世界最大級のデジタルトラベルプラットフォームを展開するBooking.com(ブッキング・ドットコム)は6月2日、都内でメディア向けイベント「AI×世界中3.7億件のレビューから読み解く、地域観光の新たな可能性とは」を開催した。イベントでは、AIやビッグデータを活用した地方誘客の可能性や、日本のローカルエリアが持つ観光価値について議論するとともに、世界中の旅行者から集まった累計3.7億件超のレビューを活用し、日本の地域観光の魅力発信を強化する新プロジェクト「おもてなしリレー」を発表。奄美、由布院、野沢温泉の3地域を起点に、地域のおもてなし文化やローカル体験を世界へ発信していく。
「ゴールデンルート以外」に高評価 3.7億件超レビューが示す地方需要
冒頭、ブッキング・ドットコム 日本代表のルイス・ロドリゲス氏が、「高山、奄美、野沢温泉、由布といった地域は、東京・京都・大阪の“ゴールデンルート”ではないが、世界の旅行者から非常に高い評価を得ている」と説明。その背景として、旅行者が“本物の体験”や“地域とのつながり”を求めていることを挙げた。
ブッキング・ドットコムでは、宿泊体験や食事、地域住民との交流など、旅行者のリアルな声をレビューとして蓄積。AIとビッグデータを活用することで、旅行者一人ひとりの趣向に合わせた地方観光地の提案が可能にしている。
ロドリゲス氏は、「日本には、海外旅行者にまだ十分知られていない魅力的な地域が数多く存在する。AIと地域コミュニティ、旅行者レビューを組み合わせることで、日本観光の新たな魅力を地方へ分散できる」と語った。

「AIが旅先を探す時代」へ 地域情報の質が重要に
続いて登壇したブッキング・ドットコム 北・南アジア地区リージョナルディレクターのヌノ・ゲレイロ氏は、アジア太平洋地域における旅行動向を紹介した。ゲレイロ氏によると、日本は世界で最も人気の高い旅行先の一つとなっており、Booking.com上でも東京が検索1位、大阪が2位となっている。
一方で、課題は「どう地方へ分散させるか」にあると指摘。2030年までに訪日客6,000万人、地方宿泊数1億3,000万泊という政府目標に触れながら、「旅行者はすでに日本に来たがっている。重要なのは、その先にどう誘導するかだ」と述べた。
さらに、APAC旅行者の95%が「新しい旅行先を探す際にAI活用を期待している」とのデータも紹介。AIが旅先選択に与える影響が急速に高まっている現状を示した。ゲレイロ氏は、「AIが提案する情報の信頼性が重要になる。だからこそ、実際に宿泊・体験した旅行者レビューの質と量が価値を持つ」と強調した。

メタ観光推進機構・牧野氏「観光地ではない場所にも価値」
パネルディスカッションでは、メタ観光推進機構代表理事の牧野友衛氏が登壇した。牧野氏は、Googleマップや既存観光情報では拾いきれない“地域の日常”に価値があると指摘。「観光スポットではない坂道や商店街、電線、手書き看板などにも、日本らしさや物語性がある」と述べた。
牧野氏は、地域住民や外部専門家とのワークショップを通じ、地域の隠れた魅力を可視化する「メタ観光」の取り組みを紹介。「従来の観光施設だけではなく、情報として存在していなかった価値を発見し、観光資源化することが重要」と語った。
また、「AIが旅先提案の中心になる時代だからこそ、レビューや地域情報の量と質がさらに重要になる」との見方を示した。

観光カリスマ・山田桂一郎氏「地域の日常こそ観光価値」
観光カリスマでJTIC.SWISS代表の山田桂一郎氏は、「海外旅行者は観光スポットだけを見ているわけではない。地域の暮らしや空気感、人との関係性に価値を感じている」と指摘した。
山田氏は、「観光とは地域の日常と旅行者の非日常が出会って生まれるもの」と説明。新しい観光施設を作るよりも、「地域にすでに存在する本質的価値をどう編集し、物語として伝えるか」が重要だと述べた。スイス・ツェルマットの事例を紹介し、「どのような地域であり続けるか」という地域全体の意思共有が重要だと強調。地域住民、交通、宿泊、行政などが連携した“地域経営型観光”の必要性を訴えた。
その上で、「観光は目的ではなく、地域を良くするための手段。人数だけを追えば、地域は疲弊する。地域の誇りや次世代につながる観光でなければならない」と語った。

地域のおもてなし文化を可視化
同社が新たに開始する「おもてなしリレー」は、2026年の「日本で最も居心地の良い都市」に選出された地域を起点に、地域ごとの“おもてなし文化”や生活体験を世界へ発信するプロジェクト。単なる観光地紹介ではなく、旅行者レビューをもとに、地域住民との交流や日常文化、食、温泉、自然など、“その土地ならではの体験価値”を可視化し、地方誘客や地域活性化につなげる狙いがある。
第1弾では、奄美、由布院、野沢温泉の3地域にフォーカス。地域事業者や宿泊施設、コミュニティと連携しながら、それぞれ異なる日本型ホスピタリティを国内外へ発信していく。
AI時代でも最後に残るのは「人の体験」
イベント全体を通じて共通していたのは、「AIが発達しても、最終的な価値はリアルな体験や人との交流にある」という視点だった。
ブッキング・ドットコム側は、「テクノロジーは大企業だけではなく、小規模旅館や地域事業者にも価値を提供できる」と述べつつ、「本当の価値は、人と人とのつながり、日本のおもてなし精神にある」と強調した。
訪日需要が拡大する中、観光業界ではAI活用やデータ分析への注目が高まっている。一方で、今回の議論では、“効率化”だけではなく、「地域固有の物語」や「人間的体験」をどう残すかが、これからの地方観光の競争力になるとの認識が共有された。
取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通