ヒラタカゲロウから見えてきた、秋川の「違い」の豊かさ みちくさFeelog #20
川は、水がきれいであればあるほど、生きものもたくさんいる。
なんとなく、そんなイメージを持っていませんか?
私は秋川で四季を通じて生きものを見たり、子どもたちと川遊びをしたりしていますが、実際の川を歩いていると、もう少し複雑なんじゃないかなと思うことがあります。
流れが速すぎるところには、暮らせる生きものが限られる。
かといって、流れがほとんどない場所ばかりでも、生きものの顔ぶれは偏ってくる。
瀬がある。
淵がある。
大きな石がある。
細かな砂がある。
流れが速い場所のすぐ横に、静かな場所がある。
秋川には、そんな違う環境がモザイクのように並んでいます。
同じ環境だけがずっと続くより、違う場所が隣り合っているから、それぞれに合った生きものが居場所を見つけられる。
私には、その「違い」こそが、秋川の生きものの豊かさにつながっているように見えるんです。
そして川を見ていると、人の社会も少し似ているのかな、と思うことがあります。
みんなが同じ場所で、同じことが得意である必要はない。
ある場所ではうまくいかなくても、環境が変われば、その人の力が突然見えてくることがあります。
川の中に瀬や淵があるように、人にもそれぞれ力を発揮できる場所があるのかもしれません。

「瀬、淵、岸辺。数メートルの中にも違う環境がある秋川」
石をひっくり返すと、別の世界がある
8月31日、秋川でリバートレッキングをしていた時のこと。
川底の石をひっくり返して、水生昆虫を探してみました。
すると、小さな世界から次々と違う形の生きものが出てきます。

「夏のリバートレッキングで見つけた水生昆虫たち。石の裏には、想像以上に多様な世界が広がっています」
特に面白いのが、ヒラタカゲロウの仲間。
名前の通り、身体が薄く平たい。
そして、流れのある場所の石にぴったり張り付くように暮らしています。
国土交通省の水生生物資料でも、ヒラタカゲロウは流れの速い場所の石に身体を密着させて生活する生きものとして紹介されています。

「流れのある場所の石に張り付いて暮らすヒラタカゲロウの仲間(幼虫)。平たい身体にも、生きる場所との関係が見えてきます」
「なんで、こんなに平たいんだろう?」
図鑑を見るだけなら、身体の特徴として覚えて終わるかもしれません。
でも実際に川へ入ってみる。
脚に水流を感じながら石を持ち上げる。
その裏側に張り付いている虫を見る。
すると、
「ああ、この流れの中で生きるための形なんだ」
と、身体で理解できます。
生きものの形は、その環境で生きてきた歴史の一つなんですよね。
チベットの川で見つかった「水の力」
そんな秋川での経験と重なる、面白い研究が2026年8月に発表されました。
舞台は、チベット高原を流れるヤルンツァンポ川流域です。
研究者たちは、川底に暮らす水生昆虫などの大型底生無脊椎動物と、川の環境との関係を調べました。
高山の氷河河川では、これまで水温が生物群集を左右する重要な要因として注目されてきました。
ところが今回の研究では、水温以上に、
「水が川底にどれくらいのエネルギーを与えているのか」
という水理的な条件が、生きものの種類や組み合わせを強く左右していました。
さらに興味深いのは、生きものの種類数が、流れの力が弱ければ弱いほど増えるわけでも、強ければ強いほど増えるわけでもなかったこと。
研究では、中程度の水のエネルギーのところで種類数が最も多くなる傾向が示されています。
そして極端に強い流れになると、平たい身体など、強い流れに耐えられる特徴を持った生きものが選ばれていきました。
もちろん、チベット高原の高山河川で得られた結果を、そのまま秋川に当てはめることはできません。
でも、
「速すぎても違う。遅すぎても違う。その間に、いろいろな環境がある」
という、私が秋川で感じてきたことを考える、とても面白いヒントになりました。
「きれいな川」という言葉だけでは見えないもの
川を見る時、私たちはよく、
「水がきれい」
「水が汚い」
という言い方をします。
でも、生きものから川を見ると、それだけでは全然足りません。
流れの速さ。
水深。
石の大きさ。
砂。
水温。
光。
落ち葉。
石に付着する藻類。
水中の有機物。
洪水による攪乱。
そして、そこにいるほかの生きもの。
いろいろな条件の重なりの中で、一つの生きものが暮らしています。
ゲンジボタルも分かりやすい例です。
幼虫は、主に淡水性巻貝のカワニナを食べています。
ところがカワニナは、石の表面についた藻類や有機物などを食べて暮らしています。
カワニナにとって、栄養分が極端に少ない清澄な水では、餌となる藻類が十分に育ちにくい場合があります。
一方で、汚染が進み酸素が不足すれば、カワニナもゲンジボタルも暮らしにくくなる。
つまり、
「きれいなら、きれいなほど、生きものにとって良い」
というほど自然は単純ではありません。
水質だけでもない。
水の速さだけでもない。
温度だけでもない。
一つの物差しだけで自然を評価すると、本当の豊かさを見落としてしまう。
これは、人を見る時にも少し似ている気がします。
足が速い。
勉強が得意。
人前で話すのが得意。
じっくり観察するのが好き。
虫を見つけるのが誰よりも早い。
一つの基準だけで見れば目立たなくても、環境が変わった瞬間、その人の「得意」が急に見えることがあります。
自然も人も、一つの物差しでは測れない。
いろいろな条件がつながって、その場所の生態系ができています。
今日、その虫をエサに魚を釣ってみた
そして9月5日。
また秋川へ行きました。
夏休みも終わり、天気も少しはっきりしない一日。
川で活動している人も少なく、適度な水位で、澄んだ秋川が流れていました。
今日は小学生の親子たちと一緒です。
まず川へ入って、石をひっくり返します。
狙いはヒラタカゲロウの幼虫。
見つける場所は、やはり流れのあるところ。
大きめの石をそっと持ち上げると、平たい身体の小さな水生昆虫が動き出します。

「図鑑で覚える前に、まず川へ。石をひっくり返し、自分の目で生きものを探します」
でも今日は、観察して終わりではありません。
見つけた川虫を餌にして、今度は魚を釣ります。
浮きもオモリも使わない、昔ながらの川釣り
今回挑戦したのは、川の中へ入り、浮きを使わず、竿を前後に動かしながら魚を誘う昔ながらの釣り方です。
参加した子どもたちは、全員この方法が初めて。
最初は、
「これで本当に釣れるの?」
という感じです。
ところが、釣り方のレクチャーを終えてすぐ。
ブルブルッ。
竿から直接、魚の動きが手に伝わってきます。
待ちきれずに川へ入っていた男の子が竿を入れると、あっという間に一匹目。
一人が釣れる。
また一人が釣れる。
結局、全員が魚を釣ることができました。
約1時間で20匹弱。
特に目立ったのは、ウグイとオイカワです。

「初めて挑戦した昔ながらの川釣り。約1時間で20匹弱の魚が釣れました」
ここで私が面白いと思うのは、
さっきまで石の裏を探していた小さな虫が、そのまま魚につながった
ことです。
石。
水。
水生昆虫。
魚。
そして人。
図鑑なら、それぞれ別々のページに載っています。
でも川では、全部が同時に存在しています。
火をおこすと、さらに世界がつながる
釣りが終わったら、今度は河原で火おこしです。
炭に火を入れて、
おにぎりを焼く。
魚を焼く。
そして最後はマシュマロも焼く。
水の中で生きものを探していた子どもたちが、今度は火の前に集まります。

「水生昆虫を探し、魚を釣り、今度は火をおこす。自然の中では学びが一つずつつながっていきます」
さっきまで冷たい水に入っていた身体に、炭火の熱が伝わってくる。
川の匂い。
魚が竿を引く感触。
石の滑りやすさ。
火の熱。
炭の匂い。
焼いた食べものの味。
数時間の中で、ものすごい量の一次情報が身体へ入っていきます。
これが、私がフィールドでのみちくさを大切にしている理由です。
水の中では、答えが毎回変わる
私は、水でのアクティビティには、子どもたちの成長曲線を急カーブで上げてくれる力があると感じています。
川では、予定通りにならないことがたくさんあります。
昨日と水位が違う。
石が滑る。
思ったより深い。
流れが強い。
魚がいる場所も変わる。
だから、一歩進むたびに自分で判断します。
行けるかな。
やめようかな。
もう一歩行ってみようかな。
怖い。
でも、やってみたい。
そして、同じ川に入っていても、
飛び込みたい子。
魚を探したい子。
虫をずっと観察していたい子。
流れに身を任せたい子。
挑戦する場所も、「面白い」と思うことも、一人ひとり違います。
私は、その違いも大切にしたいと思っています。
全員が同じことをする必要はない。
それぞれが自分なりの「ちょっとやってみたい」を見つける。
大人から正解を教えてもらう前に、自分の身体から情報を受け取り、自分で判断する。
私は、そこに自然体験の大きな価値があると思っています。
豊かな川とは、「違い」がたくさんある川なのかもしれない
今回の最新研究を読み、秋川で水生昆虫を探し、魚を釣って、あらためて思いました。
豊かな川とは、
透明な川。
冷たい川。
魚がたくさんいる川。
という一つの条件で決められるものではないのかもしれません。
速い場所と遅い場所。
深いところと浅いところ。
石と砂。
光と影。
洪水で大きく動く場所と、比較的安定した場所。
その**「違い」がたくさん残っていること。**
そして、それぞれの違いを利用する生きものがいること。
違うことをなくすのではなく、
違うまま存在できる場所がある。
川を見ていると、「多様性」という言葉の意味が、少し身体で分かる気がします。
人も同じなのかもしれません。
全員を同じ流れに乗せるのではなく、
その人が力を発揮できる「瀬」や「淵」があること。
速い流れが得意な人もいる。
静かな場所で力を発揮する人もいる。
それぞれが違う場所で、違う役割を持つ。
そんな環境の方が、全体として豊かになるのではないでしょうか。
秋川を見ていると、そんなことまで考えてしまいます。
自然の面白さって、
一つの答えを覚えることではなく、
「なんでここだけ違うんだろう?」
と気づくことなのかもしれません。
その答えを探して、
石をひっくり返す。
水に入る。
虫を見つける。
魚を釣る。
人を見る。
そしてまた、新しい「なぜ?」が生まれる。
やっぱり、フィールドでのみちくさは面白い。
まだ、今シーズンの川遊びは間に合います!
夏休みが終わると、
「川遊びも、もう終わりかな」
と思う方もいるかもしれません。
でも秋川では、まだ川を楽しめます。
むしろ夏休みが終わり、人が少なくなった川だからこそ、ゆっくり流れを見たり、水生昆虫を探したりできる時間があります。
次回は9月13日(日)。
秋川で、生きものを探し、水の流れを身体で感じながら、思い切り川を楽しみます。
生きものを探したい子。
流れたい子。
飛び込みたい子。
それぞれが同じ川の中で、自分の「やってみたい」を見つけます。
子どもたちにとって、
「できた」
「怖かったけど挑戦した」
「自分で見つけた」
という経験は、教室とは違う速度で身体に残ります。
水でのアクティビティは、子どもたちの成長曲線を急カーブで上げてくれる。
今シーズンの川遊び、まだ間に合いますよ!
秋川で一緒に、みちくさしましょう。

「探す。流れる。飛ぶ。それぞれの『やってみたい』を秋川で」
9月13日(日)の詳細・お申込みはこちら
参考・出典
今回紹介した研究は、2026年8月にオンライン公開された、
「Hydrodynamics rather than water temperature shapes the macroinvertebrate communities in alpine rivers on the Qinghai–Xizang Plateau」
です。
チベット高原のヤルンツァンポ川流域において、水温だけではなく水理条件が大型底生無脊椎動物群集と強く関係し、分類群数が中程度の水理強度で高くなる傾向を報告しています。
そのほか、ヒラタカゲロウ、ゲンジボタル、カワニナの生態について、国土交通省の水生生物関連資料を参考にしています。