日本旅行業協会(JATA)は5月28日、アウトバウンド促進協議会(JOTC)オセアニア・大洋州部会による、2026年度のオーストラリア・パラオ向けアウトバウンド拡大施策を発表した。サステナブルな旅行を軸に、環境保全や社会貢献を組み込んだ旅行商品の造成を進め、海外旅行需要の拡大につなげる。
JATAでは2024年度から、オーストラリア政府観光局などと連携し、環境保全活動への参加を組み込んだ旅行商品の造成を推進。2026年度は既存施策を拡充するとともに、新たにパラオ共和国でのサステナブルツーリズム推進にも乗り出す。
会見でJOTCオセアニア・大洋州部会長の秋山秀之氏(日本旅行 取締役兼常務執行役員)は、「持続可能な旅行を、新しい旅行の付加価値としてどう送客促進につなげるかがテーマ」と説明。「責任あるツアー、責任あるエージェントのあり方を模索してきた」と語った。
豪州向けサステナブルツアーを拡充 対象地域も拡大
2025年度は、グレートバリアリーフやブルーマウンテンズ、ロットネスト島など、環境保全活動を行う地域を組み込んだツアーを造成。対象商品には共通ロゴマークを掲示し、旅行参加を通じて環境保全団体へ寄付できる仕組みを導入した。
参画したのはANA X、エイチ・アイ・エス、JTB、日本旅行、阪急交通社、読売旅行の6社。2025年度は総額5,000豪ドルを、グレートバリアリーフ保全に取り組む「Resilient Reefs Foundation」へ寄付した。
2026年度は、対象コンテンツをさらに拡充。従来のグレートバリアリーフ、ブルーマウンテンズ、ロットネスト島に加え、コアラ保護活動を行う「カランビン・ワイルドライフ自然保護区」、ペンギン保護で知られる「フィリップ島自然公園」を追加する。
対象期間は2028年3月まで延長。JATAでは、単年度施策ではなく継続的な取り組みとして定着を図る方針だ。
秋山氏は、「短期的なキャンペーンではなく、継続して広げていくことが重要」と説明。旅行商品そのものの価値向上につなげたい考えを示した。
「カーボンオフセットツアー」本格始動 植林を可視化
2026年度の柱となるのは、オーストラリアの気候変動対策企業「Reforest社」と連携したカーボンオフセットプログラムだ。
企業・教育旅行などの団体旅行を対象に、旅行によるCO2排出量に応じた植林活動へ参加。オーストラリア政府認証のカーボンクレジット「Australian Carbon Credit Unit(ACCU)」を活用し、森林再生プロジェクトへつなげる。
特徴は、「植林活動の可視化」にある。参加企業は専用ダッシュボードを通じ、自社ツアーによって植林されたエリアや本数を確認可能。サステナブル証明書も発行され、CSR活動として活用できる。
JATAでは2026年度、オーストラリア旅行による約1,000トン分のCO2排出量オフセットを目標に掲げる。これは「ケアンズ3泊5日・エコノミークラス利用」で約500名相当分にあたるという。
JATA海外旅行推進部副部長の大久保英夫氏は、「単なる寄付ではなく、植林がどう行われているかを可視化できる点が大きい。小さな一歩から継続していくことが重要」と語った。
パラオでも新展開 “環境と観光の両立”をテーマに
2026年度からは、新たなディスティネーションとしてパラオ共和国でもサステナブルツーリズム施策を開始する。パラオは、入国時に100米ドルの「プリスティン・パラダイス環境税(PPEF)」を徴収するほか、「パラオ・プレッジ」と呼ばれる環境保護誓約への署名を義務付けるなど、世界的にも先進的な環境保全政策で知られる。
JATAではパラオ政府観光局(PVA)と連携し、「自然・環境保護」「文化・平和学習」の2テーマを軸にコンテンツ開発を進める。教育旅行分野とも連携し、平和学習や環境学習を組み込んだ旅行商品造成を進める。
大久保氏は、「パラオは“観光と保護をどう両立するか”を肌で感じられる国。サステナブルツーリズムの最前線だ」と説明。2025年10月にユナイテッド航空の直行便が復活することも追い風になるとの見方を示した。
「責任ある観光」をアウトバウンド拡大へ
JATAでは今回の取り組みを、単なる環境施策ではなく、“旅の付加価値化”によるアウトバウンド需要喚起と位置付けている。
近年、海外旅行市場では価格競争だけでなく、「社会貢献」「環境配慮」「地域との共生」といった価値観への関心が高まっている。一方で、日本人海外旅行者数はコロナ前水準への回復が遅れており、新たな旅行動機創出が課題となっている。
今回の施策は、旅行そのものを「消費」ではなく、「環境再生や社会参加につながる体験」として再定義しようとする試みともいえそうだ。
※サムネイルは、JATAの大久保副部長(左)と秋山部会長
取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通