こんにちは、みちくさの達人サクちゃんです。
約7300年前、鹿児島の南の海の中にある「鬼界カルデラ」が大噴火しました。「鬼界アカホヤ噴火」と呼ばれるこの噴火は、火山爆発指数(VEI)で「7」。VEIは噴火の大きさを0〜8の9段階で表す目安で、数字が1つ上がると噴き出した量はおよそ10倍になります(くわしくはこちら → https://ja.wikipedia.org/wiki/火山爆発指数 )。九州南部には今も30センチを超える火山灰が残っていて、灰は遠く東北にまで届いています。高温の火砕流は海を渡り、大隅半島や薩摩半島まで押し寄せました。
当時、九州南部には縄文人のムラがいくつもありました。彼らは全滅したのか。それとも生き延びたのか。
九州大学や英ケンブリッジ大学などの国際研究チームが、全国の遺跡から出た試料の年代をたくさん集めて、当時の人口の増え方・減り方を地域ごとに推定しました。わかったのは、こんなことです。
・九州南部では、噴火の前から人口が減り始めていて、噴火のあとに減り方が加速した
・それに合わせるように、九州北部では噴火の前から人口が増えていて、噴火のあとも増え続けた
・火山から近いほど単純に人が減った、というわけではなかった
私はこの「噴火の前から」という部分に、ぐっと引きつけられました。
■ 大地の声を聞いていた人たち
もちろん、なぜ噴火の前から人が動いていたのかは、まだわかっていません。それでも想像してしまうんです。
いつもの浜の様子がちょっと違う。湧き水の味が変わった。獲物の動き方がおかしい。地面が小さく揺れる日が増えた——。縄文の人たちは、そういう小さな変化に、今の私たちよりずっと敏感だったはずです。毎日、自然を「読む」ことで生きていたのですから。
そして、何かが起きてから慌てて逃げたのではなく、少しずつ、しなやかに暮らしの場所を移していった。移った先では、生業を変え、新しい人たちとつながり、変わってしまった環境の中で新しい暮らしをつくっていった。研究チームも、そんな可能性を指摘しています。
■ 「世界一動く大地」に生きるということ
私はいつも、日本を「世界一動く大地」と呼んでいます。火山が噴き、地面が揺れ、川があふれ、山が崩れる。それは怖いことでもありますが、温泉や豊かな土、美しい渓谷を与えてくれた力でもあります。
この大地の上で生きるコツは、たぶん「抗うこと」より「感じて、動くこと」なんだと思います。
縄文の人たちが教えてくれるのは、次の3つではないでしょうか。
・小さな変化に気づく力(いつもと違う、を感じ取る)
・しがみつかない柔軟さ(場所も、やり方も、変えていい)
・新しいつながりをつくる力(移った先で、人と関わり直す)
■ 旅は、縄文人の「動いた」を追体験すること
考えてみると、「旅」も「動く」ことです。いつもの場所を離れ、知らない土地の空気を吸い、そこに暮らす人と出会う。縄文の人たちが新しい土地で暮らしを組み立て直したように、旅先では私たちの五感も自然とひらいていきます。
せっかくなら、7300年前の大噴火の足跡をたどる旅に出てみませんか。私のおすすめは次の3か所です。
【1】三島村・鬼界カルデラジオパーク(鹿児島県三島村)
鬼界カルデラそのものは海の底ですが、外輪山のふちが硫黄島と竹島として海の上に顔を出しています。硫黄島では今も硫黄岳が噴煙を上げていて、温泉の成分で茶色に染まった海や、海辺の岩場にわく野趣あふれる「東温泉」など、地球のエネルギーを肌で感じられます。鹿児島港から村営のフェリーで約4時間、基本は泊まりがけの旅になります。「たどり着くまでの時間」も含めて、ぜひ味わってほしい場所です。
▶ https://geomishima.jp/
【2】上野原縄文の森(鹿児島県霧島市)
約9500年前の、国内でも最古級・最大級の縄文の定住ムラの跡です。南九州では、縄文時代のはじめごろにすでにとても豊かな文化が育っていたことがわかります。発見されたときのまま住居跡などを保存した遺跡保存館や、火山灰が何層も重なった地層を観察できる施設があり、火おこしなどの縄文体験もできます。噴火の前、ここにどんな暮らしがあったのかを想像しながら歩いてみてください。
▶ https://www.jomon-no-mori.jp/
【3】福井県年縞博物館(福井県若狭町)
九州から遠く離れた福井の水月湖。その湖底には、1年に1枚ずつ積み重なった縞模様の地層「年縞(ねんこう)」が残っています。この年縞の中に、鬼界アカホヤ噴火の火山灰の層もしっかり記録されているんです。九州の噴火が日本列島全体に届いていたことを、自分の目で確かめられる場所です。
▶ http://varve-museum.pref.fukui.lg.jp/
地層の中の、たった1本の「線」。その上と下とで、人々の暮らしが大きく変わった。旅先でそんな線を見つけたとき、教科書の知識が自分ごとの物語に変わります。
※硫黄島の硫黄岳は活火山です。お出かけの前に、気象庁や三島村の最新情報を必ず確認してください。
■ みちくさは、「感じる力」のトレーニング
私が子どもたちと全国各地をみちくさしながら歩くのは、このためでもあります。葉っぱの色、川の音、石の模様、虫の動き。「あれ?昨日と違う」と気づける感覚は、図鑑の知識よりも、きっと長い時間をかけて人を守ってきた力です。
研究者の方は、日本列島の人々が文字を残すようになってから、これほどの大噴火は起きていないと話しています。だからこそ、縄文の人たちがどう向き合ったのかを知ることが大切なのだと。
1万年に1度の出来事は、私たちが生きているうちには来ないかもしれません。でも、気候も社会も大きく揺れ動くこの時代、「感じて、動く」という縄文の知恵は、そのまま私たちの生き方のヒントになる気がしています。
さあ、今日もちょっと寄り道して、大地の声に耳をすませてみませんか。次の旅では、足もとの地層にもぜひ目を向けてみてください。
みちくさの達人サクちゃん
参考文献・引用文献
・日本経済新聞「鬼界カルデラ、7300年前の大噴火後の人口変化解明 九州大学など」2026年11月1日
・Crema, E. R. ほか(2026)"Divergent demographic responses to the Kikai-Akahoya volcanic catastrophe in mid-Holocene Japan." Science Advances, 12(42), eaeh7197. https://doi.org/10.1126/sciadv.aeh7197
・Lund University「How one of Earth’s worst volcanic disasters affected societies」2026年10月14日 https://www.lunduniversity.lu.se/article/how-one-earths-worst-volcanic-disasters-affected-societies
・「火山爆発指数」Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/火山爆発指数
・三島村・鬼界カルデラジオパーク公式サイト https://geomishima.jp/
・内閣府「三島エリア 鹿児島県」(国境離島の観光情報)https://www8.cao.go.jp/ocean/kokkyouritou/ritou_kankou/area/area_14.html
・鹿児島大学総合研究博物館「三島村」https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/fieldmuseum/node/geo/area/v-mishima.html
・上野原縄文の森 公式サイト https://www.jomon-no-mori.jp/
・文化遺産オンライン「上野原遺跡」https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/203386
・福井県年縞博物館 公式サイト http://varve-museum.pref.fukui.lg.jp/