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復興の先の地域づくり|気仙沼DMC・熊谷夫妻

コメント

宮城県気仙沼市で建設業を営む熊谷圭悟氏と熊谷綾氏夫妻は2026年1月、地域の体験・ツアー造成を担う「気仙沼DMC」を立ち上げた。震災後、道路や防潮堤などのインフラ整備に携わる中で、復旧・整備が進む一方、人口減少や来訪者の減少が続く地域の現状に危機感を抱いたことが、観光分野へ踏み出すきっかけとなった。現在は、気仙沼を知り、訪れ、地域のファンになってもらうための事業づくりを進めている。今回は、気仙沼DMC社長の熊谷圭悟氏と熊谷綾氏に、設立の背景や地域観光の課題、今後の展望について聞いた。(9月7日、オンラインにて。聞き手=ツーリズムメディアサービス特任記者、地域創生プロデューサー 石林里英)

建設業から観光へ、地域との関わり方を変える

――まず、2人はこれまでどのような仕事をされてきたのでしょうか。

熊谷綾氏 私たち夫婦は宮城県気仙沼市の出身です。震災後は、主人の実家の家業である建設業を5代目として引き継ぎ、主に道路や防潮堤などのインフラ整備に携わってきました。

震災から15年が経ち、インフラの整備もほぼ完了しました。道路や施設が完成していく一方で、「道路や施設はできたのに、人が減っている」「訪れる人も年々減っている」という状況に寂しさを感じるようになったんです。

もっと気仙沼の魅力を知ってほしい。そんな思いから、観光業にも挑戦するようになりました。観光の分野に取り組んで3年目になります。そして2026年1月、気仙沼DMCを設立しました。

インフラを整備する仕事から、人が訪れる理由をつくる仕事へと活動が広がったのですね。

熊谷圭悟氏 そうですね。道路や施設を整備することは地域にとって大切なことですが、それだけでは人が訪れ続ける地域にはならないことを実感しました。そこから、人が来る理由や、また来たいと思う理由をつくることにも関わっていきたいと考えるようになりました。

お土産店から始まり、困りごとが事業になった

――現在は、どのような取り組みをされていますか。

熊谷綾氏 建設業を続けながら、観光を通じて関係人口を増やすことを意識しています。単に観光に来てもらうだけではなく、さまざまな形で気仙沼を知って、訪れて、ファンになってほしい。そのために、いろいろな入り口をつくっています。

スタートはお土産店でした。お土産を紹介する中で観光で訪れたお客様と接する機会が増えると、「ここが分からない」「こういう場所はないのか」といった困りごとを聞くようになりました。

そこで、困っている人が目の前にいるのに見て見ぬふりができなかったんです。気が付けば、完全民間の観光案内所をつくっていました。

さらに、「気仙沼で体験できる場所が欲しい」という声があれば体験コンテンツをつくる。ツアーが必要だという声があればツアーを造成する。目の前のお客様の声に1つずつ応えていった結果、活動が広がっていきました。

「点」ではなく「面」で動き、経済を地域に回す

――観光業に取り組む中で、現在感じている課題は何でしょうか。

熊谷圭悟氏 やはり、観光の仕事で安定した収益を得ることの難しさです。観光業に本格的にチャレンジする前から、その難しさについては聞いていました。実際に取り組んでみると、気仙沼のために一生懸命活動している観光ガイドをはじめ、観光を盛り上げてくれている人たちに、十分に経済が回っていない現実があります。

私たち自身、観光についてはまだまだ無知で、経験も浅いです。それでも、もっと地域に経済が回り、観光を盛り上げたいという思いで挑戦しています。

――その課題に対して、どのような解決を目指していますか。

熊谷圭悟氏 今の段階では、「これだ」という1つの答えを見つけられているわけではありません。ただ、個々で頑張るのではなく、「面」で動くことには大きな意味があると感じています。

気仙沼の中で、それぞれが頑張っている「点」と「点」をつなぎ、動線をつくっていく。それによって1つの場所、1人の人だけではなく、地域全体に人が動いていくような「面」をつくっていきたいです。

さらに、気仙沼の中だけではありません。全国のDMCとつながることによって、気仙沼に新しい人や情報、可能性が生まれることも実感しています。地域の中でつながることと、地域の外とつながること。その両方が、これからの地域観光には必要だと考えています。

データだけでは見えない「目の前の声」を大切に

――事業づくりで特に大切にしていることはありますか。

熊谷綾氏 民間だからこそできる、地道なことを大切にしています。相手のニーズや困りごとに、ストレートに寄り添うことです。

もちろんデータを見ることも大切ですが、データだけでは分からないことがあります。目の前にいる人が何に困っているのか、何を求めているのか。実際の声を聞くことで初めて分かることがあります。

私たちは、その生の声を大事にしています。課題やニーズに対して、「では、どうしたらいいのか」と考えて動いてみる。その繰り返しが、結果的に満足度にもつながると考えています。

「この体験のために行きたい」を気仙沼に

――今後、気仙沼DMCとしてどのようなことに取り組みたいですか。

熊谷圭悟氏 気仙沼の「この体験」を目的に、わざわざ行きたいと思ってもらえるものをつくっていきたいです。

「この体験をしてみたい」「この人に会いに行きたい」と思ってもらえるような、気仙沼に行かなければできないこと、気仙沼に行かなければ会えない人を、たくさんつくっていきたいです。

観光地を見るだけではなく、「人」や「体験」に会いに行く。そんな目的が増えていけば、気仙沼を1度訪れて終わるのではなく、また訪れたい、誰かに紹介したい、もっと関わりたいと思ってもらえるのではないでしょうか。

閑散期の課題に、まず小さく動いてみる

――中長期的には、どのようなことを目標にしていますか。

熊谷綾氏 まず取り組みたいのは、観光の閑散期といわれる冬から春先にかけて、新しいツアーや探究学習をつくり、実施することです。

決して大きな目標ではないかもしれません。でも、課題とされていることに対して、小さくてもアクションを起こしてみれば、良いことも悪いことも必ず見えてきます。やってみなければ分からないことはたくさんあります。

だから、「まず動いてみる」ということは、これからというより、私たちにとって常々の目標なのだと思います。

――最後に、これからの気仙沼にどのような未来をつくっていきたいですか。

熊谷圭悟氏 「気仙沼に行かなければできない」「気仙沼に行かなければ会えない」というものを増やしていきたいです。

そして、そこから気仙沼を知ってもらい、実際に訪れてもらい、ファンになってもらう。

1人ひとりの活動をつなぎ、地域の中に経済が回る仕組みをつくりながら、気仙沼と長く関わってくれる人を増やしていきたいです。

建設業から観光業への挑戦は、単なる業種転換ではない。インフラを整えた次に、人が訪れ、出会い、関わり続ける理由を地域につくる取り組みだ。地域の「点」をつなぎ、目の前の声を拾い、小さくてもまず動く。気仙沼DMCの歩みは、地域観光の課題に対して、異業種からでも現場の声を起点にまず動き、地域内外のつながりを生かしながら新しい価値をつくる一つの道筋を示している。

写真キャプション:熊谷圭悟氏(左)、熊谷綾氏(右)、視察対応の様子、伝統芸能体験ツアーの様子

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