世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は6月9日、欧州連合(EU)が導入した新たな出入国管理システム「EES(Entry/Exit System)」に伴う入国審査の遅延が続いた場合、欧州の観光需要に大きな影響を及ぼす可能性があるとする分析結果を公表した。
EESはEUが導入したデジタル出入国管理システムで、非EU圏からの旅行者を対象に顔画像や指紋などの生体情報を登録し、従来のパスポート押印に代えて入出国を管理する仕組み。安全保障の強化や不法滞在対策、国境管理のデジタル化を目的としている。
しかし、今年4月の本格運用開始以降、一部の空港や港湾では長時間の待機列が発生。欧州国境沿岸警備機関(Frontex)の幹部は、運用が安定するまで最大2年かかる可能性があるとの見方を示している。フランスやギリシャでは混雑緩和のため一時的に運用を緩和した事例も報告されている。
WTTCによると、英国、米国、カナダ、オーストラリアの旅行者2500人以上を対象に実施した調査では、シェンゲン協定加盟国への入国時に3〜4時間の待ち時間が常態化した場合、約3分の1の旅行者が渡航を見合わせる、あるいは他地域への旅行を検討すると回答した。
この結果を2026年の旅行需要予測に当てはめると、最大4100万人の来訪者と454億ドル相当の旅行消費が影響を受ける可能性があるという。WTTCは、長時間の待機列が旅行体験を損なえば、欧州以外の競合デスティネーションへ旅行需要が流出する恐れがあると指摘した。
WTTCのグロリア・ゲバラ会長兼CEOは、EESそのものについては欧州の国境管理を近代化する重要な取り組みだと評価したうえで、「旅行者が長時間の待機を経験すれば、旅行先の選択そのものが変わる可能性がある」として、円滑な運用の重要性を強調した。