“地域間交流拡大”を強力に推し進め、地域の活性化に向けた課題解決に取り組む地域連携研究所は、「地域間交流」をテーマに観光交流プロジェクトを全国で展開している。各会員(地方自治体・民間企業など)は今、どのような取り組みを行い、何を目指しているのか。今回は、山代・山中・片山津の三温泉からなる加賀温泉郷をはじめ、豊かな自然や食、伝統工芸、北前船の歴史文化を有する石川県加賀市の山田利明市長に、加賀市ならではの魅力と地域の強み、北前船日本遺産を生かした観光・文化振興、官民連携による地域づくり、そして地域間連携の将来像について伺った。(取材は8月27日)

【海から山へ、北前船と三温泉が織りなす加賀】
――加賀市ならではの魅力と、地域としての強みをお聞かせください。
加賀市には祭りや民俗行事、数多くの古墳があり、古くから人々が暮らしてきた歴史があります。山代、山中、片山津という特色の異なる三温泉をはじめ、豊かな食文化、九谷焼や山中漆器などの伝統工芸にも恵まれています。
標高0mの海岸線から標高1,368mの大日山まで、多彩な自然景観が広がっていることも加賀市の強みです。
なかでも、加賀市ならではの財産のひとつが、加賀橋立の北前船主集落です。かつて「日本一の富豪村」と呼ばれ、現在は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。日本海側には北前船の寄港地が数多くありますが、赤瓦や笏谷(しゃくだに)石を用いた豪壮な船主邸の町並みがまとまって残っていることは、大きな魅力です。
この北前船の物語に、橋立漁港で水揚げされるカニや新鮮な魚介、古くからの歴史を持つ三温泉を組み合わせ、歴史、食、温泉を楽しむ観光コンテンツづくりを関係団体と進めています。
加賀市は、1泊だけでなく、2泊、3泊、さらには一週間滞在しても楽しめる地域です。ぜひ多くの方に訪れていただきたいです。
【北前船の挑戦心と地域貢献の精神を次代へ】
――北前船の歴史は加賀市にとってどのような意味を持ちますか。
北前船の船主や船頭たちは、命がけで荒波を越え、「動く商社」として日本各地を結びました。巨万の富を築き、幕末には大聖寺藩の財政を支えるほどの力を持つようになりました。
私が特に伝えたいのは、困難を恐れず海へ乗り出した男たちのチャレンジ精神です。また、得た財を自分たちだけのものにせず、地域のためにも役立てた地域貢献の心意気があります。
こうした精神を広く発信するとともに、市民にも、数多くの北前船主や船頭を輩出した地域に暮らす誇りを持ち、その精神を受け継いでもらいたいです。
私が会長を務める北前船日本遺産推進協議会では、構成自治体と連携し、ホームページやSNSを活用した情報発信、北前船をテーマとするセミナーの開催、寄港地や船主集落を巡る旅行コンテンツの造成などに取り組んでいます。各地域に残る歴史文化を結び、現代の交流や観光につなげていきます。
【北前船のネットワークで、世界へ広がる加賀橋立】
――全国との北前船交流は、加賀市にどのような成果をもたらしていますか。
加賀橋立には、北前船主の邸宅を活用した「北前船の里資料館」があります。約40年前にオープンし、実際の日本海交易で使われた船箪笥など、北前船に関するさまざまな資料を展示しています。
近年は資料館や加賀橋立を訪れる外国人観光客が増えており、欧米では特にフランスからのお客様が多くなっています。加賀市だけの情報発信では、これほど広く魅力を伝えることは難しかったはずです。
北前船という共通の歴史文化を持つ全国の寄港地や船主集落と交流し、自治体や地域の枠を越えたネットワークを通じて発信してきたことが、認知度の向上や外国人観光客の来訪につながったのではないかと受け止めています。
現地では、QRコードを読み込むと、多言語によるデジタルマップや施設案内を閲覧できます。こうした仕組みを活用し、資料館だけでなく、歴史的な町並みもゆっくり散策していただきたいです。

【地域の温度差を越え、若い世代へ北前船をつなぐ】
――交流を継続し、観光や地域経済につなげる上での課題について伺えますでしょうか。
北前船日本遺産推進協議会は、全国52市町で構成する大きな組織です。そのため、北前船を生かした取り組みに対する姿勢や力の入れ方に、自治体間で温度差があることは否めません。
そこで全国を5つのブロックに分け、ブロック単位でも活動しています。近隣地域が連携することで温度差を補い、それぞれのエリアが持つ強みを生かした取り組みを進めています。
もう一つの課題は、若い世代への浸透です。北前船の物語は魅力的な地域資源ですが、そのままでは若者の関心を引きにくい面があります。私自身、加賀市で生まれ育ちながら、かつては「きたまえぶね」ではなく「きたまえせん」と読んでいたほどで、地域に十分浸透していたとはいえません。
そこで2025年度、文化庁の支援を受け、北前船の乗組員を目指す若者の姿を描いたアニメ動画を制作しました。オリジナル楽曲や出演した声優の協力も生かし、SNSなどで発信しています。多くの方に見ていただき、若い世代が北前船に関心を持つきっかけにしたいと考えています。
【地域の発想を形に、官民連携で磨く加賀の旅】
――行政、民間、地域の連携を、観光や事業にどうつなげていますか。
加賀橋立では、地元団体や有識者などで構成する実行委員会が、北前船をテーマにしたモニターツアーやオリジナルスイーツの開発に取り組んでおり、石川県と加賀市がこうした地域主体の活動を支援しています。
加賀橋立に限らず、市内の地域資源を生かした新たな観光コンテンツの開発も支援の対象です。
地域の方々の活動を後押しすることで、行政にはない視点や発想を生かした旅行商品が生まれ、宿泊客や観光消費の増加につながることを期待しています。
加賀市には、まだ十分に生かされていない地域資源があります。行政と民間、地域が力を合わせて資源を磨き、その価値を高めることで、新たな観光や事業へ発展させていきます。
【クイズと体験で学び、北前船を郷土の誇りへ】
――北前船の歴史文化を、次の世代へどう伝えていますか。
北前船の歴史や文化を、子どもたちにどう伝えるかは大きな課題です。そのままでは若い世代の関心を引きにくいため、楽しみながら学べる工夫が必要だと考えています。
北前船日本遺産推進協議会では毎年、夏休みに「北前船子どもセミナー」を開催しています。北前船の秘密や全国各地とのつながりを、オンラインの講義とクイズを通じて学ぶ取り組みです。
2026年度は、加賀市、秋田県男鹿市、福井県美浜町の子どもたちが参加しました。加賀市の親子約10人は、授業を受けた後、絵馬や引札の図柄を使ったうちわづくりや北前船の里資料館の見学を通じて、北前船への理解を深めています。
話を聞くだけでなく、自分の手を動かし、資料館を訪れることで、北前船を身近に感じてもらえます。今後も、子どもたちが北前船への理解を深め、ふるさとの歴史文化に愛着と誇りを持てる取り組みを続けていきます。
【「点」から「面」へ、団体戦で世界に挑む】
――加賀市が描く地域間連携の将来像をお聞かせください。
北陸新幹線には、黒部宇奈月温泉駅、加賀温泉駅、芦原温泉駅という、駅名に「温泉」が付く三つの駅があります。この共通点を生かして三市が連携し、国の事業も活用しながら、羽田空港や成田空港などで観光プロモーションを展開していきます。
首都圏に集中している外国人観光客を、北陸の温泉地へ呼び込むことが狙いです。インバウンドに対しては、一つの観光地を「点」で発信するより、複数の地域を「面」で発信する方が効果的だと考えています。それぞれの温泉地の魅力を結び、北陸を周遊する旅行として提案することで、大きな誘客につなげられます。
2026年度には、北前船でつながる複数の自治体と連携し、ミラノデザインウィークに参加しました。北前船日本遺産推進協議会全体の事業ではありませんが、加賀市単独では難しい海外展開を実現でき、小さな自治体でも、力を合わせれば世界を舞台にした大きな取り組みができることを示せました。地域活性化に向けて、こうした連携を今後も進めていきたいですね。
国内誘客でも「オール加賀会議」を通じ、南加賀の自治体が連携しています。地域間連携は個人戦ではなく団体戦です。今後も、一つの自治体では難しい広域的な情報発信や大規模な誘客、海外展開に取り組んでいきます。

【歴史と旬、温泉を巡る加賀1泊2日】
――初めて加賀市を訪れる方に、1泊2日のプランを薦めていただけますでしょうか。
楽しみ方は訪れる季節によって変わります。まず足を運んでいただきたいのが大聖寺地区です。大聖寺城址が残る錦城山や、長流亭、大名庭園など、歴史を感じられる場所があります。
大聖寺は戦災や大規模な開発の影響が少なく、江戸時代の地図を見ながら現在の町並みを歩くことができます。加賀市では、こうした歴史資源や町並みの磨き上げを進めていますので、ゆっくり散策していただきたいですね。
宿泊は、山代、山中、片山津の三温泉から好みに応じて選んでください。夜は一歩温泉街へ出ると、すし屋や居酒屋で新鮮な魚と地酒を楽めます。カフェやスイーツ、アイスクリームを提供する店もあります。温泉に入り、少しほろ酔い気分で町を歩くのも良いと思います。つい飲みすぎてしまった場合は、ゆっくり宿の布団でお休みください。
2日目は、季節の食と自然を満喫していただきたいです。これからの季節ですが、秋はキノコや梨、ブドウが味わえ、山歩きも楽しめます。冬はカニや甘エビなどの海の幸に加え、近隣ではウインタースポーツもできます。
歴史ある町並み、旬の食、豊かな自然、そして温泉を組み合わせれば、1泊2日でも加賀市の多彩な魅力を感じていただけるはずです。

【北前船の縁を、交流から新たな商圏へ】
――今秋には新潟県で北前船寄港地フォーラムが開かれます。何を期待しますか。
期待するのは、北前船で結ばれた地域との連携をさらに深めることです。加賀市を知っていただくと同時に、私たちも各地域の歴史や文化、産業、地域資源について学びたいと考えています。互いを知ることが、新たな交流の第一歩になります。
今後は文化や観光だけでなく、北前船でつながる各市町の物産を取り扱い、商圏を広げていきます。北前船の物語を生かした新たな商圏をつくることが、私たちの大きな構想です。
新潟でのフォーラムを、地域間交流を具体的な事業へつなげる次の一歩にしたいと考えています。
【新たな加賀の玄関口で、皆さんとの再会を】
――最後に、会員や読者の皆さんへメッセージをお願いします。
2024年11月に開催した「北前船寄港地フォーラムin加賀・福井」には、多くの皆さんにご参加、ご協力いただきました。盛況のうちに終えることができ、改めて心から感謝申し上げます。
2026年夏には加賀温泉駅前広場が生まれ変わり、ガラス張りの待合空間「タカノクリエイト ソラミガレリア」も完成しました。2024年にお越しいただいた時から、まちの姿は大きく変わっています。
北前船交流拡大機構や地域連携研究所の会員の皆さんには、ぜひ再び加賀市を訪れ、新しくなった駅前をご覧いただきたいと思います。そして加賀温泉郷の旅館に泊まり、変わらぬ海の幸、山の幸、里の幸を存分に味わってください。
加賀市民一同、皆さんとの再会を心よりお待ちしています。

※サムネイルは橋立 船主集落(赤瓦)の町並み=画像提供 加賀市観光情報センター
聞き手 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通