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旅先で生きものを見つけたら、それは「観光」か「調査」か?                         旅行者が科学者になる時代――東京山側で始まっていた小さな実践|みちくさFeelog #24

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2026年2月23日。

東京山側の渓谷で水温を測ると、5.6℃でした。

手を入れているだけでも、じんじんと冷たくなってくる水温です。

そんな真冬の渓谷へ、年間会員「いきものクラブ」の子どもたちと入りました。

目的は、ナガレタゴガエルの観察です。

「こんな冷たい水の中で、本当にカエルが活動しているの?」

ところが、探してみるといました。

ナガレタゴガエルは、こうした冷たい渓流で繁殖するカエルです。

子どもたちは生きものを探し、水温を測り、写真を撮ります。

そして家へ帰ったあと、

「なぜ、5℃台の水の中で産卵するのだろう?」

と、また調べ始める。

ここで、ふと思います。

これは自然観光なのでしょうか。

自然体験なのでしょうか。

それとも、もう「調査」と呼んでもいいのでしょうか。

水温5.6℃の東京山側の渓谷。真冬に繁殖するナガレタゴガエルを、年間会員の子どもたちと探し、水温を測りながら観察しました。

「Tourist Scientist」という言葉を知った

そんなことを考えていた時、日本学術会議が2026年9月26日に開催予定の公開シンポジウム、

「観光・科学・野生動物保全をつなぐ―The Tourist Scientist Project の挑戦―」

の案内を知りました。

私は、このシンポジウムに参加したわけではありません。

まだ開催前です。

ただ、その趣旨を読んで、

「これ、私たちがやってきたこととかなり近いな」

と思いました。

野生動物の保全には、継続的なデータが必要です。

しかし、調査には人も時間もお金もかかる。

一方、自然豊かな地域には毎年、多くの旅行者が訪れています。

だったら、その旅行者が生きものを観察し、記録し、研究や保全にも参加できないだろうか。

観光客を地域資源を「見る人」だけではなく、地域の自然を一緒に調べる人として考えてみる。

それが「Tourist Scientist」という発想です。

この言葉を知ったことで、これまで自分たちが現場で行ってきたことを、少し違う角度から見るようになりました。

一回見るのと、同じ場所を追い続けるのは違う

私たちの「いきものクラブ」は、一年間を通して同じ子どもたちとフィールドへ出る年間会員プログラムです。

冬の渓谷。

春の湿地。

初夏の山。

川。

森。

海。

季節ごとに場所を変えることもありますが、同じ場所へ何度も戻ることも大切にしています。

そして、現場で見て終わりではありません。

日を改めてオンラインで振り返り、自分が気になったことを調べ、自分なりの方法で発表します。

見つけた生きものを一覧表にする子もいます。

一種類だけを選んで、生態や特徴を深く調べる子もいます。

絵に描く子もいます。

「なぜ、こんな環境にいるのだろう?」

と自分なりの仮説を考える子もいます。

フィールドで得た一次情報から疑問が生まれ、それを調べ、再び言葉にして誰かへ伝える。

ここまで来ると、

「生きものを見た」

という体験から、

「自分で調べた」

という活動へ少しずつ変わっていきます。

3月に卵、5月には幼生

2026年3月7日。

トウキョウサンショウウオの繁殖場所を訪れました。

成体を観察し、水中に産みつけられた卵のうも調べました。

その時、9個の卵のうについて、中にある卵の数を実際に数えてみました。

30、32、32、42、40、36、45、41、48。

合計346個。

1卵のうあたりの平均は、約38.4個でした。

数字を数えると、見え方が変わります。

「卵があった」

から、

「いくつあった?」

「場所によって違う?」

「去年はどうだった?」

という、新しい問いが生まれる。

観察が、少しずつ調査へ近づいていきます。

そして5月17日。

同じ場所へ戻りました。

3月に卵のうを見た場所で、今度は幼生を観察しました。

一回だけ訪れていたら、

「サンショウウオの卵を見た」

という思い出で終わっていたかもしれません。

でも、もう一度行く。

すると、

卵 → 孵化 → 幼生

という、生きものの時間が見えてきます。

これは図鑑を読むこととは少し違います。

「あの時見た卵が、その後どうなったのか」

自分自身の時間と、生きものの時間がつながる。

継続して同じ場所を見るからこそ得られる一次情報です。

3月7日に成体と卵のうを観察し、5月17日に同じ場所を再訪すると幼生の姿がありました。一度見るだけではなく、季節をまたいで同じ場所を追うことで、生きものの時間が見えてきます。

毎年、同じ日でも同じ自然にはならない

この感覚は、2年連続で高尾山の白いオタマジャクシを観察した時にも強く感じました。

ほぼ同じ時期、同じ場所へ行っても、成長具合が違う。

前年にあった産卵場所が、そのまま残っているとも限りません。

水が流れる。

土が動く。

場所が埋まる。

逆に、新しい水たまりが生まれる。

自然は、私たちがつくった年間スケジュール通りには動いてくれません。

だからこそ、

「去年と同じ日に行けば同じものが見られる」ではなく、「今年は何が違うのだろう?」

が、再びその場所へ行く理由になります。

これは旅行商品を考えるうえでも、かなり面白いことだと思っています。

毎年、新しいアトラクションをつくらなくてもいい。

同じ場所が変わり続けているから、また行く意味がある。

ガイドより先に、子どもが見つける

6月14日には、標高1,000mを超える山地へサンショウウオを探しに行きました。

低地とは違う環境に暮らすサンショウウオを観察し、標高や環境による棲み分けについて考えるためです。

実は、その場所で私自身もまだサンショウウオを見つけたことがありませんでした。

「この辺りにいそうだな」

と思う場所を子どもたちに伝える。

すると、

子どもたちが先に見つけてくれました。

別の場所では、先へ進んだ子どもたちが、短時間のうちに複数個体を見つけました。

こういう時は、本当に面白い。

最初は、

「どこにいるの?」

と聞いていた子が、

何度もフィールドへ出るうちに、

「この辺りにいそう」

と環境を見るようになります。

石の形。

水の流れ。

湿り気。

落ち葉。

木陰。

小さな違いを読むようになる。

ガイドが見つけた生きものを見せる関係から、

一緒に探す関係へ。

そして時には、私の方が子どもから教えてもらう。

観察する眼は、短い期間でも驚くほど育っていきます。

「見た」が「調べた」に変わるのは、いつだろう

私の中では、その境目の一つがアウトプットです。

フィールドでは写真を撮ります。

写真には撮影日時が残り、設定によっては位置情報も記録されます。

水温も測る。

見つけたものを記録する。

そして後日、オンラインで発表します。

発表方法は自由です。

出会った生きものを一覧にする子。

一種類を深掘りする子。

絵で表現する子。

仮説を立てる子。

私がフォーマットを固定しすぎないのには理由があります。

遊びたい子は、遊べばいい。

調べたい子は、調べればいい。

その場では夢中で遊んでいるだけに見えた子が、家に帰ってから、とても詳しく調べてくることもあります。

年齢も違う。

興味の深さも違う。

表現方法も違う。

科学に参加するために、全員を同じ型にはめる必要はない。

私はそう考えています。

アウトプットすると、人そのものも変わっていく

そして面白いのは、育つのが観察眼だけではないことです。

年間会員の中には、最初は人前で話すことが苦手で、お母さんの後ろに隠れるようにして発表していた子もいました。

フィールドへ行く。

自分で見つける。

調べる。

オンラインで発表する。

それを繰り返すうち、半年ほどで、自分の言葉ではっきり話せるようになってきました。

Voicyの収録にも、一緒に参加するようになりました。

また、以前は魚にほとんど触ったことがなかった女の子もいました。

新島でくさやづくりを体験し、何十匹もの魚を自分でさばいた。

そこから興味が広がり、誕生日には出刃包丁を買ってもらいました。

その後、近所の魚屋さんで毎週魚を買ってきて、さばき続けました。

そして、一般募集のプログラムで、

魚のさばき方を教える先生役

まで担当しました。

その成長を見ていたお母さんから、とても感謝していただきました。

参加する。

調べる。

繰り返す。

そして誰かに伝える。

参加者 → 調査者 → 伝える人。

そこには、自然科学の学びだけではない、人の成長の循環があります。

フィールドの「一瞬」の先を観察する

フィールドで見ることができるのは、その瞬間だけです。

一方、対象となる種や法令、地域のルール、保全上の影響を十分に確認したうえで飼育観察が可能な場合には、卵や幼生などを継続して観察することで、その後の変化を見ることもできます。

実際に飼育してみると、

「図鑑に書いてある通りなのか?」

「温度によって違うのか?」

「この個体はどうなのか?」

といった疑問が出てきます。

図鑑や論文から得られる二次情報と、自分自身で観察した一次情報がつながっていく。

ただし、ここには大切な前提があります。

生きものによっては、捕獲や飼育に規制があります。

希少な生きものでは、生息場所そのものを公開することが保全上のリスクになることもあります。

Tourist Scientistを考えるうえでは、

見つける技術だけではなく、守るためのルールを知ること

も欠かせません。

やんばるで私は「旅行者として調査する」を体験した

私自身にも、「Tourist Scientist」という言葉を知る以前から、その考え方を強く感じた体験があります。

2024年、沖縄県やんばるの森で参加した保全体験型ナイトツアー、

「AKISAMIYO」

です。

普通のナイトツアーとは、少し違いました。

具体的な調査場所は、希少な生きものを守るため秘密。

参加者によるスマートフォンやカメラでの生きもの撮影も禁止。

GPS地図アプリも使いません。

車で移動しながら、必要な場所では歩き、生きものを目視で探します。

そして、出会った生きものを紙の環境モニタリング調査シートへ手書きで記録していく。

この仕組みを体験して感じたのは、

「データを集めること」と「データを公開すること」は違う

ということでした。

生きものの情報は、多ければ多いほど良いとは限りません。

誰に共有するのか。

どこまで公開するのか。

位置情報をどう扱うのか。

観光客が科学や保全に参加するなら、そこまで含めて学ぶ必要があります。

そしてAKISAMIYOでは、旅行者が参加費を支払うことで、地域の観光経済と環境保全がつながる仕組みもつくられています。

これは、私にとって非常に印象的な体験でした。

2024年に参加した、やんばるの保全体験型ナイトツアー「AKISAMIYO」。希少種を守るため調査場所は非公開。スマートフォンで生きものを撮影するのではなく、目視した情報を紙の調査シートへ記録していきました。

研究者の仕事を奪うのではなく、研究者につなぐ

「旅行者が科学者になる」

という言葉だけを見ると、

「誰でも研究者になれるということ?」

と思うかもしれません。

私は、そういう意味では考えていません。

専門家には、長年積み上げてきた分類、生態、統計、調査設計などの知識があります。

旅行者が集めたデータも、調査方法がバラバラであれば、研究に利用できないことがあります。

だからこそ大切なのは、

研究者 × 地域ガイド × 旅行者

という関係です。

私たちも、多摩川で化石を発掘すると、貝化石だけでなく、ときどき魚類や鳥類と思われる骨の化石を見つけることがあります。

分からないものは、化石研究者や大学の先生に見てもらいます。

また、年間会員の参加者から、

「京都大学の西川完途先生の活動と、サクちゃんの活動には共通するところがあるので、いつか一緒にやってほしい」

と言われたことがあります。

西川先生は、サンショウウオ類を中心に研究しながら、自然史の面白さを社会へ伝える活動にも取り組んでいます。

現時点で、私たちとの連携が決まっているわけではありません。

ただ、一級の研究者が持つ知識と、何度も地域を訪れる子どもや旅行者の観察をつなげる。

そこには大きな可能性があると感じています。

「リピーターのために、毎回違うものを用意する」をやめてみる

ここからは、旅行・観光に関わる方にも一緒に考えてほしい話です。

観光では、リピーターを増やすために、

「去年とは違うイベントを」

「新しいコンテンツを」

と考えがちです。

でも、自然を相手にするのであれば、逆でもいい。

同じ場所を、もう一度見に行く。

なぜなら、自然の側が変わっているからです。

2月にカエルを見る。

3月に卵を見る。

5月に幼生を見る。

夏に昆虫を見る。

秋には植生を見る。

そして翌年、同じ場所へ戻る。

すると、

「また行きたい」の理由が、

新しいものを消費したい

から、

前回から何が変わったのか確かめたい

へ変わります。

これは、地域にとって非常に大きな可能性があります。

冬の秋川渓谷が「閑散期」ではなくなるかもしれない

東京山側・秋川渓谷では、冬は一般に観光の閑散期とされます。

でも、生きものの世界から見れば、冬から早春にしか見られないものがあります。

2月の早朝に調査する。

夜に観察する。

翌朝もフィールドへ出る。

そうなれば宿泊が必要になります。

宿に泊まる。

地域で夕食を食べる。

地域のガイドに仕事が生まれる。

大学教授や博物館研究者など一級の専門家を招き、適正な謝礼を支払う。

そして、参加者の観察情報が少しずつ地域に蓄積されていく。

私は、

「研究するために、また来る観光」

をつくれないだろうかと思っています。

東京山側だけではありません。

現在関わりが生まれつつある長野県、新潟県、南大阪などでも、その地域ならではの調査テーマをつくる。

地域ごとの違いを調べる。

また別の季節に戻る。

そして比較する。

観光と探究と地域づくりの境界は、もっと面白くできるはずです。

観光のKPIに「地域に何を残したか」を加えられないか

行政やDMOの観光施策では、

何人来たか。

何泊したか。

いくら消費したか。

満足度はどうだったか。

こうした数字は、もちろん重要です。

そこへもう一つ、

「旅行者が地域に何を残したか」

という評価軸を加えられないでしょうか。

生きものの観察記録が何件増えた。

定点写真が何年分蓄積された。

専門家へいくら還元できた。

保全活動へいくら回った。

何人の子どもが研究成果を発表した。

何人が次の年も調査へ戻ってきた。

そんな数字も、観光の成果として見られるようになったら面白い。

サステナブルの、その先へ

私はこれまで、

自然を壊さないように利用する

というサステナブルな観光を大切にしてきました。

でも、もう一歩先へ行きたいと思っています。

来る前と同じ状態に保つだけではなく、

来た時よりも、地域が少し良くなる。

旅行者が来る。

宿泊する。

地域で食べる。

研究者の活動を支える。

データが残る。

保全にお金が回る。

子どもが育つ。

その子が、いつかガイドや研究者、地域の自然を伝える人になるかもしれない。

旅行者。

地域事業者。

研究者。

自然環境。

次の世代。

そして、プログラムをつくる側。

それぞれに価値が戻る。

私は、そんな「六方良し」の仕組みにできないかと考えています。

サステナブルから、リジェネラティブへ。

自然を利用しながら守る。

さらに、その地域の自然や人材を少しずつ豊かにしていく。

研究費や調査人材が十分ではない領域がある中で、民間の旅行消費を地域経済へ回しながら、基礎的なデータ収集にも貢献する。

そして、その活動自体が将来の人材育成にもつながっていく。

そんな仕組みができたら最高です。

Tourist Scientistは、これからどうなるのだろう

日本学術会議のシンポジウムは、この記事を書いている時点ではまだ開催前です。

Tourist Scientistという考え方も、これから議論や実証が深まっていく段階だと思います。

私は、このプロジェクトの関係者ではありません。

でも、その考え方を知ったことで、

「私たちが現場でやってきたことにも、こんな捉え方があったのか」

と思いました。

そして、これから日本で観光と科学、自然保全をつなぐ仕組みが広がっていくのであれば、東京山側で積み重ねてきた小さな実践も、一つの事例や手段として役に立てるかもしれない。

そう考えています。

「また来たい」の理由を変えたい

私がつくりたいのは、

「楽しかったから、また来たい」

だけの旅ではありません。

もちろん、楽しいことはとても大切です。

そのうえで、

「あの卵は今年どうなっただろう?」

「去年いたサンショウウオは、今年もいるだろうか?」

「伐採された森には、どんな植物や昆虫が増えてきただろう?」

そんな問いが、もう一度その地域へ向かう理由になる旅をつくりたい。

季節ごとに訪れる。

年を越えて訪れる。

データが積み重なる。

地域の人と顔見知りになる。

研究者とも出会う。

そして、いつの間にか「観光客」だった人が、その場所を一緒に見守る人になっている。

もし、そこまでつくれたら。

旅行は地域資源を消費するための仕組みから、

地域の未来を一緒につくる仕組み

へ変わっていくのかもしれません。

旅先で生きものを見つける。

その小さな「見つけた!」から始まって、

記録する。

比べる。

考える。

伝える。

そして、また戻ってくる。

旅行者が科学者になるというのは、白衣を着ることではないのだと思います。

「前と何が違うんだろう?」と問い続ける人になること。

そこからなら、誰でも最初の一歩を踏み出せる。

また、新しいみちくさが始まりそうです。

やっぱり、みちくさは面白い。


参考・出典

日本学術会議
「観光・科学・野生動物保全をつなぐ―The Tourist Scientist Project の挑戦―」

保全体験型ナイトツアー AKISAMIYO
やんばる国立公園とその周辺地域で実施されている環境モニタリング調査体験。

応用生態工学会掲載論文
「千葉県北東部の谷津田におけるトウキョウサンショウウオの産卵場の分布及びその周辺環境」

環境省
トウキョウサンショウウオを含む特定第二種国内希少野生動植物種に関する情報

京都大学
西川完途教授の研究・教育・社会還元活動に関する公開情報

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