秋田県男鹿市に「ホテル木下秋田男鹿駅前」が開業し、これを記念した「北前船祝賀の集い」第1部が4月24日、男鹿市民ふれあいプラザ「ハートピア」で開催された。式典には自治体首長や国会議員、観光・経済関係者ら約100人が全国から参集。北前船交流拡大機構を軸とした地域連携の深化と、滞在型観光への転換に向けた期待を共有した。

北前船交流拡大機構の中核地の一つである秋田・男鹿で開催
同集いは、これまで北前船寄港地フォーラムを2度開催し、同ネットワークの中核的役割を担ってきた男鹿市において、新たな宿泊拠点の開業を契機に開催されたもの。関係者が一堂に会し、祝賀とともに今後の連携強化を図る場として位置づけられた。
なまはげ太鼓で開幕、地域文化を発信
冒頭のウェルカムセレモニーでは、なまはげ太鼓が披露され、男鹿の伝統文化を象徴する力強い演出で式典がスタート。北前船がもたらした文化交流の精神を現代に伝える象徴的な幕開けとなった。
北前船の象徴「昆布カット」で開業祝う
式典では、テープカットに代わる演出として「昆布カットセレモニー」が行われた。使用されたのは北海道・釧路産の長昆布で、北前船交易を象徴する素材として用いられている。北前船において昆布は、主要な交易品として日本各地へ運ばれ、食文化のみならず経済活動にも大きな影響を与えてきた。セレモニーでは関係者が長昆布にハサミを入れ、交流の広がりと今後の発展への願いを込めた。
北前船交流拡大機構参与の浜名正勝氏は、「昆布はかつて重要な輸出品であり、その交易が資金の流れを生み、結果として歴史を動かす力にもなった」と説明。北前船が単なる物流ではなく、経済や文化の形成に寄与してきた点を強調した。さらに同氏は、沖縄での北前船関連イベントを契機に昆布カットが始まった経緯にも触れ、「地域と地域をつなぐ象徴的な取り組みとして各地で継続している」と述べた。
同機構では、こうした演出を通じて北前船の精神を現代に継承し、地域間ネットワークの広がりを体現する取り組みを進めている。

実行委員会「地域構造を変える転機に」
開会あいさつに立った実行委員長の西村裕氏は、JR東日本在職時代に観光誘客に携わった経験に触れながら、男鹿の位置づけについて言及。「男鹿にしっかりと人を送り込むことができれば、その導線上にある秋田市内や角館、田沢湖など周辺地域にも自然と人の流れが波及する」と話し、男鹿が広域観光の“起点”となる重要性を強調した。
一方で、これまでの男鹿は観光資源に恵まれながらも宿泊機能が十分ではなく、「通過型」にとどまる構造が続いてきたと指摘。「訪れても泊まれないという状況では、滞在時間や消費の拡大にはつながらない」と課題を示した。その上で、今回のホテル開業について「地域の観光構造そのものを変える転機になる」と位置づけ、「滞在拠点が整うことで、男鹿を中心とした広域周遊やナイトタイムの消費も含めた新たな観光の流れが生まれる」と期待を述べた。

福原淳嗣氏「交流人口が観光を呼び込む」
主催者あいさつに立った実行委員会会長で衆議院議員の福原淳嗣氏は、「全国からこれだけ多くの行政、議会、経済団体関係者が集まっていること自体が、この取り組みの広がりを示している」と述べ、会場に集まった自治体首長や県議会議員、商工団体関係者らへ感謝を示した。
ホテル木下秋田男鹿駅前の開業については、「男鹿に新たな宿泊拠点が誕生した意義は非常に大きい」と評し、「人と地域をつなぐ交流のハブになる」と期待を表した。「観光だけでなく、ビジネスや地域間交流を支える重要な基盤になる」と語った。
また、秋田県を取り巻く新たな産業動向を紹介した。政府が進めるGX(グリーントランスフォーメーション)政策に言及。データセンター集積型の脱炭素産業拠点として秋田県が選定されたことに触れ、「これからは脱炭素電源を供給できる秋田が日本をリードする時代になる」と強調した。
さらに、「ビジネスの往来が増えれば、必ず観光もついてくる」とし、産業集積による人流拡大が観光需要創出につながるとの認識を提示。県内自治体からは「集客機能や宿泊機能が不足している」との声が多く寄せられているとした上で、「人口減少時代だからこそ、人と物が行き交う地域をつくることが重要」と述べた。
北前船交流拡大機構の活動にも触れ、「単独で地域を売り出す時代ではない」と説きながら、地域同士が連携しながら市場全体を拡大していく必要性を指摘。「北前船交流拡大機構は、人と地域をつなぎ、新たな交流とビジネスを生み出すためのネットワーク」と語り、今後の広域連携への展開に期待を寄せた。

横山信一氏「滞在型観光への転換を後押し」
続いてあいさつした実行委員会共同会長で参議院議員の横山信一氏は、「通過型観光の象徴的な地域だった男鹿に、宿泊拠点が誕生した意義は非常に大きい」と述べ、ホテル木下秋田男鹿駅前の開業を歓迎した。
横山氏は、木下グループによるホテル整備について「男鹿の可能性を見抜いた英断」と評価するとともに、誘致に尽力した菅原広二市長についても「大きな決断だった」と言及。「ナマハゲだけでなく、寒風山や男鹿水族館などを含め、泊まりながら周遊できる観光がこれから本格的に展開されていく」と期待を示した。JR男鹿駅に近接する立地にも触れ、「鉄道ファンを含め、多くの人が男鹿の魅力に気づくきっかけになる」とし、“滞在する男鹿”への転換に期待感を示した。
一方で、観光以外の需要として、洋上風力発電関連の人材育成拠点「風と海の学校あきた」にも言及。同施設は、洋上風力発電設備のメンテナンス人材を育成する国内有数の研修施設で、男鹿海洋高校に隣接して整備されている。
横山氏は、「これまで研修生の多くは秋田市内に宿泊し、男鹿へ通っていた」と説明した上で、「ホテル開業によって、研修で訪れる人たちが男鹿に滞在する流れが生まれる」と指摘。1週間程度滞在するケースもあることから、「安定した宿泊需要を支える“ヘビーユーザー”になる」との見方を示した。
また、同施設を運営する日本海洋事業株式会社にも触れ、「洋上風力の拡大とともに、男鹿が研修拠点としてさらに重要性を増していく」と強調。「観光と産業の双方で人の流れを生み出すホテルになる」と期待を寄せた。

菅原広二市長「地域の価値を世界へ発信」
あいさつで登壇した男鹿市長の菅原広二氏は、「観光は人を幸せにする営みであり、訪れる人と地域の双方を豊かにするものだ」と述べ、観光振興の意義を強調した。その上で、男鹿半島の地理的特性について言及し、日本海交易の歴史を背景に「古くから外とつながってきた地域」であると説明。「北前船以前から能登や佐渡などと視覚的にもつながる海上ネットワークがあり、人や文化が行き交ってきた」とし、男鹿が持つ交流の歴史的ポテンシャルを指摘した。
さらに、寒風山や入道崎に代表されるダイナミックな自然景観、なまはげ文化や祭り、食といった地域資源に触れ、「都会の人にとって非日常の景色が、男鹿では日常として存在している」と語り、観光地としての独自性を強調した。

ホテル木下秋田男鹿駅前の開業については「市民にとって長年の悲願だった」と語るほか、「宿泊拠点が整ったことで、これまでの通過型観光から滞在型へと大きく転換する基盤が整った」と評価。「地域の魅力を体験として提供できる環境が整い、世界から人を呼び込むステージに入った」との認識を示した。
また、観光にとどまらず、データセンターや再生可能エネルギー関連など新たな産業の動きにも触れ、「さまざまな分野で良い流れが生まれている」とし、「このホテルを起点に、地域全体の価値向上と経済の循環を生み出していきたい」と今後の展望を語った。

式典では岡山県備前市の前市長である吉村武司氏と秋田空港ターミナルビル代表取締役社長の成田光明氏から、開業を祝して木下グループ代表取締役社長兼グループCEOの木下直哉氏に備前焼などの記念品が贈呈された。北前船で結ばれてきた地域間のつながりを背景に、異なる地域の伝統文化が交差する象徴的な場面となり、来場者の関心を集めた。

木下直哉氏「北前船との出会いが事業の起点に」
木下グループ代表取締役社長兼グループCEOの木下直哉氏はあいさつで、同機構との関わりを振り返り、「北前船の取り組みを通じて、単に物資を運ぶだけでなく、文化や人の心、交流そのものを運んできた存在であると理解した」と述べ、地域間のつながりの重要性に対する認識が深まった経緯を語った。
男鹿への進出については、「全国各地を訪れる中で、多くの地域には宿泊施設が整っている一方、男鹿には観光資源がありながら宿泊機能が不足していると感じた」と説明。「これだけ魅力がありながら素通りされてしまう現状に課題を感じ、自ら事業として取り組むことを決断した」と述べた。施設名称についても「男鹿の認知はまだ十分ではない」とし、「秋田男鹿とすることで地域の存在を広く発信していきたい」と意図を明かした。
さらに「今回のホテルは当社にとって初の事業であり、北前船関係者との出会いが新たなビジネスのヒントになった」と述べ、地域との連携が事業創出につながった点を強調。今後についても「地方に埋もれている魅力を掘り起こし、交流とビジネスを生み出していきたい」と展望を示した。
継続が価値を生む、地域と共に成長へ
自身が長年支援してきたフィギュアスケートのペア競技にも触れ、「一つの分野に継続して取り組むことで成果が生まれ、次の世代へとつながっていく」と指摘。その経験を踏まえ、「地域においても継続的な取り組みが重要であり、男鹿の魅力を高めていくことで、いずれ大きな成果につながる」と語った。
その上で、「男鹿を“メダル級”の地域にしていきたい」と意欲を示し、「今後も秋田県内各地と連携しながら地域の魅力発信に取り組んでいく」と締めくくった。

篠原靖氏が講演、秋田観光の課題と可能性を提示
第1部では、内閣府地域活性化伝道師で跡見学園女子大学准教授の篠原靖氏が講演し、秋田県および男鹿市の観光の現状と課題について提言した。
篠原氏は、秋田の観光について「個々の資源は非常に質が高い」と評価する一方、外国人・日本人ともに宿泊者数が東北でも低位にある現状に言及し、「この状況は納得しがたい」と指摘。その要因として、県による広域プロモーションと基礎自治体の取り組みの連動不足を挙げた。講演では、秋田県文化スポーツ部の担当者らとの意見交換にも触れ、「県が打ち出す施策と各自治体の取り組みが連動してこそ効果が生まれる」とし、現場レベルでの資源磨き上げの重要性を強調した。

「今だけ・ここだけ・あなただけ」観光へ転換
観光のトレンドについては、「どこでも誰でも行ける観光は通用しない」とし、「今だけ・ここだけ・あなただけ」という視点を提示。男鹿市の菅原広二市長や三浦大成観光スポーツ部長との議論にも言及し、「地域の生活文化を体験・滞在・交流としてどう提供するかが重要」と指摘。従来型の画一的な観光から、個別性の高い体験型観光への転換を求めた。

男鹿の資源は“価値化”で飛躍、事例から示唆
男鹿の具体的な資源として、なまはげ文化や石焼き料理、海藻文化、温泉などを挙げ、「いずれも本物の価値を持つが、顧客価値として整理されていない」と指摘。ストーリー化や体験化によって付加価値を高める必要性を説いた。他地域の事例として、三重県鳥羽市の海女体験や熊本県天草のイルカウォッチングを例に挙げ、「価値の付け方次第で観光は大きく変わる」と述べた。
また、衆議院議員の福原淳司氏との議論にも触れ、「行政と民間の役割分担が整理されていないことが多い」と指摘。「観光は設計が重要であり、関係者が一体となって戦略的に取り組む必要がある」と述べた。
講演の最後には、「秋田にはまだ知られていない魅力が数多く存在する」とした上で、「それらをつなぎ、価値として発信することで新たな観光が生まれる」と強調し、地域一体での取り組みに期待を示した。

北前船との歩みと今後への決意
第1部の締めくくりとして、実行副委員長の二田良英氏が閉会あいさつに立ち、「遠方から多くの関係者に参集いただいたことに心から感謝したい」と述べた。
二田氏は、男鹿市がこれまで北前船交流拡大機構の活動を通じて大きく変化してきた経緯に触れ、「北前船フォーラムをこれまで2度開催し、地域の取り組みを発展させてきた」と説明。複数回開催した地域が限られる中で、「男鹿がその一つであることは大きな誇り」と語った。さらに、しょっつる文化をテーマとした国際交流や観光フォーラムの開催など、これまでの取り組みを振り返り、「北前船のネットワークが地域の成長を支えてきた」と強調した。
今回のホテル開業についても「北前船という“宝船”が人と縁を運んできた結果」と表現し、木下グループへの感謝を示すとともに、「この流れを生かし、今後も地域間連携をさらに深めていきたい」と述べた。
その上で、「男鹿市としても引き続き取り組みを進め、秋田全体の発展につなげていきたい」と意欲を示し、第1部を締めくくった。

祝賀の集いの第2部は、ホテル木下秋田男鹿駅前で懇親会が開かれた。
取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通