからが夏のシーズンの本番。ただ、新型コロナ感染症以降、やはり宿泊客が完全には戻っていないという。また中国の景気減速の影響もあるのかもしれないとしたうえで、「日帰り客が多く、旅行消費が減っているように感じます」と明かした。宿泊料金は1部屋に3人まで泊まれ、現在は1万2,000円から1万6,000円、夏のハイシーズンは40,000円からという。
この民宿はとは別に中国初の世界遺産である杭州市の西湖近くの民宿にも泊まった。全部で5室のこぢんまりとした民家を改造した建物。オーナーが集めたとLPレコードを高品質の音響機器で聴く一角をもうけていた。周辺には、西湖名物の甘酸っぱく煮た魚料理などを食べさせる料理店やカフェなどが立ち並び、夜遅くまで賑わっていた。この周辺も民宿が多く、新規開業もあり競争が厳しいという。
7、8年前、シルクロード訪れる途中の甘粛省で、中国人ガイドさんから民宿の話を小耳に挟み、体験してみたいとお願いした。しかし、彼は「外国人が泊まれるような設備やおもてなしがまだ整っていない。ただ、これから発展する可能性はある」とのことだった。それだけに今回の民宿は発展著しい沿海部と内陸部の違いはあるにせよ、中国の旅のイメージを大きく変えた素敵な体験だった。ちなみに中国では民宿の定義が定まっていないというが、自治体レベルで民宿振興のための活動が行われている。