“地域間交流拡大”を強力に推し進め、地域の活性化に向けた課題解決に取り組む地域連携研究所(北前船交流拡大機構の兄弟組織)は、「地域間交流」をテーマに観光交流プロジェクトを全国で展開している。各会員(地方自治体・民間企業など)は今、どのような取り組みを行い、何を目指しているのか。今回は、日本海に突き出す男鹿半島に位置し、なまはげ文化やジオパークの雄大な景観、豊かな食文化を有する秋田県男鹿市の菅原広二市長に、男鹿ならではの魅力と地域の強み、「ホテル木下 秋田男鹿駅前」の開業を契機とした滞在型観光への転換、官民連携による地域づくり、北前船を通じた地域間連携について伺った。(取材は8月24日にオンラインで、聞き手はツーリズムメディアサービス代表・長木利通)

【海上交易が育んだ、開かれた半島・男鹿】
――男鹿市の魅力と、男鹿ならではの強みをお聞かせください。
男鹿市は、秋田県の中央部から日本海に突き出した男鹿半島にあります。全国23の半島振興対策実施地域のうち、唯一、一つの自治体だけで構成されている地域です。ジオパークに代表される美しい景観、おいしい食、そして何といっても、なまはげの文化があります。
私は「逆さ日本地図」が好きです。地図を逆さにすると日本海が中央に見え、そこに男鹿半島がぽつんと突き出しています。男鹿は古くから海上交易が盛んな土地でした。縄文時代には、この周辺で採れた天然アスファルトが北東北や北海道へ運ばれ、接着や補修に使われたといわれています。古代には渤海の使節が訪れ、中世には日本有数の規模を誇る脇本城が築かれました。
さまざまな地域の人々が行き交ってきた歴史があるからこそ、男鹿の人には明るく社交的な気質があるのではないでしょうか。
地球規模で見ると、男鹿は北緯40度に位置し、ニューヨークやマドリード、北京などと同じ緯度でつながっています。ぜひ男鹿を訪れ、その魅力に触れていただきたいです。

【北前船の縁が結んだ、悲願の駅前ホテル】
――「ホテル木下 秋田男鹿駅前」の誘致から開業までの経緯を教えてください。
木下グループの木下直哉社長兼グループC.E.O.と最初にお会いしたのは、大館市で開かれた北前船寄港地フォーラムでした。その後、コロナ禍に木下グループのPCR検査センターが男鹿市民文化会館に開設されたことを契機に、交流が一気に深まりました。
交流を重ねる中で、木下社長が「これほど素晴らしいところにホテルがないのはおかしい。私がホテルをつくりましょう」と言ってくれました。私は宿泊需要を心配しましたが、「需要も私がつくります」とまで言っていただき、まさに願ったりかなったりの申し出でした。
私は企業誘致の際、「男鹿市には財政的な余裕はありませんが、住民への対応や県、国との橋渡しはしっかり担います」と伝えています。今回も建設用地の紹介をはじめ、施設整備への補助金や雇用奨励金、固定資産税の課税免除など、条例に基づく支援を行いました。
2026年3月5日に開業したホテルには、観光だけでなく、産業基盤を支える役割も期待しています。これまでは男鹿でイベントを開いても、参加者は宿泊せずに秋田市へ戻っていました。企業関係者も同様です。駅前にホテルができたことで、男鹿に人をとどめ、観光と産業の両方を支える基盤が整いました。

【未知の魅力を滞在価値へ、観光で地域に好循環】
――ホテル開業を、滞在時間や市内周遊の拡大にどうつなげますか。
男鹿の魅力は、まだまだ未知数です。私自身も知らないような場所がありますが、環境整備が十分ではなく、観光地として紹介できる段階にないところも少なくありません。
ホテル木下 秋田男鹿駅前の開業は、半島内に点在する既存のホテルや旅館にも良い影響を与えると考えています。連泊しながら別の地域や宿泊施設にも足を運ぶなど、観光客の選択肢や周遊の幅が広がることを期待しています。
私は、観光は人を幸せにすることが最も分かりやすく表れる産業だと思っています。訪れた人に幸せになってもらい、その姿を見た地域の人も幸せになる。また、宿泊や飲食、交通、物産など、さまざまな分野に効果が広がる総合産業でもあります。
ホテル開業を契機に、地域資源を生かしたアクティビティや滞在型コンテンツを、観光事業者や関連事業者と一緒につくりたい。それがホテルや既存の宿泊施設、地域産業の活性化につながる好循環を生み出していきます。
【体験と物語で磨き、世界に届ける男鹿の魅力】
――今後、特に磨き上げたい観光資源や体験を教えてください。
体験型観光では、まずサイクリングです。「あきた男鹿半島なまはげライド」には、元F1ドライバーで現在はプロサイクリングチームを運営する片山右京さんを迎え、台湾からの誘客にも取り組んでいます。トレッキングをはじめ、男鹿にはまだ掘り起こせる体験が数多くあります。
寒風山や入道崎、ゴジラ岩などの自然景観に加え、脇本城跡もさらに活用できる場所です。私が特に薦めたいのは「滝の頭湧水」です。男鹿市の水道水源にもなっている天然の湧水で、ペットボトルの水にも負けないほどおいしい。地域の日常に根差した資源も、男鹿ならではの体験として届けていきます。
日本海に沈む夕日や、寒風山から眺める朝日も、宿泊するからこそ出会える景色です。滞在型観光を広げる上で、大きな魅力になります。
イベントでは「男鹿日本海花火」があります。大曲の花火が日本一のナンバーワンだとすれば、男鹿の花火は、ナンバーワンでなくともオンリーワンです。最初から最後まで一つの物語として構成された、男鹿ならではの創造性があります。また、地元の若者たちが育ててきた「OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL」も、男鹿を代表する催しです。

そして何といっても「なまはげ柴灯(せど)まつり」です。雪の中、松明を掲げたなまはげが山から下り、再び山へ帰る姿は、まるで神が現れたかのような光景です。山へ帰るなまはげに宮司が二礼二拍手一礼すると、国内外の観客も一斉に同じ動作をします。なまはげ文化が伝えるのは、「誰も見ていなくても悪いことをしない」「誠実に生きる」という精神です。今後はその本質を世界に届けてまいります。
このほか、「全国男鹿駅伝競走大会」や、市民の手でつくり上げる「日本海メロンマラソン」もあります。ホテル開業によって宿泊の受け皿が広がったことを生かし、多彩なイベントをリピーターの獲得につなげていきます。

【滞在型観光の鍵を握る交通アクセス】
――男鹿市の発展に向けた課題を、どう捉えていますか。
観光面で特に心配しているのは交通アクセスです。本来なら、交通環境を整えてから「男鹿へお越しください」と呼びかけるのが理想かもしれません。
しかし、まず多くの方に訪れていただくことで移動需要が生まれ、交通アクセスの改善にもつながると考えています。市としても、訪れる人が市内を移動しやすい環境づくりに取り組んでいきます。
【困りごとを仕事に変え、官民連携で地域に光】
――地域課題を事業化するため、行政にはどのような役割が求められますか。
私は日頃から、「仕事は困ったところにある」と言っています。地域の困りごとを解決する仕事は、人を幸せにし、感謝されます。行政だけでは解決できない課題に民間企業の力を生かすことが大切です。
木下社長は「日の当たらないところに光を当てたい」という思いを持たれています。今回のホテルも、そうした利他の心から男鹿に建設してくれたのだと受け止めています。
市の役割は、企業を誘致して終わりではありません。ホテルが持続的に発展できるよう、周辺環境の整備や誘客を通じて後押ししていきます。また、地域の課題や事業機会を企業に伝え、行政や商工会、金融機関などを結び付ける役割も担います。
ホテル開業を契機に、男鹿では飲食店の出店が増え、住宅や福祉の分野でも進出に関心を示す事業者が出てきました。木下グループが得意とするエンターテインメントをはじめ、ホテル以外の分野でも連携にはさまざまな可能性があります。企業や地域の人たちとともに、社会課題の解決を仕事にする新しい産業文化を築いていきます。
【洋上風力が生む人の流れを、観光と地域経済へ】
――洋上風力など新産業の人の流れを、観光や地域経済にどうつなげますか。
2024年に船川港の港湾計画が27年ぶりに改訂され、半島防災に加え、洋上風力発電を支える港としての重要性が高まっています。
洋上風力発電は、建設後も長期にわたってオペレーション・アンド・メンテナンス(O&M)が必要です。船川港がその拠点となり、将来的には浮体式洋上風力発電にも対応できる港へ発展することを期待しています。
人材育成拠点「風と海の学校 あきた」も開設され、国内外から研修や見学に訪れる人が増えています。私自身、ここまで注目されるとは想像していませんでした。
こうした人の流れを一時的な訪問で終わらせず、ホテルへの宿泊や市内での飲食、観光、地域との交流につなげることが重要です。ホテルや企業の進出を契機に、空き店舗を活用した飲食店の開業も進み、地域で働く人も増えています。
洋上風力以外でも、旧野石小学校を活用したパックご飯工場やクエの仲間で大型高級魚「タマカイ」などの陸上養殖、廃校を活用したAIデータセンターの計画など、新たな動きが生まれています。農業、水産業、エネルギー、情報産業を、食や見学、体験、宿泊と結び付け、観光との相乗効果を生み出していきたいです。

【点を線に、小さくても輝く地域をつなぐ北前船】
――北前船のネットワークを、今後どのように生かしますか。
男鹿市で北前船寄港地フォーラムを2度開催していただいたことに、改めて感謝しています。フォーラムを通じて木下社長と知り合い、多くの自治体や企業とのネットワークが生まれました。そのつながりが、ホテル開業という具体的な成果に結び付いたと受け止めています。
北前船寄港地フォーラムは、地方と地方を直接つなぐ取り組みです。それぞれの地域の魅力という「点」を「線」で結び、小さくてもきらりと輝く地域同士をつなぐネットワークだと思っています。
木下グループの進出をきっかけに、男鹿が「地方でもこのように活性化できる」という一つのモデルになれればと思います。「端っこの男鹿」が良くなれば地方が良くなり、地方が良くなれば日本全体が良くなる。そのようなメッセージを発信していきたいと考えています。
現時点で具体的な新規事業が決まっているわけではありません。しかし、観光は男鹿市だけで完結するものではなく、秋田県内や山形県酒田市、青森県の鰺ヶ沢町、深浦町など、日本海側の地域との連携が必要です。
これからは広域観光の時代です。日本海側、さらには東北全体へ交流を広げ、地域間を行き来する人の流れをつくっていきたいと思っています。
【「一人の百歩より百人の一歩」で築くオール男鹿】
――ホテル開業を起点に、どのような男鹿市を目指しますか。
男鹿にとって、何といっても大切なのは観光です。多くの人に男鹿の魅力を知ってもらうことが、地域の人たちの誇りやシビックプライドの醸成につながります。「自分たちが暮らす男鹿は素晴らしい」と、市民が実感できる地域にしたいと考えています。
私がいつも呼びかけているのは、「オール男鹿」で取り組むことです。「一人の百歩より百人の一歩」という言葉があります。一部の人だけが進むのではなく、市民や企業、行政など、地域に関わる全ての人がスクラムを組み、当事者意識を持って一歩ずつ前へ進んでいく。まずは自分たちの足元を見つめ、できることから行動することが大切です。
木下グループの進出を契機に、さまざまな企業が男鹿を訪れるようになりました。異なる企業文化や産業文化を持つ人たちとの交流を通じて、私たち自身の考え方も磨き上げ、新たな産業文化を築いていきたいと思っています。
この魅力ある男鹿を子や孫、その先の世代に残すことが、今を生きる私たちの役割です。男鹿の素晴らしさを多くの人に伝え、市民一人ひとりが誇りを持って生きられる地域を目指します。
【寒風山から船川の夜へ、市長が薦める男鹿一泊二日】
――最後に、初めて男鹿を訪れる人に、一泊二日のプランを薦めていただけますでしょうか。
まず訪れていただきたいのが寒風山です。山頂から360度のパノラマを眺めれば、海の向こうに思いをはせた北前船の男たちのロマンを感じられると思います。男鹿半島の北側と南側を見渡し、洋上風力発電の広がりも一望できます。

なまはげ館と男鹿真山伝承館も外せません。時間があれば、ホッキョクグマの子どもが人気を集めている男鹿水族館GAOにも立ち寄っていただきたいですね。
男鹿半島は地質学の宝庫です。八望台や入道崎、「日本のアマルフィ」を思わせる西海岸、鵜ノ崎海岸などを巡れば、日本海がつくり出した多彩な景観を楽しめます。
食では、熱した石を木桶に入れ、新鮮な魚介を豪快に煮込む男鹿名物の石焼料理を味わってください。男鹿で水揚げされた新鮮な魚もおすすめです。
夜は船川地区で、「稲とアガベ」が手がけるクラフトサケと料理を楽しんでいただきたいですね。景観や文化だけでなく、食と酒、地域の人との交流まで含めて、一泊二日の男鹿を満喫してください。

※サムネイルは、寒風山(菅原市長撮影)。
聞き手 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通