全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)女性経営者の会(JKK)は6月11日、跡見学園女子大学(東京都文京区)において、温泉エッセイストで同大学兼任講師の山崎まゆみ氏による講義「観光温泉学(温泉と保養)」で特別講義を実施した。会長の山田佐知氏(兵庫県・ほてるISAGO神戸女将)、副会長の吉田絹江氏(三重県・吉田屋 和光女将)、次世代観光推進委員長の野澤奈央氏(新潟県湯田上温泉・ホテル小柳女将)が登壇し、宿泊業界の現状や女性経営者としての働き方、観光産業の魅力について学生たちに語った。
講義は山崎氏がナビゲーターを務め、「宿泊業で働く女性の現場とリアル」をテーマに実施。JKKの活動紹介に加え、旅館経営の実情や観光業界が抱える課題、地域との関わりについて活発な意見交換が行われた。
宿泊業界を支える女性経営者ネットワーク
山田会長は、JKKについて「全国の旅館やホテルの女性経営者が集まり、観光業界の発展や宿泊業の課題解決に取り組む組織」と説明。全国約90人の会員が所属し、定例会や研修会を通じて経営課題や地域活性化について学び合っていることを紹介した。
また、「観光業は裾野が広く、地域経済への波及効果も大きい産業」としたうえで、「女性経営者として知識や経営感覚を磨きながら、地域や業界を盛り上げていくことが大切」と語った。
さらに、JKKでは近年、観光人材の育成や地域との連携、持続可能な観光地づくりなどにも力を入れており、女性ならではの視点を生かした活動を展開していることを紹介した。

宿の仕事は“おもてなし”だけではない
講義では、旅館・ホテルの仕事に対する学生のイメージについても話題となった。
山田会長は、「宿泊業は接客業と思われがちだが、それだけではない」と説明。人事、総務、経理、広報、営業、商品企画、SNS運営など幅広い業務があることを紹介し、「人と接することが苦手でも、自分の得意分野を生かして活躍できる仕事がたくさんある」と学生たちに呼びかけた。
また、宿泊施設は24時間365日稼働する事業であり、多様な職種が連携して初めて成り立つ仕事であることも説明。「お客様に喜んでいただくために、多くのスタッフがそれぞれの役割を担っている」と宿の仕事の奥深さを伝えた。
一方で、業界共通の課題として人材不足にも言及。「全国的に人手不足が続く中、外国人スタッフと共に働くことも当たり前になっている。多様な人材と協力しながら宿を運営している」と現状を語った。
地域を支える“インフラ”としての宿
対談では、宿泊施設が地域社会の中で果たしている役割についても議論された。
山田会長は、「旅館やホテルは観光客を受け入れるだけではなく、地域を支える社会インフラの役割も担っている」と説明。災害発生時には被災者や支援関係者の受け入れ施設として機能してきたことを紹介し、「地域に必要とされる存在であり続けることが大切」と語った。
また、三重県鳥羽市で旅館「吉田屋 和光」を営む吉田副会長は、「人口約1万6千人の鳥羽市に年間約160万人が宿泊する」と紹介し、「観光業は地域経済を支える基幹産業。宿泊業が地域の雇用や消費を支え、地域全体を元気にしている」と話した。
宿泊施設は観光客と地域をつなぐ接点でもあり、地域文化や食、伝統を発信する役割を担っていることも強調した。

AIやユニバーサルツーリズムへの挑戦
JKKでは、時代の変化に対応するための新たな取り組みも進めている。
野澤氏は、ChatGPTなど生成AIを活用した勉強会や、外国人従業員向け研修、障害者への理解を深める「アイサポーター」制度への取り組みを紹介。「宿泊業界もテクノロジーを活用しながら変化していく必要がある。新しい知識を学び続けることが大切」と語った。

また、今後はユニバーサルツーリズムやインバウンド対応など、多様な旅行者を受け入れるための環境整備にも力を入れていく考えを示した。
最後に山崎氏は学生たちに向けて、「観光業や宿泊業は、人の喜びを自分の喜びにできる人に向いている仕事」と呼びかけ、「宿は地域のショーケースであり、人との出会いや交流が価値を生み出す場所」とその魅力を伝えた。
観光産業の担い手不足が課題となる中、現場で活躍する女性経営者たちのリアルな経験談に、学生たちは熱心に耳を傾けていた。
取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通