立正大学地球環境科学部はこのほど、ネパール・中国国境付近で8月に発生した大規模土石流災害について、地球観測衛星「Landsat-9」の画像を使った緊急解析を実施した。氷河湖の決壊ではなく、急斜面に位置する氷河末端部の大規模崩落が起点となった可能性が高いとみている。現地に入りにくい高山地域でも、衛星リモートセンシングによって災害の規模や発生源、流下経路を早期に把握できることを示した。
衛星画像で最大幅約1kmの流下跡を確認
解析に用いたのは、災害発生当日の8月26日午前4時47分(UTC)に撮像された衛星画像だ。氷河末端部の一部が大きく消失し、下流へ向かって最大幅約1kmに達する明瞭な流下跡を確認した。
消失した範囲は約1.9平方kmに及び、標高約5,180mから約3,970mまで、高度差約1,200m、奥行き約1,800mの領域で顕著な地形変化を計測した。数値は8月28日時点の衛星画像に基づく概算速報で、今後修正される可能性がある。
氷河湖決壊とは異なる発生過程を推定
現地では、土石流の直接的な原因となるような大規模な氷河湖が確認されなかった。このため、氷河湖決壊洪水(GLOF)とは異なり、急斜面上の氷河末端部が不安定化した「岩屑・氷混合型の大規模崩落」と推定している。
氷河氷に加え、周囲の岩盤や大量の岩屑を巻き込んで崩落し、急峻な谷を高速で流下したとする過程が、衛星画像で確認した地形変化と最も整合的だという。今回の土石流は、典型的な山間部の地滑りや、それに伴う土砂ダム形成を起点とする現象とは異なる可能性が高い。
立ち入り困難な山岳災害の把握に活用
解析を担当した永井裕人准教授は、立正大学地球環境科学部地理学科に所属し、氷雪学、地理情報科学、衛星リモートセンシングを専門とする。JAXAなどで地球観測衛星データを活用し、世界の雪氷環境変動や自然災害リスクの研究、災害緊急観測に携わってきた。
永井准教授は、衛星リモートセンシングについて、立ち入りやアクセスが難しい山岳地域で、現象の規模や発生源、被害範囲を把握するために有効な手段だと説明する。一方、今回の結果は災害直後の衛星画像に基づく暫定的な速報値であり、今後はより詳しい観測によるメカニズムの解明が求められるとしている。