「第10回ジャパン・ツーリズム・アワード」の表彰式が9月24日、「ツーリズムEXPOジャパン2026」の開幕に合わせ、東京ビッグサイトで開かれた。第10回を記念して新設された最高賞の「内閣総理大臣賞」には、narrativeの「narrative inside®」を選出。国土交通大臣賞には北海道美唄市の「Alpen SNOWLAND美唄×美唄市」、経済産業大臣賞には倶知安観光協会の住民優待を軸とした取り組みが選ばれた。応募は過去最多の272件に上り、地域資源の再生や住民との共生、観光による地域経済循環などを重視した取り組みが目立った。
ジャパン・ツーリズム・アワードは、国内外の企業・団体・個人による持続可能で優れた観光の取り組みを表彰し、地域活性化や国際交流の拡大につなげることを目的としている。
古民家などを「面的」に再生、narrativeに初の総理大臣賞
内閣総理大臣賞を受賞した「narrative inside®」は、古民家など失われつつある地域資源を一つずつ保存するのではなく、地域全体を面的に再生し、観光事業として持続できる仕組みを構築している点が評価された。
企画、設計、資金調達、開発、運営、マーケティングまでを一体的に担い、補助金などへの依存を抑えた民間主導型の事業モデルを展開。地域金融機関などとも連携し、地域経済が自立的に循環する仕組みを目指している。
narrativeの大久保泰佑代表は表彰式で、奈良県を中心に歴史的建築物だけでなく、酒や醤油、祭りなども文化財と捉えて再生してきたと説明。約70年間営業を休止していた1689年創業の醤油蔵の再生や、銭湯の復活、飲食・宿泊施設の運営などを紹介した。
「奈良県のみならず、いろいろなエリアでお手伝いしたい」と述べ、企画や設計、資金調達などを通じ、地域の担い手を支える事業を全国へ広げる考えを示した。

冬季閉鎖のゴルフ場を観光資源に、美唄が国交相賞
国土交通大臣賞には、アルペンと美唄市による「冬眠するゴルフ場から始まる地域創生」が選ばれた。
冬季には閉鎖していたゴルフ場を、雪上熱気球やスノーモービルなどを楽しめる「Alpen SNOWLAND美唄」として活用。季節による収益機会の減少や従業員の出向、人材流出といった課題に対し、地域DMOや自治体、交通事業者などが連携し、冬季の収益化と雇用の安定を図った点が評価された。
アルペンの吉田明成氏は、2017年の開始当初、イベントで200人を想定したところ来場者は35人だったと振り返った。その後、設備や体験内容を拡充し、昨年は約3万5000人まで成長。「来場者の9割は海外のお客様」と述べ、美唄の雪を世界に発信していく考えを示した。
倶知安、観光地の物価高に住民優待で対応
経済産業大臣賞には、倶知安観光協会の「住民優待サービス Kutchan ID+」と町民向け「Kutchan Magical Experience」が選ばれた。
世界的なスキーリゾートとなったニセコエリアでは、観光地化に伴う物価やサービス価格の上昇が住民生活にも影響している。同事業では、デジタル認証を活用して町民向けの優待情報を一元化。住民が地域のホテルや飲食店、観光サービスなどを利用しやすくすることで、地域住民への観光利益の還元と閑散期の需要創出を目指す。
審査では、住民自身が地域の観光資源を体験することで観光への理解を深める点についても、持続可能な観光につながる取り組みとして評価された。
観光庁長官賞は燕三条、Fビレッジ、井波
観光庁長官賞には、新潟県の「燕三条工場の祭典」、北海道の「北海道ボールパークFビレッジ~世界がまだ見ぬボールパークを作ろう~」、富山県南砺市のジソウラボによる「つくる人をつくる 人材輩出まち井波」の3件が選ばれた。
燕三条工場の祭典は、普段入ることのできない工場を開放し、職人と来訪者をつなぐ産業観光を継続。受賞者は今後、「365日ものづくりに触れる産地」を目指すと語った。 260924_0942
Fビレッジは野球観戦だけでなく、自然やウェルネス、交流などを組み合わせた通年型の滞在・交流拠点として評価。ジソウラボは、森林や建築、ITなど異業種の人材が連携し、移住者や起業家の事業立ち上げを支援する地域づくりが評価された。
このほか、新設のスタートアップ特別賞にはDeNAの没入型体験施設「ワンダリア横浜」が選ばれた。映像とAI、ゲーミフィケーションを組み合わせ、言語に左右されにくい新たな観光体験を生み出した点が評価された。
本保審査委員長「観光の地位が向上」
審査委員長の本保芳明氏は総評で、今回の応募が272件と前年から約3割増えたことに触れた。また、第10回を機に内閣総理大臣賞が新設され、国土交通大臣賞、経済産業大臣賞、観光庁長官賞までそろったことについて、観光に対する社会的な期待や「観光の地位の向上」を示すものだとの考えを語った。
最高賞となったnarrativeについては、古民家など地域資源のコンテンツ化を部分的に行うのではなく、企画から事業化、収益化まで一気通貫で手掛ける点を評価。「観光まちづくり会社」として、民間主導で収益を生み出すモデルが、これからの観光まちづくりやコンテンツ造成に求められる姿の一つだとした。
また、倶知安観光協会の取り組みについては、住民が地元のホテルや飲食など観光サービスを利用することで、地域の観光資源を自ら体験し、観光への理解や共感を深める点に注目。「観光への住民の理解」を持続可能な観光を実現する上で重要な課題と位置付けた。
本保氏は今回の受賞案件について、地域資源の魅力を引き出しながら多様な手法で新たな交流と価値を生み出していると総括。「観光立国にふさわしい日本の観光の底力を感じさせる」取り組みだったと述べ、次回以降のさらなる展開に期待を寄せた。