第9回TEJ観光大臣会合が国内最大級の旅行博「ツーリズムEXPOジャパン2026」開催中の9月24日、東京ビッグサイトで開かれた。今年のテーマは「サステナブルツーリズムの先へ―再生型ツーリズムへの投資戦略」。第1部には日本を含む10カ国の観光大臣・長官らが参加し、環境や文化を守るだけでなく、観光によって地域社会や自然をより良い状態へ導く「再生型ツーリズム」を軸に、官民投資や人材育成、デジタル化、観光客の分散などについて意見を交わした。
同会合では、UN Tourism(国連世界観光機関)は、再生型ツーリズムへの投資について、投資額の大きさだけではなく、「何に」「どこに」投資し、「どのような価値を生み出すのか」が重要だと指摘。インフラや交通接続、人材、イノベーションなどへの投資を通じ、地域経済を支え、自然・文化資産を守り、観光によって生まれた価値を地域社会が享受できる仕組みをつくる必要性を訴えた。
木村観光庁長官「地域全体の好循環を」
日本からは観光庁の木村典央長官が登壇した。木村氏は、再生型ツーリズムについて「持続可能性にとどまらず、地域社会や環境の再生・向上を目指す重要な取り組み」と位置付け、地域固有の魅力を生かした観光コンテンツや施設づくり、地域全体に利益が循環する仕組みを後押ししていく考えを示した。木村氏は2026年8月に観光庁長官に就任している。
具体例として紹介したのが、富山県砺波平野の「カイニョお手入れツアー」。散居村に点在する屋敷林「カイニョ」を旅行者自身が手入れし、剪定した枝からアロマオイルを抽出する工程などを体験する。かつて燃料などとして循環利用されていた屋敷林が、生活様式の変化や住民の高齢化によって維持が難しくなる中、観光客が地域の暮らしや文化的価値を学びながら保全に加わる仕組みだ。2025年度の「サステナブルな旅アワード」で大賞を受賞している。
木村氏は、旅行者の参加によって文化景観の保全だけでなく、旅行者自身の意識変容や地域住民の環境意識向上にもつながる「好循環」が生まれていると説明。各国・国際機関と連携しながら、再生型ツーリズムを広げていく考えを示した。

ブータン「高付加価値・少人数」で観光価値を最大化
ブータンは、国民総幸福量(GNH)の考え方を背景に、環境や地域社会との調和を観光政策の基本としてきたことを紹介した。
同国が掲げるのは「高付加価値・少人数」の観光政策。単純に旅行者数や観光収入を増やすのではなく、「観光の価値をどう最大化するか」を重視し、観光によって地域の人々や環境、文化がより良い状態になることを再生型ツーリズムの考え方として示した。カンボジアは、繁忙期と閑散期の旅行需要を平準化し、地域経済への効果を年間を通じて広げる取り組みを紹介。グリーンシーズンへの誘客や市場の多様化、人材開発などを進めていると説明した。
フィリピン、インフラと人材へ投資
フィリピンは、再生型ツーリズムについて「観光開発以前よりも観光地を良い状態にする」ことを目標に掲げた。
観光は同国の主要産業の一つで、輸送、宿泊、農業、小売りなど幅広い産業や地域の雇用に影響する。このため、空港やデジタル接続、観光施設などのインフラ整備と並行して、研修、デジタルスキル、観光教育、語学などの人材育成を進めるとしている。女性や若者、先住民を含む地域社会の参画も重視する。質疑では、地方空港の滑走路延長やターミナル整備、ホテルなど宿泊インフラへの投資にも触れ、民間投資を呼び込みながら地方への観光客の流れを広げたい考えを示した。
ギリシャ、観光客を分散 サントリーニではクルーズ客数を管理
年間約4300万人の旅行者が訪れると説明したギリシャは、特定地域や夏季に集中する観光需要の分散を重要課題に挙げた。
ヨットやマリーナ、ダイビング、山岳リゾート、温泉のほか、文化、食、ワインなど観光商品の多様化を進め、旅行者を地域や季節に分散させる。観光地の状況についてもデータを収集し、投資や開発を地域ごとに管理する考えを示した。特にサントリーニ島では、クルーズ船から一度に上陸する旅行者を制限する仕組みを導入。観光に伴う税収も地域やインフラへ還元し、観光による経済効果と自然・生活環境の保全を両立させる方針を紹介した。
タンザニア、自然保護と地域住民の利益を両立
タンザニアは、国土の約32%が保護地域で、野生動物を目的とする旅行者が観光市場で大きな割合を占めると説明した。
同国は、自然保護を観光産業のコストではなく「長期的な競争力への投資」と捉える。地域住民が野生動物の管理や観光に参加し、観光収入の恩恵を生活向上につなげることが、自然保護を持続させる条件だと強調した。また、ドローンなどを活用して野生動物の位置や保護区との境界を監視し、人と野生動物の共存や科学的データに基づく観光地管理にも取り組んでいると紹介した。
共通するのは「地域への還元」
第1部の総括では、各国の政策はインフラや環境保全、人材、DXなど手法こそ異なるものの、共通する方向性は「地域への還元」ではないかとの指摘があった。
官民連携による宿泊・交通インフラへの投資、環境や文化資源の保全、デジタル技術を使いこなす人材の育成などを進める最終的な目的として、「地域の資産の維持」「地域経済への継続的な貢献」「地域住民や担い手の幸福」が挙げられた。
サステナブルツーリズムが「観光による負荷を減らす」ことを中心に発展してきたのに対し、今回の会合では、旅行者や投資を地域の自然、文化、経済、人材の再生につなげるという一歩踏み込んだ議論が展開された。観光客数の拡大だけではなく、地域に何を残すのかを問う「再生型ツーリズム」が、各国の観光政策や投資戦略の新たなテーマとして浮かび上がった。
同会合は第1部の観光大臣会合と、第2部の世界観光リーダー会合の2部構成で行われた。
取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通