国土交通省は9月4日、2026年度「『交通空白』解消パイロット・プロジェクト」の第2弾として、北海道、鳥取県米子市、大阪府池田市、兵庫県三木市、広島県広島市の計5事業を採択した。福祉・教育・観光などが保有する輸送資源の共同利用、住宅団地再生とモビリティの一体化、複数バス事業者による共同経営などを実証・検討し、全国で活用できる交通空白解消のモデルづくりを進める。
国交省は2024年11月に「『交通空白』解消・官民連携プラットフォーム」を設立。先進的な技術や官民連携による取り組みをパイロット・プロジェクトとして具体化し、地域ごとの課題や対応手順、事業化ノウハウを全国へ横展開することを目指している。今回は「複数分野と連携した共同化・協業化」「都道府県主導の体制構築」「住宅団地再生」「共同経営の推進・高度化」の4テーマで事業を選定した。
米子市、福祉・教育の送迎車75台を地域交通へ
鳥取県米子市では、「地域輸送資源フル活用/地域施設送迎のリソースシェア推進事業」を実施する。自動車学校や学童保育、通信制高校、福祉・医療施設を運営する3法人18施設が保有する計75台の送迎車両を題材に、施設ごとに行われている送迎を共同化。移動に困る住民を町丁字単位で分析し、家族による子どもや高齢者の送迎負担の軽減、就労時間、世帯所得、学習・体験機会などへの波及効果を測定する。
将来的には、共同送迎で生じた余剰車両や運転手を施設利用者以外の一般住民の移動にも活用する公共ライドシェアを検討。既存の路線バスやタクシーと競合しない形で地域公共交通へ組み込み、境港市や日吉津村、南部町、伯耆町など周辺地域への展開も視野に入れる。
北海道、教育・福祉・観光の「輸送資源」を全道で調査
北海道は、道内にあるスクールバスや福祉施設の送迎、観光関連の移動手段などを横断的に調査する「北海道輸送資源フル活用推進事業」を進める。
道内では運転手不足による路線の休廃止や減便が相次ぎ、2026年度の調査では「交通空白」が261地区に上り、前年度から66地区増加した。今回、教育、福祉、観光など各分野が持つ車両や運転手を可視化し、市町村をまたいで共同利用できるものや、市町村内で効率化できる資源を分析する。
全道14地域の地域公共交通活性化協議会を活用し、複数市町村による具体的な共同利用策を検討。例えばスクールバスや福祉バスの車両・運転手を、利用していない時間帯に別用途で共同利用する仕組みなどを想定する。北海道本庁の交通政策部門だけでなく、観光、医療・福祉、教育部門も連携する。
大阪・池田市、AIオンデマンド交通で「団地再生」
大阪府池田市では、1970年代に造成された伏尾台をモデルに、住宅団地再生と地域交通を一体化する。伏尾台は人口約4600人、約2200世帯の丘陵地にある住宅団地で、高齢化率は約47%。坂道や階段が多く、公共交通への依存が高まる一方、運転手不足などによる路線バスの減便・撤退リスクを抱えている。
池田市、KDDI、阪急阪神ホールディングス、ローソンなどが官民共創で参画。阪急バスの利用実績や人流データ、住民アンケートなどから需要を分析し、既存福祉バスのAIオンデマンド化や、民間車両を活用する共助型モビリティを検討する。
阪急バス営業所跡地を活用した地域交流・生活サービス拠点「FUSHIO TERRACE」をモビリティハブとして位置付け、周辺交通との接続も設計する。2027年度の実証運行や事業化、その先の自動運転への段階的な移行を見据え、全国のオールドニュータウンへ展開できるモデルを構築する。
三木市、住宅団地の「行きたい場所」と交通を一体で検討
兵庫県三木市の緑が丘・青山ネオポリスでは、多世代交流施設「HITOTOKIMIKI」を核としたアクセス改善を検討する。同団地は1971年に入居を開始し、2026年3月時点で人口1万4157人、6634世帯。高齢化率は緑が丘地区で約39%、青山地区で約34%に達し、買い物や通院、地域交流に伴う移動が課題となっている。
2026年5月に開設したHITOTOKIMIKIは、多世代交流や相談、生活支援の拠点となっているが、施設前にはバス停がなく、最寄りのバス停も運行本数が限られる。
事業では住民の移動ニーズを分析した上で、交通とまちづくりを一体化した計画を策定。バス停位置の再編などによるHITOTOKIMIKIへのアクセス確保について、三木市、交通事業者、住民が参加して合意形成を進める。将来的には「地域住宅団地再生事業計画」への発展も目指す。
広島市、バス8社の「共同経営」へ運賃プールを検証
広島市では、複数の乗合バス事業者による共同経営スキームの確立に取り組む。対象となるのは、広島電鉄、広島バス、広島交通、芸陽バス、備北交通、JRバス中国、エイチ・ディー西広島、フォーブルの8社。利用者減少や運転手不足が進む中、都心部では複数社の路線が重複する一方、郊外では赤字路線の維持が課題となっている。
今回のケーススタディでは、重複路線のフィーダー化や等間隔運行などを想定し、各社の運賃収入をいったんまとめて分配する「運賃プール制」を検証する。運行距離や運行時間などに基づく複数の収入配分方法をシミュレーションし、独占禁止法特例法上の課題も整理する。
資料では、重複路線でダイヤを調整して運行コストを削減し、運賃収入をプールした上で運行回数などに応じて各社へ配分することで、一部事業者の収入減を補い、郊外の赤字路線を維持するイメージも示した。2027年度以降、一部路線への運賃プール制導入を予定する。
「交通空白」を交通分野だけで解決しないモデルへ
今回の5事業に共通するのは、路線バスやタクシーを単独で増やすのではなく、地域にすでに存在する車両や人材、施設、データを組み合わせる点だ。
福祉施設や学校の送迎車、住宅団地の生活拠点、民間企業が持つ人流データ、複数バス会社の運行資源などを地域交通と結び付けることで、限られた人員や車両を有効活用する。国交省は5事業から課題解決の手順や事業スキームを整理し、「交通空白」対策のロールモデルとして全国への展開を図る。