国土交通省は9月4日、「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」「建設分野におけるフィジカルAI戦略」の中間とりまとめを公表した。AIを「現場で働く人の能力を拡張させ、生産性向上を加速する基盤」と位置付け、直轄事務所などでのAI活用、産学官によるデータ連携、建設現場へのフィジカルAI導入を3本柱に掲げた。担い手不足やインフラ老朽化、災害対応などの課題を背景に、人とAIが協働する次世代のインフラ現場を目指す。
方針は、8月26日に開いた第13回インフラ分野のDX推進本部で策定した。国交省は2024年に「i-Construction 2.0」をまとめ、ICT施工やデータ連携、施工管理のデジタル化を通じた建設現場のオートメーション化を進めてきた。今回、生成AIやロボティクスの急速な進展を受け、AIの実装をインフラ政策の次の段階として具体化する。
「AIで人を置き換える」ではなく能力を拡張
AI実装の基本姿勢では、単なる省人化や既存業務の代替を目的とせず、AIによって現場で働く人の能力を拡張する考えを打ち出した。
国交省は、インフラの計画、設計、施工、維持管理などでは、気象や地形、地質など現場ごとに条件が異なる「一品生産」であり、屋外環境の不確実性も高いと指摘する。発注者、元請け、下請け、専門工事会社など多くの事業者が関わるため、データも分散しやすい。こうした特性を踏まえ、汎用AIだけでなく、建設分野の専門知識や現場データを学習した「バーティカルAI」と、現実空間で認識・判断・行動する「フィジカルAI」を組み合わせる。
最終的な価値判断や意思決定、住民・社会への説明責任は人が担い、AIの動作を継続的に監督する「Human-in-the-Loop」の考え方も重視する。熟練技術者の経験や暗黙知をデータ化し、AIを通じて若手や次世代へ継承することも狙う。
直轄現場、データ連携、フィジカルAIの3本柱
AI実装に向けては、①直轄事務所などの現場でのAI徹底活用、②産学官協働によるAIデータ連携、③現場へのフィジカルAIなどの導入――の3本柱を設定した。
直轄事務所では、文書作成や情報検索などに使う汎用AIに加え、設計照査、積算支援、監督・検査などインフラ業務に特化したAIを活用する。
施工現場では、発注者が持つ基準・規格値と、受注者が計測した出来形データの照合をAIが支援する「AI臨場」の導入環境を整備。現地での立ち会い頻度を減らし、監督・検査の効率化につなげる。
直轄現場で得られた知見は、地方自治体や中小企業にも展開し、インフラ分野全体へAI利用を広げる。
建設現場のフィジカルAI、8分野を重点化
フィジカルAIは、センサーなどを通じて現実の環境を認識し、AIが状況を推論・判断したうえで、建設機械やロボットなどを動かすシステムを指す。国交省は、建設現場の担い手不足や危険作業の削減、技能継承に活用できるとみている。
今回の中間とりまとめでは、成果を早期に得られる可能性や社会的な必要性、AI学習用データを蓄積できる環境などを踏まえ、次の8分野を重点対象に選定した。
- 機械施工(掘削、運搬、敷き均し、積み込みなど)
- 人力技能作業(鉄筋、型枠、現場補助など)
- 現場内小運搬
- 構造物点検
- 河川・道路などの巡視・点検
- 除草、除雪、清掃
- 災害調査
- 災害復旧(土砂撤去、整地、道路啓開など)
施工計画の立案や作業手順の指示、異常検出、優先度の判定なども含め、単独のロボットを導入するだけでなく、複数の機械やシステムを連携させて現場全体を最適化する活用を想定する。
「i-Construction 2.0」では2040年度までに建設現場の省人化3割、生産性1.5倍を目標としており、フィジカルAIもその実現を支える技術として位置付ける。
2030年ごろの成果を見据え、産学官コンソーシアム
開発・実装では、2030年ごろまでの短期的な成果を見据えた現場実証と、2040年ごろを想定した中長期の研究開発を並行して進める。
総合建設会社や専門工事会社、建設機械メーカー、建設コンサルタント、測量会社に加え、AI開発企業、スタートアップ、大学・研究機関、行政などで構成する産学官コンソーシアムを今後設置。優先度の高いテーマごとにプロジェクトチームを設け、現場ニーズと技術シーズを結び付けながら開発、実証、標準化を進める。参加者には公募も活用する。
土木研究所や国土技術政策総合研究所のDX実験フィールド、民間の試験場、実際の施工現場などを活用し、多様な条件で継続的に実証する。その成果を性能評価や安全設計、インターフェースなどの標準化、技術基準の整備へつなげる。
PDF中心の技術資料も「AIが読める形」に
AI活用の前提となるデータ基盤も見直す。設計図書や報告書、点群データなどについて、PDF主体だった納品形態を改め、AIが検索・参照・学習しやすい構造化データへの移行を検討する。
共通仕様書や出来形管理基準、品質管理基準などもMarkdownやHTML形式などに構造化し、BIM/CIMやMCPなどを使って、設計から施工、維持管理までのデータをAIが横断的に活用できる環境を整える。
先行策として国交省は9月、「土木工事共通仕様書(案)」について、従来のPDFに加え、図表の意味などをAIが認識しやすいJSON-LDを追加したHTML形式で公開した。PDFで起きやすい文章の分断や図表の誤認識などを抑え、AI検索の精度向上につなげる。
国交省は今後、直轄現場での実証を重ねながら、AI活用を自治体や中小建設事業者にも横展開する。建設機械の自律化だけでなく、監督・検査、技術継承、災害対応まで含めた業務プロセスそのものを見直し、人とAIが協働するインフラ現場への転換を進める。